4 / 46
車内キス
しおりを挟む「んんっ!」
口が閉じられないキスをされ、だらしなく唾液が口の中に溢れ、口から溢れていても、森本は離さない。
羽美は左手でドアを開けたのだが、その左手は森本が掴み、羽美の右手だけで森本を押し戻そうとしてもビクともせず、腹立たしそうに森本のスーツのジャケットを握り締めていた。
力を弱めたら、森本の思う壺だと思った羽美は、足で抵抗を見せようとバタつかせ始めるものの、狭い車内では履いていたスカートも捲れてしまい、森本を誘ってしまうのでは、と止めてしまう。
ガコン!
「!」
一瞬、森本の手が離れ、羽美の左手は自由にはなったが、助手席のシートを倒されて、ドアノブから手が遠ざかっていく。
執拗に貪られる唇は、クチュクチュと唾液が混ざり合い、森本の舌と指は、羽美が知らなかった感じる場所を攻め始めた。口内から漏れる息遣いでの喘ぎ声と、左手の親指と残された指は耳を愛撫をしていて分かってしまったようだ。
何分、森本と唇を重ねているのかも、分からないぐらい長いキスをされ、漸く離れた所で、森本は羽美の顔を見て満足そうだった。
「羽美が下手?……そんな唆る顔した女が下手なものか………今すぐ突っ込みたいぐらい溶けた顔してるぞ、羽美」
「…………え……?」
森本は、羽美の口に入れていた親指を舐め、身体を起こすとシートを戻した。
「その顔、可愛いぞ羽美……セックスしたくなる」
「………んな!」
「………如何だ?前言撤回するなら、このまま俺のマンションかホテルに直行するが?」
「き、今日は嫌だって言いましたよね!」
「そういう前言撤回はいつでも大歓迎だ……だが、今日は羽美の言う通りにしてやろう……その代わり、金曜夜から泊まりのつもりでいろよ?羽美……週末は逃さない」
「っ!」
「………返事は?」
「………拒否権は?」
「無い」
「…………は……い……」
森本が好きではある羽美だが、羽美を尊重する言葉がある様で無いのが、素直に喜べない。
森本は羽美の髪を指に絡め、キスを落とすと、もう一言付け加えた。
「髪は纏めるより、下ろした方が俺好みだから、明日からは結うなよ」
「え!……結ばないと仕事に邪魔な事があるので……」
「それは、何とか考えろ………離れ難くなるから、俺はもう帰る……羽美も家に入れ」
「…………あ、はい……おやすみなさい…そして今日はごちそうさまでした」
今度は、ドアを開けるのを阻止される事もなく降りると、森本は窓を開けて『おやすみ」と言って車を発進させたのだった。
❊❆❊❆❊❆❊
「………ただいま……と……」
と、言った所で、店が忙しいのか家の方には誰も居ない。
「着替えて手伝おうかな」
部屋へと入り、着替えて店に出て顔を出した羽美。割烹料理店の為、ホールに出るには着物でなければならないので、洗い物をするぐらいだ。
「ただいま」
「おう、お帰り羽美」
「洗い物手伝うね」
「頼む」
父はカウンター客に接客をしながら料理を作っていて手が話せないのか、目線だけ向けた。羽美の兄、航が羽美と話す。
「羽美、お帰りなさい」
「お母さん、ただいま……裏手伝うね」
「ありがとうね……食器沢山今から下がってくるから助かるわ」
「お客様は?あとどれぐらい?」
「3組かな」
洗い物の量からして忙しかったか分かる。山積みの食器を軽く手洗いし、食洗機に掛けながら、次々と洗い物を熟す羽美。
「羽美、飯食ったか?」
「うん、食べてくるってお母さんには伝えておいたけど?」
「じゃ、コレ要らないな?」
「あ!治部煮!………た、食べたい……」
「余ったから、明日の朝にでも食べろ」
「無くなるじゃん……お兄ちゃんこの後食べるんでしょ?」
「残しておいてやるよ、洗いもんの給金な」
「うわっ、安っ」
「手間掛けてんだよ、安くねぇよ」
航が治部煮を片手に遅めの夕飯の分の膳に乗せ、次々とこの日の仕込みで作り置きした料理を並べていく。保存が効く物は翌日に回し、この日食べなければ悪くなる料理を、まかないとして食べるのだ。アルバイトの子達は皆食べ盛りでほぼ残らないが、食費ロスを考えればありがたい。
「さ、バイト達は食べたら上がってくれよ」
「「「はい、頂きます!」」」
料理人は父と兄だけ、他は料理学校に通う学生で修行に来ている子や大学生だ。
店の閉店は夜11時、閉店時間30分前には注文もストップするので、飲食店で働く者の食事は遅い時間だ。
「お兄ちゃん、賞味期限切れになるお酒ある?」
「飲んで来たんだろ?お前」
航は、電子煙草を取り出し吹かすと、厨房の片付けを始める。カウンターの調理台はあら方終わったのだろう。
「まだ飲み足りない」
「酒はねぇよ」
「残念……」
「毎日毎日聞くなよ、俺に」
「お父さんには頼めないもん」
「親父なんて、客に奢って貰ってるぜ」
「お兄ちゃんもじゃん」
「美味い料理作ってるからな」
他愛のない会話をしていると、店は閉店になり、父も母も厨房へと来る。
「羽美、仕事で疲れてるだろ?早く休めよ」
「お父さん、今日も1日お疲れ様」
前掛けを外し、店の厨房で食事を始める父。そして、アルバイトの子達と話し込む母。アルバイトの子達は既にまかないを食べ終え、帰る頃だった。
「大将、航さん、女将さん、お疲れ様でした」
「はい、また明日も頼むわね」
これが羽美の家族達。和気藹々とした雰囲気のこの実家が好きで、いい年齢なのに家族と同居している羽美だった。
1
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
【完結】政略の価値も無い婚約者を捨てたら幸せになった
miniko
恋愛
セシリアの婚約者は卒業パーティーで浮気相手の女をエスコートした。
優秀な婿を手に入れる為だと、婚約者の愚行を我慢してきたセシリアだったが、堂々と浮気する男が優秀であるはずがないと気付き婚約破棄をすることに。
婚約破棄で傷物となったセシリアの新しい縁談の相手は意外な人物で・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる