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 リリアーナを連れて戻れたグリードだが、ドラヴァール城へ着くや否や、騒がしい城内に嫌な予感しかしなかった。

「如何した!」
「あぁぁぁぁっ!グリード様ぁぁぁぁっ!大変でございます!大変なんです!」

 大変大変と連呼するだけでは分かりはしない。
 城に戻って来て捕まえた侍従では話にならず、そうかといってリリアーナを誰かに任したくはないグリードは、騒がしい方へと突き進んでいった。

「リリ…………すまないが、もう少し辛抱していてくれ」

 安心してグリードの腕の中に納まるリリアーナもこの騒ぎに尋常ではない雰囲気を感じ取っていた。

「何があったのかしら……」
「…………嫌な予感しかしないんだ………」
「グリード様!お戻りに!」
「ドラクロワ公爵!」
「お父様!」
「リ、リアナ………な、何故その様な………」
「リリの事は後で説明する!何があった!」
「…………先ずは、弁明させて下さい……」
「早く言ってくれ!」

 神妙な面持ちで、語るドラクロワ公爵に冗談等言える訳はなく、青褪めた顔色で続ける。

「警備は万全だったのです………あり得ない事が起きました………牢獄に居られたデューク様が…………何者かに刃物で刺され、お亡くなりに………」
「っ!」
「え!…………それは本当なのですか!お父様!」
「リアナ…………人の生死に冗談等言えるか?」
「…………そんな………デューク様が……」
「…………デュークは今何処に?」

 無表情でグリードは真っ直ぐに前を見据え、歯を食いしばっていた。

「…………牢獄から運び出され、医療室へ………陛下は牢獄に居られますが、お后様は医務室に居られます」
「ドラクロワ公爵」
「はっ………」
「リリを医務室へ連れて行ってくれ……私は牢獄へ向かう」
「…………御意」

 リリアーナも拘束具さえなければ、グリードについて行きたいのに、グリードは連れて行ってはくれない様だ。

「グリード!私も………」
「駄目だ!…………頼む……血生臭い場所には連れては行けない」
「…………グリード………」

 ドラクロワ公爵に預けられたリリアーナは、ドラクロワ公爵と話を始めた。

「お父様、デューク様が亡くなるなんて、私………信じたくありません」
「お強い方だったが、魔法抑制具を付けておられたからな………警備も牢獄の鍵も不可思議な事ばかりだ……」
「如何なっていたのですか?」
「…………騎士達は記憶が曖昧で、牢獄の鍵は盗まれてしまった」
「記憶が曖昧って………魔法の一種ですか?」
「…………魔法なのか如何か………それより、何故歩かないのだ?リアナ」
「…………拘束具が外れなくて………魔法も使えませんし………すいません」

 リリアーナが今、魔法が使えた所で、聖魔法しか使えないのと、攻撃魔法も使えないリリアーナが壊す事も出来ないだろう。

「原始的な方法で壊すしかないかもしれないな」
「壊せますかね?」
「分からん」

 過去、魔法具を取り扱ってきた者でも分からない新製品の魔法具はいつから出回っていたのかも、ドラクロワ公爵はまだ調べられてはいないのだ。
 お手上げ状態だと思われる。
 リリアーナが、ドラクロワ公爵と医務室に来ると、デュークの亡骸に縋りつく后とシャルロッテが泣く声が響いていた。

「うっ………うぅっ………」
「お兄様…………っえっぐっ……ひっく……」
「お后様………シャル……」
「…………リアナ………」
「っ!…………お義姉様~!ごめんなさい!お兄様がごめんなさい!」

 デュークがリリアーナを連れ去った事は、もう伝わっていた様だ。
 リリアーナはデュークに連れ去られていても、死を望んでいた訳ではない。
 一体、誰がデュークを殺害したのか、デュークを邪魔だと思った人間が誰なのだろうか、と考えてみるが、デュークには敵が多そうで、リリアーナには検討が付かない。

「お后様………念の為に、傷口を確認致します」
「っ!…………解剖をすると言うのですか?」
「……………無事、お返し致します」

 解剖するには意味がある。
 傷口に魔法残渣があるか如何か。
 不審な動きがデュークにあったか如何か。
 殺害した誰かなら逃げようとしたのか、しなかったのか、探せそうな物ならば、遺体でも探そうとしているのだろう。

「なりません!デュークをこれ以上愚弄するのは許しません!」

 后が泣いて、デュークの亡骸を守ろうと両手を広げる。
 それに真似てシャルロッテも反対側から守りを固める。

「お后様………愚弄する訳では……もしかしたら何かがデューク様から分かるかもしれぬのです」
「分かってます!…………それでも………この子が死しても虐げる様な行為…………わたくしは……」
「后よ」
「っ!…………陛下………デュークを守って下さいませ!」

 牢獄の検証を終えたのか、グリードが国王と医務室へと来る。

「…………調べて貰おう」
「へ、陛下!」

 苦しそうに声を絞り出して、目が赤く充血した国王も泣いたのだろう。
 国王は解剖を許可を出す。

「何故です!これ以上この子を辛い目に遭わせたくないですわ!」
「……………呪印を遺したかもしれん」
「……………え?」
「今わの際の言葉をデュークから聞き出すのだ」
「は、犯人が分かると?」
「……………そうだ」

 それを聞いた后は腕を下ろす。

「お母様………」
「シャル………調べて貰いましょう……身体は……綺麗に戻れるのですか?」
「……………お戻し致します」

 今わの際に、無念の死を受けた者は時々呪詛を残す事がある。
 その形跡がデュークの遺体の下で見つかったのだ。

「呪印?」
「牢獄でデュークが倒れた時、印を結んでいたんだそうだ………強い念だと、幾ら拘束で魔法が使えない状況でも、暴発に近い魔力を発する。死に近付いていたから暴発にはならかったが、床には残渣が残っていたよ」
「…………分かるといいな……」
「見つけるさ……絶対に……」

 幾ら、不幸な身の上の王子だったとしても、この国王夫妻や兄妹は、デュークを愛していた。
 全ては、差別の目を向けた者達からの心無い言葉で、デュークは闇に落ちて、最後迄救い出す事が出来ない、一生悲しみの中に生きる家族を見てしまったリリアーナだった。
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