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しおりを挟む訓練場ではロブとデュークの手合わせを見たいが為、他の騎士達も興味があるのか、自分達の訓練の手を休め、目を向けていた。
「姉上も見に来たんですか?」
「ハーヴェイ………だって、ロブは私の護衛でしょう」
端にあるベンチに座り、今から始まる手合わせする2人から目線を外さないリリアーナ。
「心身共に未熟なロブに、デューク様と手合わせするのは早い気がしますけどね………未だ、剣に込めて素振りし続けるのさえ、完成していないんですから」
「まともな訓練だってしていないんじゃない?」
「してませんよ………騎士としてはまだまだ見習いですからね」
「それなのに、私の護衛にしたのはハーヴェイでしょ?」
「防御魔法は使える男だったんで、姉上の盾にはなります」
「その考え、嫌いだわ………」
まるで、ロブが捨て駒の様に聞こえる。
「ロブが言ったんですよ」
「…………え?」
「訳ありなのは感じていたから、友人として守ってやらないと、恋人にも頼まれてるし、少しでも傍に居てやりたい、と自分から志願しまして」
「…………リサ……」
「魔力感知は優れていますから、対魔法なら対応出来ると、グリード様も俺もその点、役に立ってくれる、と思ったからです。出来ない男なら、幾ら志願した所で却下してますよ」
「そうなんだ………評価はしてくれているのね」
「ロブより優れた感知能力を持つ男が入って来たら、入れ替えさせるかもしれませんけどね、ははっ!…………後はロブの成長次第です」
ハーヴェイと話をしている内に、剣を交えていたロブとデューク。
魔法抑制の防具をお互いに装着しているが、ロブは本気の様で、剣と魔法を駆使し、デュークと張り合っていた。
その一方のデュークはまるで赤子相手でもしているかの様子で、口角を上げてニヤ付きながら剣をロブに振り下ろしている。
「力量差半端無いじゃないのよ………大丈夫かしら、ロブは」
「…………デューク様も少し加減という物をして欲しいですよね……剣には魔力はまだ込めてる感じも無いですけど」
「これで、魔力なんて込められたら、大怪我しかねないわ………」
ロブに付き合って、デュークも魔法と剣との攻撃を分けてくれている様だが、ロブの剣術はデュークに追い付くのがやっとで、ロブは防戦一方だ。
「っく!…………クソッ!………ドヤッッ!」
ロブはデュークの剣を自分の剣で受け止めながら、上体を下げ片足を上げると、デュークの鳩尾に蹴りを入れ、身体を引き離す。
「ぐっ!………」
これには、素行の悪いロブの喧嘩慣れとも言えよう。
上品な場所で過ごしてきたデュークには予想出来なかった様だった。
「蹴りを入れるとはやるじゃないか………」
「平民なんで、殴り合い蹴り合いの喧嘩ぐらい、ダチとやってきましたからね、武器を使うよりずる賢い戦いのが性に合うんですよ」
「……………フッ……良いだろう……ならば、俺もそろそろ本気を出すとしよう………」
「……………むっ……や、ヤベッ………ち、ちょっと待てぇ!………ま、負けで良い!」
「勝負は付いて無い!」
ロブの目の前で、デュークは模倣剣ではあるが、その剣に魔力を込めて行くのが、リリアーナにもロブにも感知出来た。
その力は強大で、一太刀でも浴びれば、ロブも自分の魔力では防ぎきれないであろう魔力。
幾ら防御魔法に徹していたロブでも、それ以上に練り込まれた魔力には勝てはしない。
手加減していたのは分かっていても、たった一度のデュークが気に入らない反撃で、大怪我を負わされそうな一撃が来る事は明白だった。
「ロブ!受けずに逃げて!」
「姉上?それは騎士道に反しますよ」
「あんなの受けたら、タダでは済まないわ!ハーヴェイ!止めて!」
「え!………止めるって言われても間に合いませんよ!」
魔力の感知能力が無い物からすれば、デュークが練込んだ魔力の膨大さは分からないのだろう。
ただ、魔力が剣に集中した、としか気が付いてはいないのだ。
力量迄分かる者が少ないのは問題になるのでは、ともリリアーナは思う。
「デューク様!その一太刀は御勘弁を!」
ロブもデュークからの一撃を受けたくなくて、魔力で防御するより、機敏な動きで避けている。
「っ!…………や、やベェ!追い詰められた!」
ロブの避ける行動は、騎士達には臆病者だと罵られるが、防御魔法だけでは無事でいられない、と分かるロブには、それでも怪我をする、と直感があるのだ。
「どうやら、お前も感知能力に長けている様だ…………逃げた方が、怪我無く済むからな………だが、それではリリアーナは守れないぞ?」
「っ!」
惚れていた女であるリリアーナの名がデュークから出され、ロブは逃げるのを止めた。
「今は手合わせだ!上官が部下の生命迄取る事は許されるんですか!」
「事故で済ます」
「…………くっ!」
「護衛等…………邪魔だ………」
ロブとデュークの周りには、手合わせ中の邪魔になると思われ、他の騎士達も避けていた。
よって、この会話はロブとデュークの耳にしか入ってはいなかった。
ロブは咄嗟に身体を庇う様に、防御壁を纏うが、デュークの魔力に打ち破られ、胸を一太刀負わされた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
「ロブ!」
「ロブ!…………急いで医師を呼んで来い!」
「は、はい!」
リリアーナは立ち上がり、ロブに駆け寄り、ハーヴェイは部下に医師を呼びに命令を下した。
「ロブ!しっかりして!今手当てするから!」
「……………弱かったな、コイツ………」
「っ!…………デューク様!手抜きしなくて良いと言いましたが、怪我迄負わせる事は無かった筈です!貴方なら寸止めも出来た筈!勝負は貴方が模倣剣に魔力を込めた時点で、ロブは降参した筈ですよ!」
「そうでしたか?義姉上………クククッ……」
止める気も無かった様なデュークに怒りが沸き起こるリリアーナだが、今はロブの怪我の具合だ。
左肩から右腹迄切られた太刀筋から、血が止まらなかった。
「今………治癒魔法掛けるから!」
この場にリリアーナが居て幸いだった。
ロブの生命を繋ぎ止める事が出来るのだから。
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