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返事

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「着けてくれてないんだな………」
「!!………あ、あれは……普段着けるような…………恐れ多くて………素敵なネックレスにして頂いて、あの宝石も喜んでいると思います!」

 ネックレスを昨夜着けられて、マシュリーは夢心地で、普段に着けるにも勿体無い気がして外していた。しかし、ルカスには見えないドレスのポケットに入れ、肌身離す事も出来ず持っていた。

「君は?」
「…………え?」
「君は喜んでない?」
「……………あ………あの………わたくし………如何したらいいか………分からず………」
「嫌なら捨てていい、と言ったが、もし今君が持っていて返す、と言うなら受け取る」
「…………持って………ます………」
「……………」

 ルカスは無言で掌を開く。乗せろ、という意味だろう。しかし、マシュリーは傷付けたくなくて、巾着に入れ持っていた。恐る恐る、ルカスの前に出す。巾着から出そうと手が震え、取り出しきる前に、ルカスから手を握られたマシュリー。その瞬間、ルカスはマシュリーを胸の中に収める。

「泣きそうな顔して返すなら、俺は手放すつもりはない…………俺の妻になれ」
「…………え………」

 泣きそうになっていたとは分からなかったマシュリー。たった数日でルカスはマシュリーの心に入っていた。頬を伝う涙で、マシュリーは自分の気持ちに気付いた。

「………ルカス様………わたくし……」
「…………うん?」
「………貴方の妻になれるのでしょうか……種族も違う…………のに………」
「同じ人間だ………気にしたら諦めるのか?諦めて幸せを逃すのか?自分の幸せも民の幸せも同じじゃないか?民が敬う君が幸せを得ようとしないのに、民が幸せになれるのか?」
「…………ひっく………うっ………」

 ルカスは腕に力を込め、抱き締めるとマシュリーの髪を撫でた。

「一目見て、君を妻にしたいと思ったのは本心だ………だから、君が今後降り掛かる困難があったとしても、共に受け入れ、共に乗り切るつもりでいる事を分かって欲しい」
「…………はい……」
「…………マシュリー……」

 ルカスはマシュリーの顎を持ち上げ、唇を重ねた。軽いキスではあったが、ルカスはそれ以上、まだ出来なかった。大事な物に触れる様な恐怖心さえあるルカス。今迄なら、そんな事さえ気にも止めた事はなかった男だったのだが、これが本気の恋だと分かった時点で無理だった。

「ル、ルカス様……」
「嫌だったか?」
「……………つ、妻にして頂くのなら………妻ならこういう事をするのは存じておりますから………」
「まだ序ノ口だけどな………」
『ル~カ~ス様~………そろそろいいですかね?マークが戻ってきてますが~』
「ちょっと待て」

 ルカスはマシュリーの手からネックレスを受け取り、また再び首に掛けた。

「普段使いにしててくれ…………いいぞ、入れ」
「やっとですか………待ちくたびれましたよ」
「そんなに時間は掛けてないぞ!」
「人間って生き物はですねぇ、恋するとあっという間に時間が過ぎ去るもんですが、待たされた人間は、その時間ってのは長いんですよぉ………分かります?ルカス様!」
「お前達のウザイ嫌味は要らん、ジェルバ国王からの返答は?」

 マークとレナードが入室すると、直ぐ様嫌味の横行が始まった。だが、ルカスへの報告は欠かさない。

「ジェルバ国王は、マシュリー様さえ良ければ避難させてくれ、とおっしゃいました」
「レナード、その様にモルディアには報告を…………部屋は、客間じゃないぞ、分かってるな?」
「……………お袋に突かれたら何て言い返します?」
「次期皇妃だと言っとけ」
「アンナ様には?」
「言うな…………俺から説明するから」
「分かりましたよ………じゃ、戻りますから」
「頼む」
 
 レナードは、自分の手荷物を持ち、部屋を出て行き、ルカスはマークとそのまま話込んでしまい、マシュリーは如何していいか分からなかった。

「あ、あの………わたくし失礼しますわね」
「マシュリー………侍女に君の愛用品をまとめさせておいてくれ」
「…………はい?」
「君は、近日中に俺とモルディアに行く」
「ルカス様!!マシュリー様の意見聞いてないですよ!!何決定事項にしてるんですか!」
「決定事項も何も、マシュリーは俺の妻にするんだから連れて行く」
「「………………」」

 何とも強引なルカスにマークは唖然とし、マシュリーは驚きを隠せない。

「あ、あのルカス様?ご説明をして頂いても宜しいですか?」
「マシュリー様、ルカス様は猪突猛進なんですよ………それを踏まえてご理解下さいね」
「おい………」

 マークは、コルセアの動向をマシュリーに話し、無理矢理避難させられないので、ジェルバ国王の了承を得た上で、マシュリー本人の意思を聞いてから、避難させよう、と決めていた、と話す。それが、ルカスの中では決定事項にしていた、という。

「ルカス様…………わたくしの意見を聞かず、勝手に決めないで下さいませ……まだ数日ありますし、お父様が移住を決めていらっしゃらない以上、わたくしはこの地を動きません!移住するなら皆と一緒です」
「マシュリー!!一番狙われているのは君なのに!!」
「だから何だと仰るのです?わたくしの幸せは民が幸せになる事………民がわたくしの幸せを願ってくれるなら、わたくしは共にその時間を分かち合いたいのです………ルカス様との事は二の次に考えます」
「プッ…………ルカス様の負け~」
「…………君も頑固だな」

 マシュリーの頑固さに、ルカスは困る様な顔もせず、微笑みを向けた。その微笑みでマシュリーの顔が赤くなる。

「…………ル、ルカス様も折れませんでしょう?………わ、わたくしの知らない所で、わたくしの事を決めたお返しですわ!」

 マシュリーはそう言うと、部屋を出て行ってしまった。だが、侍女に指示し、荷物をまとめさせていた事は、ルカスには知らせなかった。いつ出発してもいいように準備だけはしていたのである。
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