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5 *再会迄

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 リリアーナが封印期間に入った事を知らされたのは、その日の議会だった。
 番いの封印の内容は、その番い以外知らされる事はなく、口蓋する事となっている為に、リリアーナが城に姿を現さなくなっただけで、グリードの周りには令嬢達が我先に、とその座を奪おうとした。
 グリードはリリアーナに魔力の大半を預けている事もあり、3日程休暇を取った後、王太子として、国政にも力を入れ始めた。
 忙しくしていないと、直ぐにリリアーナが恋しくなり、それを魔力鍛錬で発散する。

「グリード様、お疲れ様でございました」
「……………」

 令嬢達から声を掛けられても応じる事もないグリード。
 元々社交的な性格でも無かったのもあり、令嬢達には冷たい男だった。
 
「私、フローレスがリリアーナ様とお別れしたグリード様をお慰め致しますわ」
「別れた?誰が誰とだと?」
「っ!」

 冷えきる視線でグリードは声を掛けてきたフローレスを睨む。

「答えろ」
「そ、それは……グリード様と不釣り合いだったリリアーナ様ですわ!…………ひぃっ!」
「リリアーナは私の番いだ!今度その口がリリアーナを蔑むなら、舌を切らせて貰うぞ!」

 これで懲りてくれれば良いのだが、封印の意味する事を知らぬ者達は、グリードや国王の前では言わないものの、影では言っていた。
 リリアーナが居ない隙に、番いの座を奪わねば、と。

「デューク、武術鍛錬に行くのか?」
「……………えぇ」
「付き合ってくれ」

 グリードはデュークに一線置かれているのも知っているが、事ある毎に用事を見つけては、デュークに話掛けてきた。
 そして、リリアーナが居なくなってからは、少しずつデュークも応じる様になったのだ。

「随分と、魔力が減りましたね」
「リリに頼んだからね」
「……………リリアーナに?」
「私の為に、リリは………いや……この話はよそう…………話すのは心が辛いんだ……」
「……………そうですか」

 デュークにも伝わっていない、竜の王の事情。
 竜になれるからこその苦悩を、なれないデュークに言わないでおこう、とグリードは思っていたのだ。
 だが、それが後に事件が起きるとは思わずに。
 そうして、長い月日が経ち、グリードは魔力の制御も出来る様になり10年という歳月が経ってしまった。
 制御が少しずつ出来るようになると、リリアーナの居場所が鮮明になりつつあった。
 始めは方角、そして距離、といった感じで分かって来る。

「リリが呼んでる気がする………」

 そう思った直後には、国王に国政を離れる事を了承して貰っていた。

「国政を離れる事は許さぬ………リリアーナにはリリアーナの今の生活があるではないか。無理矢理リリアーナを連れ戻そう等と考えたら、リリアーナは戻らぬぞ」
「で、では如何すれば良いのです!」

 ただ、迎えに行けば良い、と思っていたグリードにとっては、簡単な事ではない様な口振りで国王に返された。

「封印を解呪する方法は、番いの契約しかない………まぐわう事なのだ」
「ま、まぐわうって…………本当の夫婦になる、という事ですか!」
「だから、リリアーナの同意無しで、連れ戻した所で、リリアーナの記憶が完全に戻したい、とリリアーナが思わねば、失敗するぞ?」
「記憶…………そうだ……私を忘れているのですよね?」
「国の事、家族の事、お前の事、抜け落ちた記憶は封印解呪をすれば戻る………それと同時に番いの契約が完了し、晴れて夫婦になる………だが、方法を間違えたら、リリアーナは戻っては来ないと思え」
「なっ…………」
「当たり前だ………夫婦になりたい、とリリアーナが思わねば、まぐわう事も出来ぬ。無理矢理襲い掛かる気か?国の王太子が………今のお前はリリアーナには見知らぬ男だぞ?」
「……………」

 グリードには愛しい女でも、今のリリアーナはグリードを知らない。
 そんな状態でまぐわえば、リリアーナはグリードを拒否しかねないだろう。
 だが、グリードにはそんな事はあり得ない、と思いたかった。

「方法はお前が考えなさい………制御も出来ている今のお前を止める私ではない…………行くのなら、私がリリアーナに掛けている家の防御魔法や、リリアーナ自身に掛けていた防御も解いておく………私が知る限りでは、リリアーナの周りには男の影が多くてな………他の男に奪われても知らぬぞ?」

 リリアーナの本来の魅力に気付き始めた輩が出始めた頃だった。

「今から行っても良いでしょうか!」
「警護は連れて行け」
「ありがとうございます!」

 ドラヴァールでは騎士団が3つ存在する。
 1つは銀竜騎士団、ハーヴェイが団長として率いる、竜の血脈を護衛する騎士団。
 2つ目は赤竜騎士団、デュークが率いていて、国境周辺の魔獣討伐を主にしている。
 3つ目は青竜騎士団、王都の治安部隊だ。
 グリードは、ハーヴェイと数人を集めた。

「急に集まって貰って悪かった………今から、イマリルダ山脈の麓にある村に行く」
「イマリルダですか?何故其処に………」
「番いが居るからだ………ぐっ!」
「あ、あ、姉上が!姉上が見つかったんですか!グリード様!姉上が…………姉上と会えるんですか!帰って来るのですか!答えて下さいよ!グリード様!」

 名を言わなかったのは、団員の中でグリードの番いのリリアーナを知らない者も居たからだ。
 だが、ハーヴェイを前にしたら、ハーヴェイは直ぐに察知し感極まり、ハーヴェイがグリードの服を引っ張り揺らした。

「団長!」
「グリード様ですよ!」
「放して下さい!団長!」
「は、放せ………ハーヴェイ………しゃ、喋れん……」
「はっ………も、申し訳ありません!グリード様!」

 服を放し、頭を下げたハーヴェイの前で、身なりを整えるグリードは難しい顔のままで、嬉しそうにはしなかった。

「つ、連れ戻せるかは分からない……父が、簡単には連れ戻せられない様な事を仰った………今は……様子を見に行こうと思う………魔力残渣が残らない魔具を装備し、最小限の人数で行く」
「早速手配します!」
「ハーヴェイは顔に出やすいから、準備は他の者にやらせろ!リリの弟のお前が動くのを知られる自体問題になるんだからな!」
「でも、一緒に連れてってくれるんですよね!」
「仕方ないからな………だが、顔はリリに見せるなよ………顔を見せるのも会話するのも私だけだ」
「うわっ…………久々に見た、グリード様の盲目的愛情」

 ハーヴェイ達を招集する前に、過去の封印解呪の文献を見てきたからだった。
 失敗した竜の王も存在したらしく、番いとはしたものの、世継ぎを産んだ番いは、夫を許す事は無かったという。
 グリードはリリアーナに許されない夫婦になりたくはないのだ。
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