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移住決定

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「では、お預かりします」
「娘を頼みます」

 翌日、マシュリーはいち早くモルディア皇国へ入る事になった。マシュリー付きの侍女2人を連れ、6日程の馬車旅だった。ジェルバ国の国境を越えると直ぐにモルディア皇国ではあるが、モルディア皇国の首都は国土の中心部にあり、途中の街を経由しながら移動するという。マシュリーはジェルバ国の馬車に乗り、それを警護する様に、ルカスとマークが騎乗で並走する。
 移民を決めた民達は、モルディア皇国から何回かに分け、馬車が送られ移動する様に手配をするとルカスからジェルバ国王に伝わり、民達に通達をされた。中には、亡くなった家族の墓がある民は離れたくないが移住を決めた者や、離れられないという者もやはり居り、近くの街に住みたいと決めた者も居た。それはそれで検討する必要がある為、一旦はツェツェリア自治区へ移動をお願いしている。
 モルディア皇国では、名前と居住地の登録という事をしており、これを登録する事により、民の税金徴収をし、医療費等の保険が受けられる様になったり、子供達に学問を受けれる事が出来るという。移民であろうと、元奴隷であろうと、登録さえしていれば、モルディア皇国の国民と同等な権利を受けられるという。
 その説明もジェルバ国内に居る内に説明を頼み、ルカスとマークはマシュリーを連れジェルバ国を出たのだ。

「マシュリーを送ってきたら、またこちらにも度々伺います………コルセアの使者が来る予想は2週間後、私は姿を使者に見せる事は無いとは思いますが、完全に移住が終わる迄は、コルセアやアガルタには知られない様にしませんと、兵達は国民を安全に移動させられる可能性は落ちてしまいますから」
「我等も、悟られない様に細心の注意を払いましょう」
「出発するぞ!」

 それを見送る民達は、期待反面、恐怖心反面という半信半疑のままマシュリーを見送る。

「また、王女様に会えるだろうか………」
「王女様を信じよう………」
「…………皆さん……」

 馬車内に、民の不安そうな声が聞こえる。マシュリーも本心は半信半疑だからだ。馬車の窓から顔を出し、精一杯の笑顔を見せる事しか出来なかった。

「モルディア皇国で待ってますね」
「王女様~!!」
「マシュリー様~!!」

 国境の大門を出る迄、その声が飛ぶ。門が閉まっても、声は暫く続いた。

「………姫様……」
「…………ありがとう………泣いては駄目ね……」

 ハンカチを侍女から渡され、涙を拭う。宝石になる前に拭えば宝石にはならない為、目頭を押さえるマシュリー。今迄も人前で泣くのを我慢していたマシュリーは、侍女達の前でも極力見せない様にしていた。それがルカスと出会ってから、その我慢が限界を超えている。それを侍女達は見ていた。

「もし、姫様がモルディア皇国皇太子殿下との婚姻が意にそまぬ事であれば、陛下にお話なさいませ」
「アナ!それは、姫様が決める事よ!」
「でも、辛そうな姫様は見たくないもの!」
「…………アナ………エリス……わたくしは大丈夫よ……婚姻はまだ決まった訳ではないのよ?…………それに、わたくし………ルカス様を嫌ってはいないわ」
「…………そうなのですね、良かった……」
「良かった?何故そう思うの?アナ」

 侍女のアナがホッとした様に、肩を落とす。

「だって、姫様………未婚を通すと仰っていたので………私、姫様の幸せを願っておりますから」
「結婚が幸せと誰が言ったの?アナ…………私は姫様が結婚せずとも、幸せなら私は嬉しいわ」
「…………アナ、エリス………わたくしは民達の幸せを見れるなら幸せなの……それが近年感じられなくなってしまった事を嘆いているわ………それがわたくし一人では改善策が浮かばなかったのが悔しいの………そして、その手を差し伸べて頂けたルカス様やモルディア皇国のお気持ちが嬉しかった………まだ半信半疑ですけど………もし、その約束が、果たせなければ、わたくしはわたくしの命を断つわ………ツェツェリア族を好きな様にはさせない」
「姫様…………」
「…………お覚悟されておられたのですね……陛下や王妃様にはその事を………」
「…………えぇ、お話してあるわ……お父様は困ってらしたけど………覚悟があるならそうしろ、と………」

 ルカスが知らない、マシュリーの本音。そうならない事を侍女達は願いつつ、信じて裏切られる事が分れば、2人も後から追う決意迄したのは、馬車の中だけの話だった。
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