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嫉妬って醜いんだ

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 王族主催の夜会が行われた。
 実質上、ラスウェルの婚約者発表の夜会だ。その相手がバルカスと婚約していたイルマだという事で、真相を知らない貴族達は、興味津々で、イルマを好奇の目で見ている。
 イルマというと、バルカスが居なくなった事で、話し掛けられる相手には必ず対応していた。

「てっきり、私達はバルカス殿下と結婚されるとばかり思っておりましたが、解消されてひと悶着あったからか、ラスウェル殿下も重い腰を上げられたのでしょうか?」
「元々、ラスウェル殿下ともご婚約されていたのかさえ、忘れておりましたよ……バルカス殿下といつもご一緒でしたからな」
「ラスウェル殿下はご多忙過ぎて、王城でもなかなかお会い出来なかったものですから……」

 ―――野次馬ばかり………1歩も動けませんわ……ラスウェル殿下も、令嬢方に囲まれ………な、何?あの接近の仕方……

 夜会が始まってから、ダンスをラスウェルと踊った後、次々とダンスの申し出と共に、話もしたい、と足を止られて結局ラスウェルの傍から離されてしまってから数10分。踊り疲れて話疲れて、喉が乾いているのに、飲む時間さえ与えられず、バルカスと参加していた夜会以上の忙しさに駆られていた。
 そんな苦労をしながら時折ラスウェルに目を配れば、イルマより露出度が高いドレス姿の令嬢達が、胸をラスウェルの腕に押し付けていたのだ。
 この夜会に合わせ、ラスウェルは髪をバッサリと切ったので、印象がガラリと変わったラスウェルへのアピール攻撃が凄かった。

 ―――あれだけ長かった髪を何故切ったのか……長髪も似合ってらしたのに……

 印象が違い過ぎて、ムカムカしているイルマ。元々、美男子ではあったものの、サウスローズ国では男性には珍しく長髪にしていたラスウェル。それをさっぱりとした短髪ししたものだから、髪色が違うがバルカスと瓜ふたつだったのだ。バルカスに恋をしていた令嬢もラスウェルへ乗り換えた様子で、見知った令嬢もラスウェルにべったりで面白くないイルマ。

「喉が乾きましたわ………飲み物を取りに行かせてもらっても宜しいでしょうか?」
「それなら、私が取りに行きましょう」

 ―――この方、ずっと離れて下さらない……バルカス殿下と一緒に参加していた時も、必ず近くに居らしたわ……

「ありがとうございます………では、シャンパンを……」

 イルマはその男が苦手だった為、離れてもらうと、直ぐに自分からその場を離れた。

「わたくし、やはり自分で取りに行きますわ………失礼しますわね……」

 何とか男達の輪から離れようとするが、男達はついて来る。

「ついて来ないで下さいませ………1人で行きますわ」

 久々に冷酷そうな表情を見せて、男達を牽制したイルマは、シャンパンを侍従から受け取ると、ジャイロを見つけ話掛けた。ジャイロは婚約者の令嬢と談話しているのを邪魔してしまうだろうが、その令嬢はイルマの友人の1人だ。

「ジャイロ兄様」
「………おぉ、ラスウェル殿下とは一緒じゃないのか?」
「イルマ様、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます、レイシェス様」
「…………あぁ……ラスウェル殿下も困ってるな……」
「ダンスの後、それぞれ囲まれてしまいましたの」
「ラスウェル殿下の印象、変わりましたわね……ジャイロ様、何故短髪にされたのかご存知ですか?」

 ワイングラスの中を飲み干したジャイロは、イルマにニタニタと笑う。

「知ってるが、それはイルマがラスウェル殿下に聞けばいい………俺達臣下は、ただその事実だけ知ればいい」
「あら、意味深です事」
「気になりますわ、ジャイロ兄様」
「…………願掛けだったんだと……」
「「願掛け?」」
「その意味はイルマが知ればいい………レイシェスは知らなくていい内容だから、ね?君には俺が居るでしょ?」
「……………まぁ……ジャイロ様ってば……」
「仲睦まじくてらっしゃるわね、ジャイロ兄様、レイシェス様」

 『願掛け』が何か分からないが、目の前に居るジャイロとレイシェスのイチャイチャ振りが目のやり場に困ってしまったイルマ。

「イルマもラスウェル殿下とイチャついてるじゃないか」
「し、してません!!………多分……」
「…………ジャイロ様、イルマ様と2人で少し話させてもらっても宜しいかしら?」
「………分かった……テラスで話しておいで、人が来ない様にしておくから」
「イルマ様……お話しましょ」
「えぇ………レイシェス様」

 テラスに出る令嬢2人。人が居ないのを確認すると、ちょっとだけ砕けた話し方をレイシェスはする。

「…………もう、疲れてしまうわ、淑女らしい話し方は……」
「レイシェス様ってば……クスクス……」
「イルマ様とお話したかったのよ?バルカス殿下との婚約破棄から会えなくなってしまったから……」
「わたくしも、レイシェス様とお話したかったわ………だって、わたくしが不慣れな色恋の話を相談したかったのだもの……」
「やっぱり?………ジャイロ様から少し聞いていたから気になっていたの………あれだけバルカス殿下との事を手紙でさえ文句言ってみえたのに、ラスウェル殿下との事を言わなくなったのだから、本当にお好きな方に出会ったのかしら、と思ってワクワクしてたの」
「す、好きって………わたくしは………よく分からないわ……」
「ふふふ……今のイルマ様のお顔、恋してる顔よ?」

 ラスウェルを思い出すと、顔を赤らめるイルマ。その表情でレイシェスは確信したのだろう。

「ジャイロ様から、ラスウェル殿下がイルマ様を好きだと聞いてはいたの………バルカス殿下にいつもイルマ様が奪われていく様を、ラスウェル様は苦しんでらっしゃる、と……だから、この婚約は私にとっても嬉しくて仕方ないわ………だって、やっと私もジャイロ様と結婚出来そうだし」
「え?そうなの?」
「『願掛け』………私、知ってるの……意味は分からないけど、ラスウェル殿下が髪を切ったのは願いが叶ったから………その願いが叶ったら、結婚しよう、とジャイロ様から言われていたし………」
「本当に?…………レイシェス様もおめでとう!」
「あ、でも正式にプロポーズされてないから、先に結婚式挙げるのはイルマ様ね、きっと」
「プロポーズ………」

 そういえば、プロポーズ等ラスウェルからはされていないイルマ。婚約したらもうプロポーズはされないと、必要も無いと思っていた。
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