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 訓練場では、ロブは呻き声を上げ、騎士達も救急の措置を始めた。

「治癒師も呼べ!傷が深い!」
「治癒は私が掛けます!」
「姉上、王太子后に場所を空けろ!」

 リリアーナとハーヴェイもロブに駆け寄り、ロブが切られた場所を処置の為、騎士服を脱がせてあった。

「っ!………ロブ………しっかりして!」
「思ったより脆い防御壁で、俺も思い切りやってしまったな………ふふふ……」

 傷を負わせたデュークは悪びれる様子等無い。
 たかが訓練中の事故、と処理するにはやり過ぎに思えた。

「デューク様!これは、総督に報告しますからね!同じ団長として見過ごすつもりもありませんから!」

 ハーヴェイの激も飛び、王子とではなく、同僚としての怒りをデュークに向けた。

として通すさ………ははははっ!」
「っ!…………デューク様……なんて事を……」

 リリアーナは医師の到着を待てず、治癒魔法を掛け続けているので、手を止める事が出来ないまでも、デュークを睨み付ける事を止めない。
 本来なら、医師の治療で傷の縫合した方が、治癒魔法に使う魔力も少なくなるのだが、医師が居ないと、魔法で傷を治さねばならない。
 治癒魔法も万能ではないのだ。
 医療の補填でしかない。
 痛みを和らげる程度の魔法しか使えない者が聖魔法者だった。
 しかし、リリアーナはその中でもズバ抜けた才能の持ち主。
 今迄、膨大の魔力のグリードの魔力をリリアーナの体内で預かっていたのだ。
 リリアーナの魔力でグリードの魔力を抑えつけられなければ、リリアーナが暴走しかねない。
 それを抑え込めていた以上、聖魔法の使い手としては最高値ではある。

「…………医師は……まだ来ない?」
「姉上………大丈夫ですか」
「傷…………が深い……の………」
「くっ…………まだ来ないのか!」

 重症な相手程、魔力を使う。
 リリアーナは魔力が枯渇し兼ねない傷のロブを何とか助けたかった。
 それには、医師の治療も欲しい。

「医師が来ました!」
「早く!診てくれ!」
「はぁっ………はぁっ………お、お………お待たせ……致しま………ゴホッゴホッ……」

 慌てて駆け付けてくれたのだ、と分かるが、それならば何故転移魔法を使って来させないのか、とリリアーナは言いたかったが、今はそんな事は言ってはいられない。
 医学的治療が今必要なロブに、早く処置をして欲しいのだ。

「先生!治癒魔法を掛けております!縫合を先に!」
「は、はい!」

 これで、リリアーナは医師の指示の元で、傷を塞いだ場所から魔法で治癒を掛ける事が出来そうで安堵した。
 ロブも、リリアーナの魔法で呼吸も落ち着いてきて、医師との協力を獲られたら生命の危機も脱せるだろう。
 
「デューク様、新人の騎士に何故ここ迄するのですか………」
「次期后を守れる男か如何かを見たかっただけだが?何が問題だ?弱い方が悪い」

 些かやり過ぎなこの手合わせに、ハーヴェイ率いる銀竜騎士団の騎士は、デューク率いる赤竜騎士団と睨み合いが始まった。

「そうだ!弱い方が悪い!」
「デューク様はドラヴァール国、最強の騎士だ!」
「えぇ、そうでしょうとも………銀竜騎士団の団長の俺と手合わせしても、俺は負けると思いますよ………」
「ハーヴェイ、そんな自信の無さなら辞すったらどうだ?」
「プッ………」
「ははははははっ!それは良い案ですね!デューク様!」

 赤竜騎士団の騎士達からは失笑が起きるが、ハーヴェイは何食わぬ顔で、笑みを溢して返す。

「実力差で団長は決まりませんよ………その事は不敬であろうとも、言わせて頂きます。処罰される事も視野に入れておいて下さい」
「処罰等なるものか………場が白けたな……赤竜騎士団!別の訓練をするぞ!」

 取り付くつもりもないデュークは、模倣剣を部下に押し付けると、訓練場から部下の騎士達と出ていった。
 王子という立場は、同僚のハーヴェイが言いたい事は言えない。
 悔しそうに、握り拳を作り、訓練場に寝そべるロブへ目線を向けた。

「如何ですか?」
「……………縫合に時間が掛かりますので……ですが、リリアーナ様の治癒魔法で、随分と助かってます」
「姉上、そんなに強い魔力を持っていたのですね」
「……………今は………話し掛けない……で………」

 集中力を途切れさせたら、例え医師が居ようともまだロブの身は危険だった。
 兎に角、傷を塞ぎ、生命力を注ぎ込み、回復させなければならない。
 リリアーナもこれ程の重症者を治癒する事等初めてで、只管治癒魔法をロブに掛ける事しか出来ないでいた。

「リリアーナ様!ロブの顔色が戻りつつあります!」
「……………頑張って………ロブ……」

 10年来の友人はいじめっ子で、リリアーナが孤児だと思われていた村人達の中でも、ロブはリリアーナを孤児だと揶揄っては笑っていたのをリリアーナは思い出す。
 それでも、いつしかロブはリリアーナに恋人になれ、結婚しろ、と言うようになった。
 大人になった今なら分かる。
 気になる異性に気を引きたかったのだ、と。
 それでも、リリアーナには暴力的な事はロブはしなかった。
 困っている時は助けてくれて、リリアーナも悪い人間だとはロブの事を思っていないからこそ助けたい。

「…………ゔっ………」
「ロブ!しっかり!」
「…………リ……ア……ナ………?」
「気が付いたぞ!ロブ!」
「動かすなよ!まだ傷口を縫っているんだからな!」

 リリアーナの治癒魔法が効き、ロブの回復が見えた時、心配そうにしていた銀竜騎士団の騎士達は歓声を挙げたのだった。
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