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【紗耶香視点】紗耶香の怒り
しおりを挟むガシャン!ガシャン!ガシャン!
「はぁ………はぁ………はぁ………」
某、クラブ。紗耶香がオーナーを勤める店だ。そのVIPルームで紗耶香は暴れていた。
「オーナー……」
「……………何!」
「……か、会長からお電話が………」
「…………」
「っ!」
受話器を持って渡しに来るスタッフの手に、紗耶香の爪が引っ掛かる。長い爪にマニキュアを塗っていて、スタッフの手の皮膚が傷付いても知らぬ振りだ。
「…………はい、お祖父様」
『如何だったね?律也君とデートの予定はつけれたか?紗耶香』
「……お祖父様……悔しい……律也さん結婚したわ……」
『何だと!何処の雌豚に取られた!』
雌豚と言う、白河会長。
「割烹料亭のおさない、ていう店の娘よ」
『……何だと!今すぐ取引取消せ!』
「………駄目よ……もう既にやってたわ………でも、律也さんに手を打たれたの……義理両親の店に手を出すなら、業務提携はしないと………」
『………やりおるな……頭がキレる……紗耶香は暫し大人しくしておれ』
「嫌よ!………駒が勝手に動くもの!」
駒は泉と晃司の事だ。
『駒も飼い馴らせんのか、紗耶香』
「!………違うわよ!私に服従するような性格じゃないのよ!」
『それを出来て、後継者になるのだ……紗耶香……お前の父も出来ぬ事をやれる者こそ儂の後継者として認めると言うのに情けない………あの小僧とその雌豚に監視を付ける……遅いかもしれぬがな………』
プッ、と通話が切れ、紗耶香は取り乱し受話器を投げ壊した。
「くっ!」
髪を振り乱し、清楚な服装を着ていた姿に鬼の様な形相。汗でメイクも崩れている。
「オ、オーナー………オープンしますが……」
「…………VIPルームは使用禁止」
「は、はい……片付け致しましょうか……」
「そんなもん、後にしてくれる!」
「ひっ!」
従業員が、紗耶香に怯えながらVIPルームを逃げ出した。
♫•*¨*•.¸¸♪✧
「…………はい…紗耶香よ」
スマートフォンは壊してないようで、テーブルの上に置いてあったスマートフォンを手に取る。そのままソファに腰掛け、テーブルに足を投げ出した。
才女そうな見た目と裏腹な行動の紗耶香。これで、よく律也と結婚しようと思うのが不思議だ。
「………そう、取引再開させたのね…………誹謗中傷なんか流したら直ぐに私がやらせた、て思われるじゃないの!アンタ馬鹿?………指示出す迄待機して」
ポン、とソファの上にスマートフォンを軽く投げ落とす。それだけそのスマートフォンは大事に扱う紗耶香。VIPルームの物が壊れた惨状とは全く真逆だ。
天井を仰ぎ、額に腕を置く。何やら考えてはいるようだが、傍から見れば途方に暮れるか眠っているように静寂閑雅だ。
誰も居ないVIPルームの外では騒がしい声と音楽。紗耶香がやらかしたVIPルームの惨状と、綺麗なスマートフォンと似ている。
「お~お~、やらかしたな紗耶香嬢」
「…………人払いしておいてくれる?今誰とも話したくないの」
「そんな事言うなよ、紗耶香」
ズカズカと、ガラの悪い青年が1人だけ入室してくる。数人連れてはいたが、その青年は他の者を追い払った。
紗耶香の隣に座り、肩を抱く青年。
「紗耶香のライバルの女の元カレが下に来てたぞ」
「………晃司?」
「そう………なんでも、また警戒されてんのか、警備員が見つけると追い払われる、て言うんで、警察に手を回して欲しいってよ」
「大人しくしてろ、て言ったのに……」
「そんなにいい女なら、食いたいねぇ」
「出来るならどうぞ」
「何だよ、出来るならって」
「律也さんと結婚したって」
「…………ははは……スピード婚じゃん!確かめたのか?戸籍」
「律也さんだもの、用意周到よ………あの女の親の割烹料亭……守る為に結婚したんでしょ、きっと」
青年は煙草に火を着け、煙を吐くと煙草を紗耶香の口に入れた。
「どうせ、今日は会えないんだろ?律也って奴と」
「…………ふ~っ……ニオイ染み付くじゃないの……」
煙草を吸い慣れているのか、肺の奥に迄吸い込み、煙を吐く紗耶香。灰皿は何処にも見当たらず、仕方なくなのかガラステーブルの上に落とす。
「で?諦めんの?」
「諦めさせてくれると思う?お祖父様が」
「思わね………あの爺さん癖モンだし」
「…………裕司………ねぇ、とりあえず駒の女の排除だけ頼むわ……聞き出したかった情報は聞き出せたし」
「了解………男は?」
「あっちはまだ残しとく………臆病者だし泉の姿を見掛けなくなったら大人しくなるでしょ」
「あくどいねぇ、紗耶香」
「…………そういう生き方しか教わってない………裕司もそうでしょ?」
「…………まぁな……光なんて味わった事ねぇよ」
この裕司という男、歳は30歳前後ぐらいだ。ガラの悪い風貌は真っ当な仕事には就いてはいないだろうと思われる。
光を知らない裕司は闇で生きる事を決めた人間だった。
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