3 / 43
2 *幼少期
しおりを挟むリリアーナは后教育の為に、毎日ドラヴァール城に通っていた。
まだ教養も覚えていないリリアーナは城を走っていても、まだ小さいから、と注意する者も居ない。
「ご機嫌よう、リリアーナ嬢」
「こんにちは」
「グリード様でしたら、図書室におみえでしたよ」
「ありがとうございます!」
リリアーナが走る時、必ずグリードを探している、と皆が知っていて、誰に対しても笑顔を見せるリリアーナに、嫌な顔をする侍従は居なかった。
「もう少し、教養を教えては如何なのか………あんな行儀悪い令嬢等、グリード様に相応しいとは思えぬ」
「全くですな、サイモン公爵」
「我が娘のフローレスこそ、相応しい……陛下も見誤っておられる」
その内、リリアーナも下世話な話の理解も出来てはいたが、決して表には出さなかった。
まだリリアーナは言い返せる力が無いのだから、認められる迄頑張りなさい、と教えられている。
「……………」
その場は落ち込むが、直ぐに立ち直る為に空元気で過ごした。
「きゃ!」
「……………何してる」
「デュ、デューク様………ご機嫌よう」
呆然と立ち尽くしていると、両手いっぱいに本を持って歩いていたデュークが気付かずリリアーナを転ばした。
それなのに、デュークは謝罪はしない。
「ふん………ぼうっ、と立ってるんじゃない、チビ」
「っ!」
「俺に姿見せるな!」
「ご、ごめんなさい!」
グリードの番いというだけで、デュークから嫌われていたリリアーナは、この頃から苦手だった。
「ふん!」
「……………っ……ごめんなさい……」
近くにデュークが居ると思うと、リリアーナは暫く動けなくなり、見兼ねた侍従に図書室に連れて行って貰っていた。
「リリ!」
「……………グリード!」
「遅かったね、今日」
「っ!」
「何かあった?」
「何も…………ないよ」
「何があった?」
「それは………」
グリードがリリアーナの変化に気付かない訳はなく、付き添った侍従に目配りさせ、聞こうとするが、リリアーナは止める。
「無いってば!私が迷ったの!」
「…………そう……」
グリードがデュークと仲良くしたいのを知っているから、リリアーナはデュークに嫌われている事を言えなかったし、言いたくはなかった。
告げ口したと思われたら、仲違いさせてしまうのではないか、と思っての事だ。
それだけ、リリアーナはまだ弱かった幼少期であっても、グリードに泣き付く事もしたくなかった。
グリードにバレていても。
「今日も可愛いね、リリ………昨日の続きを勉強しようね」
「うん」
リリアーナは毎日、グリードに褒められる事で頑張ってこれたのだ。
そんな幼少期を過ごしたリリアーナは何年も我慢し、強くならざる得なかった。
「リリアーナ様」
「…………何か?フローレス様」
「そろそろ、退かれては如何?」
「何をでしょう」
10歳になったリリアーナは、后教育も終了間近、とお墨付きを貰える程の才女になった頃、リリアーナは数々の嫌がらせに遭っていた。
「グリード様の番いですわ」
「…………退く理由がありません」
「無い!………ほほほほほほっ!……無い!………笑わせないでよ!」
「…………フローレス様と冗談言う間柄じゃありませんけど」
「冗談なんて言わないわ!貴女がグリード様に相応しくない!て言ってるのよ!ねぇ?皆様」
フローレスは友人という名の番い候補から落とされた令嬢ばかりを集め、同意を得ようとしている様だ。
「相応しいも何も、私はグリードに選ばれた番いなんで」
「は?…………ドラクロワ公爵家の財力と地位に物を言わせただけでしょ!」
「…………はぁ……呆れた……ウザッたいから、失礼しますね」
「逃げるの?」
「相手にしたくないだけよ」
「皆様、ご覧になって!リリアーナ様は、私に勝てないから、逃げるのですって!」
リリアーナを貶す事が、フローレスの価値だと言うならば、リリアーナは言わせておけ、と思って相手にはしなかった。
---認められてないなら、認められる迄頑張るしかないのよ
リリアーナを認めてくれる人が居る以上、頑張る事で結果になる事を、リリアーナは10歳でもう分かっている。
「勝手に言ってろ、馬鹿」
「んなっ!見た?あの侮辱!ガサツで礼儀を知らない女が、グリード様の番いなんてあり得ないわ!」
「…………吠える事しか出来ないから馬鹿だ、と言ったのよ………そんな相手に礼儀を見せた所で、私を手本にしないでしょ?私を侮辱して、私を見ないのだから………グリードに選ばれた私を侮辱する事は、グリードを侮辱した、と思いなさい」
「グリード様に敬称付けなさいよ!無礼女!」
「公式の場以外は、グリードは呼び捨てで構わない、と許可を貰っているので………残念ね、皆様………グリードにその許可さえ貰えなくて」
「キィィィィ!」
リリアーナは選ばれて番いになった、というプライドだけで強く居られた。
其処に、次々と自信を付けて、グリードに愛されて、リリアーナ自身グリードが好きだから、認めて貰いたいのに、こういう輩には幾ら頑張っても伝わらなかった。
「グリード」
「っ!…………リリ………」
「見てたわね?」
リリアーナは物陰から覗いているグリードを感じ取っていた。
「し、心配で………」
「自分で対処する、て言ったでしょ?」
「だが、あの女達は、リリを虐めてるじゃないか!嫌がらせも増えてるのを、私が知らないと思ってるのか!」
「それでも、私はグリードに守られてばかりじゃ駄目なの!あんな人達でも認めて貰わなきゃ!」
「無理だよ………彼女達は………知っているだろ?番い候補から外された………というか、私が外したのだが………それがあの令嬢達なんだから………幾ら魔力が強くても、リリ以上に私の魔力に波長が合う娘が居ないんだから………」
「大丈夫!私はグリードから離れないから!大好きだもん!」
「わ、私だってリリが大好きだよ!リリよりもっと!」
「私の方が好きだもん!」
「いや、私だ!」
何かある度に、好きだと言い合う事で、慰め労っていたリリアーナとグリードだった。
6
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
巨×巨LOVE STORY
狭山雪菜
恋愛
白川藍子は、他の女の子よりも大きな胸をしていた。ある時、好きだと思っていた男友達から、実は小さい胸が好きと言われ……
こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
感情が色で見えてしまう伯爵令嬢は、好きな人に女として見られたい。
鯖
恋愛
伯爵令嬢のソフィアは、子供の頃から、自分へ向けられる感情が何故か色で見えてしまう。黄色やオレンジ色、朱色は親愛の色。青色は嫌悪の色。ソフィアが成長し、昔は見えなかった色が見える様になった。
それは、紫色。性的に興味のある時に見える色だ。豊満な身体つきのソフィアを見て、大抵の男性には紫色が見えてしまう。家族以外で親愛の色が見える男性は、兄の友人で、昔から本当の兄の様に慕っているアンドリューだった。
アンドリューのことが、好きだと気づいたソフィアは、アンドリューから女性として見られたいと願う様になる。
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
婚約破棄された私は悪役令嬢に貶められて、妹皇女の身代わりとして他国に嫁ぐ
sweetheart
恋愛
アザルヘルド大陸の南に位置する皇国エンフェルトに住んでいる伯爵令嬢のリアラ・エメラルドは20という若さで皇子に見込められて、皇子の婚約者となったのだが、あまりに可愛すぎると妹皇女に嫉妬されて嫌がせをされてしまい手を挙げてしまった。
それを見た皇子の激情にあい婚約破棄されてしまう。
残された道は、国外追放で国を去るか、皇女の身代わりに北の帝国エルシェルドに嫁ぐことに皇帝はしかも、かなりの遊び人と聞いていたのに?!
「君以外考えれない」
と夜な夜な甘い言葉を囁いてきて……?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!
Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる