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しおりを挟むハーヴェイやロブが一旦、城に戻り、防寒対策をして、再び北の大地へと向かう頃、牢獄で拘束されているデュークは国王からの尋問をさせられていた。
「すまぬが、2人きりにしてくれ」
「で、ですが陛下………」
「今となれば、親子の情は捨てる。国王として………いや、竜の王として、罪人に言わねばならぬ事があるのだ………他言無用の事の故、頼む」
魔法抑制の魔具を施した牢獄に、鉄柵、そしてデュークにも拘束具を付けられて、身動きも出来ず、魔法も使えない状態。
逃げられるとは思われないし、魔力が高いデューク相手には厳戒態勢は緩められはしない。
「…………分かりました……陛下もご警戒して下さい」
「分かっている………」
警護の騎士達は、声が聞こえない距離に離れても、姿は見える距離迄移動した。
「…………デューク……何故お前は竜の王に拘るのだ」
「…………父上……俺だって、竜になりたかったんです………兄上より優秀だったのに、何故選んで下さらなかった!」
「優秀?…………お前がグリードより勝るもの等何も無い」
「っ!」
「勘違いするな、デューク………竜の王である私の子の魔力は皆同等………お前が器用で、グリードは不器用だっただけで、使い熟すのがお前の方が早かっただけ………人間で使う時ならば、な」
魔力の比はグリードもデュークも大差無く、幼い頃の成長や環境で、差がある様にデュークは見えたのだろう。
捻くれた考え方を周囲から受け続け、自分と素直に認められなかっただけなのだ。
「…………人間と……竜……それが、兄上との差だと言うのですか!」
「…………竜になっている時は、人間で使える魔力の並ではない………人間とは違う魔法も多数使えるのだ………それが、国を守る切り札となる……この城が常に浮上しているのは、竜の力のおかげ………難攻不落の城として、歴代の竜の王の力が蓄積された魔法だ」
「俺には………無理だと言いたいのですか……」
「…………そうだ」
「…………くっ……」
「諦めてくれまいか?………グリードの地位を、そしてリアナの生命を………」
リリアーナ誘拐の罪で、デュークは罰せられる事は決まってしまった事だろうが、生命を取る事がなければ、デュークも刑は軽くなる筈なのだ。
「…………俺が竜の王に………父上の後継者になれない、という事は諦めてもいい……だが、兄上に子供が出来るのだけは許せないんだ!兄上が竜の王になったら、兄上の子は竜の王になれるじゃないか!俺は………俺は、それを黙って見ていたくないんだ!………あの女が俺から……兄上を奪った………俺が……どれだけ周囲から見下され、後援も得られず育ってきたか、父上だって知っている筈だ!…………絶望を……兄上にも味あわせてやる!………あの女さえ産まれて来なければ………兄上の番いに………ならなきゃ……」
「…………まさか………お前……リアナを……」
「っ!…………ち、違う!………ち……が……憎い………ん……だ……そうだ………きっと……」
デュークの様子で、愛情と憎悪が感じ取れた。
グリードの幼少期は臆病で、利発さも無かった。
その頃のグリードをデュークは覚えてはいない。
リリアーナに出会ったグリードはそれから強くなろうと努力し、デュークが憧れる兄になった。
冷遇されていくデュークをグリードは庇ってきた優しい面もあり、その兄を尊敬していた事で、自分にもっと優しくして欲しくて、慰めて甘えさせて欲しいと思っていたが、気付けばグリードは、自分より幼いリリアーナに夢中のグリードに嫌悪感を持ち、距離を置き始める。
デュークから見たリリアーナはまだ何も出来ない子供で、デューク同様に虐められ、城内で隠れてよく泣いていた。
それが、自分と重なって見えたデュークは、リリアーナが同族嫌悪の様に蔑んだのだ。
リリアーナへの憎悪を募らせ嫉妬し、思春期に入ったグリードの魔力暴走にリリアーナは如何する事も出来なかったのをデュークは見ている。
実際は、グリードがリリアーナを襲うのを懸念し、グリードがリリアーナを避けていたのだが、苦しんでいる兄を助けてやらない番い等要らない、と思ってその頃は特にリリアーナに対して冷たい態度をし続けた。
そして、ある日グリードの魔力暴走が止まり、リリアーナの姿が見えなくなった時、理由はデュークには教えられる事なく10年の歳月が経った。
その10年、城内で騒がしい程遭った、リリアーナへの虐めが無くなり、グリードとイチャつくリリアーナの姿や泣く姿を見られなくなった時、デュークの心はすっぽりと大きな穴が空いた様に思えてならなかったのだ。
会えば憎いと思いながら、会えないと寂しいという両極端の感情。
グリードはリリアーナを探そうともせず、常にお守りの様に持つ、リリアーナが下手なりに刺繍をしたハンカチ。
デュークにはそれさえも、リリアーナから貰った事もなければ、別れの挨拶も出来なかったのが悔しくて、1人でも探そう、と鍛錬と称し、各地に出向いては、魔力を研いていたのだ。
おかげで、グリードより強くなった、と思えて、見付からないリリアーナがもうグリードの前に現れなければ、始めから居なかったと思える様になり、グリードとの仲も幼少期の時の様に戻れるとさえ知った。
グリードより強くなった、とデュークの思い違いも、気が付かないのは無理な事で、10年の間、グリードは洗礼された力を蓄えたリリアーナから、魔力を戻す為に、制御出来る様になったのをデュークは知らないだけだった。
本当に、リリアーナが居なければ、子供時代に思い知らされた感情が沸き起こる事はなったのに、リリアーナが10年振りに現れた時、デュークは奈落の底に突き落とされた気持ちになっていた。
国王の一言で、走馬灯の様に思い出してくるデューク。
一方通行の感情の、行き先不明の先の見えない思いに、デュークはそれから何も言えなくなりブツブツとつぶやくだけだった。
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