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律也の元カノ
しおりを挟む律也は閉店時間を超えて迄、居座るつもりは無かったので、早々に食べてマンションへ帰って行った。
「羽美」
「何?」
「お前、あの男と付き合ってるんじゃないだろうな」
「…………あの男、て?係長の事?」
部屋に戻ろうと羽美は階段を上がる所で、航に止められた。
「他に誰が居る」
「私に好きな人が出来ちゃいけないの?」
「お前を幸せに出来る奴か如何かは俺が見極める、て言ってんだ!」
「………前から挨拶には来たい、て言ってたの!それがたまたま今日になったのは、私が倒れちゃっただけで、予定には無かったんだから、そういう話になる訳ないじゃない!………好きなんだもん……好きでいてくれてるし……」
「名前偽ってか?」
「そ、それは私も知らなかったけど、係長の両親離婚してるし、お兄さんは会社の常務だから、同じ名字じゃ紛らわしかったんじゃないの?理由なんて知らないよ!今日初めて知ったし、付き合ってまだ一週間なんだから」
「一週間………?」
―――あ、なんか怪しい雰囲気……逃げよ
パタパタと階段を上がって行く羽美を追い掛ける航。
「羽美!お前週末、あの男ん所に泊まったんじゃないだろうな!」
「………煩い!……私だっていい歳なんだよ?彼氏出来れば、スる事スるわよ!」
「なっ!」
「もう構わないで!馬鹿!」
部屋に入り、ドアに背を凭れて蹲る羽美。
―――言い過ぎた……職場に乗り込むなんて事しなきゃいいけど……とりあえず、連絡しておこうかな………あ、いや……何て伝えたらいいか考えまとまらない……
結局、結論が出ないまま、羽美は律也にこの日、家まで送ってくれた事だけをメールに入れた。
『噂に惑わされるなよ、おやすみ』
深夜、律也から来た返信に気が付いたのは、羽美が起きてからだった。
❆❊❆❊❆❊❆
週末の金曜日の夕方。律也と時間差で会社を出て、渡された合鍵でマンションに先に行っておいて、と言われた羽美。
会社を出て、会社前で彷徨く女性を見かけ、その女性を気にしていたら、その女性と目が合い声を掛けられてしまった。
「すいません、この会社の人?」
「そうですが……」
「ここに、速水 律也、て人居るでしょ?呼び出してくれない?」
「………は……速水に何用でしょう?」
―――律也さんの本名を知っている人は限られてるんじゃ……
本社勤務の者で律也の本名を知っている人間がどれだけ居るか分からないが、今この目の前の女性は、律也の見合い相手の女性ではないのは分かる。
「私?律也の彼女」
「…………は?」
「なぁに?もしかして、こっちに女出来た訳?仕方ないなぁ……ちょっとしたお遊びで他の男と寝たぐらいで、別の女作るなんて……ご褒美させてあげなきゃ戻ってこないのかしら……」
律也が名古屋から赴任して、もう直ぐ2ヶ月だ。2ヶ月音沙汰無いなら、普通は諦めたりしないものではないだろうか。
羽美と付き合う前の事は分からないが、付き合う様になってからは、羽美以外の女の影は無い筈だった。
「まぁ、いいや、呼んで来てもらえない?」
「まだ仕事中の筈ですから、連絡先ご存知なら連絡入れては如何ですか?」
「それがねぇ………連絡先変えちゃったのか、連絡付かなくて、こうして名古屋から来ちゃったんだよねぇ」
連絡付かないから、遠方にわざわざ来る程、好きであったなら何故浮気したのか、羽美には理解出来ない。
「………待っていれば来ると思います……失礼しますね」
「ちょっと待って!ね、喧嘩になると困るから、間に入ってくれない?」
羽美は、女に手首を掴まれる。
「嫌です!何故、私がそんな事………」
「何してる!その手を離せ!」
聞き覚えのあり過ぎる声が聞こえ、羽美のその腕を握る力強い手。
「律也!」
「…………何で此処に居る?」
「会いに来たよ!律也!」
律也に抱き着こうとする女性の頭を抑え阻止する律也。
「別れた筈だ」
「だから、それは一時の気の迷いなんだってば!やっぱり律也がいいのよ、私」
「………もう、忘れろよ……先に裏切ったのはそっちだろ」
「ごめんってば!」
「今は、本気に付き合ってる女が居るんだよ……名古屋に帰れ」
律也は羽美の腕を放す事なく、会社から離れた。
「律………係長………」
「黙っとけ………マンション着いたら話す」
後ろを振り向くと、まだ彼女が居て、律也ではなく羽美を睨み付けていた。
「っ!」
「後ろも振り向くな………アイツに目を付けられるぞ」
「………もう、無理かと思います……睨まれたので」
「…………くっ!」
「え?…………んっん……」
いきなり抱き締められ、顎を持ち上げられた途端、路上でキスを律也にされた羽美。会社から出て来る見知った社員達は、律也と付き合っている女が羽美だと知り、恐らく翌週には噂の的になるだろう。それだけ、会社に近い場所での行為だったのだ。
もう隠せなくなってしまった。
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