2 / 46
デート
しおりを挟むその日の業務が終わったが、森本は他の社員と外回りに出ていた為、食事の約束をした手前、羽美は社内に残っていた。
残業もする社員のサポートをしつつ、森本から連絡を待つ。
「!」
PCの横に羽美のスマートフォンに通知が入る。
『駅前にある郵便ポストのあるコンビニで待つ』
―――郵便ポストのあるコンビニって……道路挟んだ反対側じゃないの……
駅を利用する社員達も多く、目立つからだろう。駅側にもコンビニエンスストアはあるが、コンビニエンスストア内のポストの事は指してはいないだろう。
森本は煙草を吸う。その彼が喫煙出来る場所であるならば、駅周辺は禁煙区域であるので、駅側のコンビニエンスストアは灰皿が設置していないからだ。
「お先に失礼します」
「小山内さん、ありがとうございました!」
「いえ、時間潰しにお手伝いした事なので」
元々残業して迄手伝う事ではないのだが、手持ち無沙汰で資料作成を手伝っていただけだった羽美は、荷物をまとめ会社を出る。
会社から徒歩5分程に駅がある。
行き交う人混みに紛れ、会社帰りや接待や飲み会、帰路に着く者の中で、羽美は森本が待つコンビニエンスストアへと歩く。
森本は、コンビニエンスストアの壁に凭れ、煙草を吹かしていた。
「係長、すいませんお待たせしました」
「忙しかったか?」
「あ、いえ……高田さんの契約書作成の手伝いしていただけで、そんなには」
「………高田?……あぁ、今日取ってきた案件のか……羽美が手伝ってたなら完璧な契約書になってないとな」
「今の所不備は無かったですよ」
煙草の火を吸い殻を灰皿に押し付け消すと、背中を壁から離した。
「乗れ………車で移動する」
「車?」
目の前に停車している車の助手席のドアを開け羽美を誘う。
「車通勤でした?」
「いや、一旦帰ってから車で来た」
直帰だった森本が社用車ではない車の助手席のドアを開けたので自家用だろう。綺麗に洗車されて中も掃除が行き届いているのは、森本が仕事で几帳面な所から想像出来る。
「……し、失礼します」
フレグランスもさっぱりした香りの車内だが、煙草のニオイが染み付いてはいない。
羽美が車に乗ると、森本も運転席に乗り込む。
「何か食いたい物あるか?」
「お酒飲まなくても良さげな物なら」
「羽美は下戸じゃなかっただろ?」
「係長が飲めないのに、私が飲む訳にはいかないじゃないですか」
「気にする事は無いぞ?帰ってから飲むからな」
森本はスマートフォンで店を探しながら、車のエンジンを掛けた。
「それでも、私だけ飲むのは気が引けますよ」
「…………」
「……?何か?」
羽美の態度が気になったのか、森本がスマートフォンの操作を止めて、羽美の顔を覗き込む。
「………そういう所がタイプなんだよなぁ……謙虚で」
そう言うと、羽美の髪を解く森本。
「係長!?」
「今からは、上司と部下じゃない……役職呼びは止めろ、いいな?羽美」
「………え!無理ですよ!急には……」
「………へぇ~」
「っ!」
森本は明るいコンビニエンスストアの駐車場で、気にも止めずに羽美の頬を指で擦る。
「『律也』」
「………し、知ってます!」
「律也と呼ばないと、キスするぞ?」
「っ!」
「………5………4………3……」
顔が羽美に近付いて来ると、コンビニエンスストアの利用客もチラホラと見て行く。それも嫌だが、『言わされる』感じも堪らなく嫌なのに、恥ずかしさから羽美は森本の名を言ってしまった。
「り………律也………さん!」
「………ちっ………飯……この店如何だ?」
―――今、舌打ちした?係長が?
職場では紳士的で通している森本が、舌打ちする姿等、初めて見て羽美は驚きを隠せないまま、森本からスマートフォンで見せられた店を確認する。
「豆腐料理?」
「日本酒もなかなかいいの揃えてるぞ?」
羽美はよく社食の付け合せで豆腐があれば豆腐を食べている。実際に好きだし、ヘルシーな料理が多いので、太りやすい羽美にはいい食材だ。
「ご存知でした?私が豆腐が好きなの」
「羽美の上司になって、1ヶ月見てれば好みは多少分かる………豆腐じゃなくても良いが?」
「………いえ、この店私もお気に入りなので」
「………じゃあ、決まりだな………」
ナビゲーションを設定し、車を発車させた森本。運転も丁寧でミラーを確認しつつ、羽美に話掛けた。
「仕事以外の敬語は擽ったいな……止めれないか?」
「………ですが、係……いえ……律也さんは歳上ですし……」
「2歳か3歳ぐらいだろ?セックス中も敬語でいるつもりか?」
「……セッ………な、なんて事言うんですか!」
「………俺、シないつもりは全くないから」
羽美は決して、森本と『付き合う』とは言ってはいない。告白も羽美が森本へ好意を持っていて、森本も好きになれそうな相手というだけで、交際するという流れに持って行かれてしまい、羽美はそれを断る事も出来ないのは、森本が好きな人であるからだ。はっきり好きだとは言われていないし、羽美も言ってはいない。
駐車場に車を停め、羽美と森本は車から降りると、目当ての店のビルへと入る。
「羽美ちゃん、いらっしゃい」
「女将さん、席空いてますか?」
「今日は2人ね?奥の席空いてるよ」
「よく来るんだな、この店」
「はい、ランチにも利用しますし、個室もあるので接待で使わせて貰ったりしますよ」
奥に座敷があり、そこへ案内された羽美と森本は、女将からおしぼりを受取り、手を拭き取りながら、メニューを確認する。
「羽美ちゃん、つまみはいつものにするかい?」
「あ、はい!厚焼き卵焼きと、おからで……あと今日は飲まないので、ウーロン茶を2つ……とりあえずそれで」
「ウーロン茶は1つで良いです、彼女にはいつも飲む飲み物を」
「おや、彼氏さんは飲めないの?」
「か、彼……じ……」
「俺は車なんで」
『彼氏さん』と女将に言われ、羽美は訂正しようとしたが、森本は言葉を被せて来る。
「そうなの……じゃあ仕方ないわね……少々お待ち下さいね」
女将が厨房へ下がると、森本はメニューに目を通す羽美の手を握ると、指が絡まっていく。
「か、係ち……」
「『律也』」
「っ!………律也……さ……ん……」
その指は羽美の指の間をやらしくなぞる。触れるか触れないか、微妙な距離間の指の手付きは愛撫をされているかの様に優しい。
「如何した?顔が赤いが?まだ酒も飲んでないぞ?」
「手………手付きがやらしいんですよ!」
手を引っ込め様としても、捕まれる手は強く、指に触れる指の触れ方がゾクゾクとした羽美だった。
10
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜
当麻月菜
恋愛
「さっそくだけれど、ここに座ってスカートをめくりあげて」
「はい!?」
諸般の事情で寄る辺の無い身の上になったファルナは、街で見かけた求人広告を頼りに面接を受け、とある医師のメイドになった。
ただこの医者──グリジットは、顔は良いけれど夜のお薬を開発するいかがわしい医者だった。しかも元国王陛下だった。
ファルナに与えられたお仕事は、昼はメイド(でもお仕事はほとんどナシ)で夜は治験(こっちがメイン)。
治験と言う名の大義名分の下、淫らなアレコレをしちゃう元国王陛下とメイドの、すれ違ったり、じれじれしたりする一線を越えるか超えないか微妙な夜のおはなし。
※ 2021/04/08 タイトル変更しました。
※ ただただ私(作者)がえっちい話を書きたかっただけなので、設定はふわっふわです。お許しください。
※ R18シーンには☆があります。ご注意ください。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
性処理係ちゃんの1日 ♡星安学園の肉便器♡
高井りな
恋愛
ここ、星安学園は山奥にある由緒正しき男子校である。
ただ特例として毎年一人、特待生枠で女子生徒が入学できる。しかも、学費は全て免除。山奥なので学生はみんな寮生活なのだが生活費も全て免除。
そんな夢のような条件に惹かれた岬ありさだったがそれが間違いだったことに気づく。
……星安学園の女子特待生枠は表向きの建前で、実際は学園全体の性処理係だ。
ひたすら主人公の女の子が犯され続けます。基本ずっと嫌がっていますが悲壮感はそんなにないアホエロです。無理だと思ったらすぐにブラウザバックお願いします。
【R18】転生先のハレンチな世界で閨授業を受けて性感帯を増やしていかなければいけなくなった件
yori
恋愛
【番外編も随時公開していきます】
性感帯の開発箇所が多ければ多いほど、結婚に有利になるハレンチな世界へ転生してしまった侯爵家令嬢メリア。
メイドや執事、高級娼館の講師から閨授業を受けることになって……。
◇予告無しにえちえちしますのでご注意ください
◇恋愛に発展するまで時間がかかります
◇初めはGL表現がありますが、基本はNL、一応女性向け
◇不特定多数の人と関係を持つことになります
◇キーワードに苦手なものがあればご注意ください
ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり
◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる