上 下
19 / 43

18

しおりを挟む

 朝食を取り、グリードの執務室に来たリリアーナ。
 執務室には補佐官らしき臣下がグリードを待っていた。

「おはよう」
「おはようございます、グリード様」
「ゴドム伯爵、先日頼んでおいた事は仕分けてくれたのだろうか?」

 初老の男で、そのゴドム伯爵はリリアーナも知る人物だ。
 友人のサーシャの父である。

「リリアーナ様にグリード様の仕事を振り分ける、という事ですね、出来ておりますが、失礼ですがグリード様」
「何だ?」
「リリアーナ様は10年近く城で姿が見られておられず、国政の事をお任せしても良いのでしょうか………グリード様が請負っておられた業務の中でも、比較的、修習可能な物ばかりではありますが………」

 なかなか棘がある言葉である。
 ゴドム伯爵はリリアーナの父のドラクロワ公爵に対して冷たい態度を取る人間の1人で、その娘であるリリアーナに対しても、サーシャの友人という立場でなければ相手にもしないだろう、分かりきっている態度をリリアーナに見せている。

じゃないか………リリアーナは結婚式の準備もあるし、採決を急がせる仕事はまださせないつもりだし、母の補佐にも付いて貰わなければならない。いずれはドラヴァール国の后になるんだから、私の仕事の手伝いは量も責任も与えるつもりもない。それとも、出来ないのでは、とでも貴方は言うのか?」
「い、いえ………心配しておるのですよ、私は」
「心配するな、彼女の執務はこの部屋でして貰うから、問題があれば私が教える」

 ゴドム伯爵の心配は分かるが、リリアーナも今迄の叩き込んだ知識は覚えている。
 行ってもないのだから、文句ならリリアーナの仕事振りを見てから言えば良い筈だ。

「ゴドム伯爵、貴方にも臣下達にも、迷惑を掛けない様に、頑張りますわ………その仕事は何処にあるのかしら?」
「其方の机に、置いてございます」

 グリードの執務机とは少し離した、急誂えした様な机の上に置かれた書類の山。
 予め、この日からリリアーナが王太子の妻として、仕事を始めると分かっていたら、中古に見える机は用意しなかっただろう。

「もう少しマシな机は無かったのか?ゴドム伯爵」
「急な事だった為………城内の机で使ってなかった机を急遽お持ちした次第でして……勿論、リリアーナ様に別の執務室も用意する事になりましたから、其方の内装含め、其方で仕事をなさる時には、新品の物を用意する様に、と申してあります」
「3日前だったものね………私は机で仕事の良し悪しを決まるとは思ってないもの。効率良く出来るか如何か、でしょ」

 意地悪でその机を用意した、となればグリードも問題にしたかもしれないが、ゴドム伯爵は極当たり前な言葉で返すので、本音を隠したのか本当の事なのかは、いつかは分かるだろう。
 分かった所で、問題にもならないだろうが。

「リリが良いなら………私の机を使うか?」
「貴方は自分の机をそのまま使って………使いづらいと思ったら、其処のテーブルでだって出来るわ」

 机の表面は傷だらけで、足がガタついている机。
 直しもせず、保管してあったとなると、ずさん過ぎる。

「流石に、私は机の修理は出来ないしね」
「せめて、このガタ付だけはどうにかならないものか………」
「家具職人に修理を頼んでおきましょう」
「ゴドム伯爵、修理依頼は私の執務室が出来てからで良いわ」
「宜しいので?」
「えぇ………修理するにもこの場所で出来ないだろうし、この机使うつもりでいるから」

 机の傷やガタ付き程度なら、リリアーナは村で暮らしていた時の知恵がある。
 職人の出入りは執務室でさせられないし、運び出すにもグリードが信頼していない者も入るだろう。
 この机を如何やって運び入れたのかはリリアーナは知らないが、執務室で頻繁な人の出入りは避けた方が良い。
 昨夜のデュークの件もあるからだ。
 リリアーナもグリードも生命の危険に晒されている。

「分かりました、では私はもう少しマシな机を、また探し出しておきましょう」
「うん、それは頼む。リリが使う机だ」
「御意………では、本日の午後の会議でまた」
「分かった。今日は1日会議以外、執務室に居ると思うから、何かあったらまた執務室に来てくれ」
「畏まりました。失礼致します」

 ゴドム伯爵は一礼して退室したが、リリアーナにも挨拶をした、とは言えない態度のままだった。

 ---変わらないわ、あの態度……

「リリ」
「…………あ……そうだわ、机を応急処置しなきゃ」
「如何やって?」
「曲がってない木の板と、足に噛ます物を床に挟めば、とりあえずは何とかなるわ」
「…………木の板?噛ます物?」

 王太子としての暮らしが長いグリードには、物を大切にする事が考えられない様で、首を傾げていた。
 リリアーナは執務室を見渡し、本棚から本を出すと、棚部分のダボを外し、机の上に置く。

「使わせて貰うわね、この棚の板………噛ます物は………と……屑篭に要らない紙あったりする?…………あ、あったわ……要らないならコレも使わせて貰うわね」

 ガタ付く足にその紙を噛まし、とりあえず机の表面の傷と凹み、ガタ付きは気にならなくなったのだ。

「どう?」
「…………考え付かなかった……そんな事……」
「村では、簡単に物を買い換える事がなかなか出来なかったから、ちょっとした知恵と工夫よ」
「凄いな………驚いたよ」
「じゃ、仕事しましょ」

 書類の山を見れば、簡単に終わる量ではない。
 リリアーナはグリードの感心を受け流し、机に向かうのだった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

愛するオトコと愛されないオンナ~面食いだってイイじゃない!?

ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
並外れた面食いの芹香に舞い込んだ訳ありの見合い話… 女性に興味がないなんて、そんな人絶対無理!と思ったけれど、その相手は超イケメンで…

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...