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モデルデビュー
しおりを挟む翌朝。
遅めの朝食をルームサービスで取っていた。
「………ノエル、本当にいいの?モデル。」
「あぁ、全然問題無い。[蒼の洞窟]の捜査優先。その為の通過点だから。」
スクランブルエッグをトーストに乗せて、口に運ぶノエル。
「モデルする事が?通過点?」
「翡翠を有名にする事が通過点。」
「?どういう事?」
「………あんまり言いたくないんだが、翡翠が[蒼の洞窟]を作った、デザイナー小鳥遊琥珀(本名、高階琥珀)の娘として、世間に知られる事。その為に、俺は翡翠の側に居やすい状況がいいんだ。」
「………そういう事か……。言ってないからなぁ……。名字一緒だから聞かれたけど無関心でいたし……。それに20年以上も前の事故、覚えてる人少ないしね。」
珈琲を飲む手が、俄に震えていた翡翠。
平静を装っているのが分かる。
「………翡翠、俺が守るから。」
「…………うん。」
翡翠はそんな事は望んでない。
真相が分かったら、ノエルとの別れが待っているんじゃないか、と不安なのだ。
ノエルが用意した服を着た翡翠。
翡翠好みのフェニミンのスーツ。
サイズもバッチリ。
「何かムカつくなぁ……。何で私の好みを当てるかな。」
「これなら、キスマークもギリ隠れるだろ?たまたま下の免税店にあったからな。」
「いくらだった?お金払う。」
「…………ドレスは貰っておいて、俺からのスーツは貰わないのか?」
(はっ!!)
「あんまり、奢ってもらうとか、買って貰うとか慣れてないのよ!……だから、ね。」
ノエルは軽く翡翠を抱きしめる。
「甘えていいんだからな、俺には。」
「………ありがとう、ノエル。」
ノエルに車でNEO EARTHに送ってもらった翡翠。
駐車場に停めた車からノエルも一緒に降りた。
「警視庁に行かなくていいの?」
「デニスに任せてる。俺が行っても業務的な雑用ばっかさ。犯罪予告があったから手伝っただけだし、こっちが捜査のメインだから。……それに、どんな風にモデルやらされるのか気になるし。有るんだろ?プロットとやらは。」
「……あるけど………嫌がらないでね?」
「?」
店舗から帰ってきた翡翠。
ドアを開け、エスコートして入ってきたノエル。
開店には間に合うように来たかったが、間に合わなかった。
営業中は裏口は締切ってあって入れないからだ。
店内にどよめきが走る。
「おはよう。」
「おはようございます、社長。」
「ごめんね、急に半休貰ってしまって、大丈夫だった?」
「大丈夫です、はい。」
チラチラと、目線をノエルにやる店舗主任。
「………あ、彼に今度モデルやってもらう事になったから。彼に合うアクセサリーもいくつか作る方がいいかな、て半休貰ったけど出社したの。デザイナーで今誰か空いてる人居る?聞いてもらえるかな?」
「翡翠、ちょっと店内見させてもらってもいいか?」
「………ここでは、オーナーか社長と呼んで下さい。メリハリね。」
(ちっ!………しっかりしてんなぁ……。)
(ドキドキするから、絶対に無理!)
(Hisui、か……。へぇ~、スーツと同じで、フェミニンな雰囲気なのが多いな…。Kohakuは真逆……。同じ人間が作ったとは思えんな。…………これか、店の名前にもなった[NEO EARTH])
人気シリーズだけあって、場所も大きく取っている。
(26歳でデザイナーデビューと起業、1年でこのビルを建て、2年でジュエリーデザイナーとしての地位も揺らがないものにした経営手腕、大したもんだな。)
「お待たせ。VIPルームに移動してもらっていい?」
翡翠が準備を整えて、ノエルに声を掛けた。
VIPルームに入ると、デザイナーだろう一人の男性デザイナー。
「デザイナーの佐々野さん。男性ジュエリーは私もあんまり作ってないから、男性意見が聞ける方がいい、と思って。彼のデザインで幾つか作るけど、それでいいかな?」
「翡翠の意見は入らないのか?」
「!!!オーナーか社長、て呼んで、て言ったじゃない!!」
「…………俺は俺の呼びたい名前で呼ぶ。」
「社長、社長!まぁまぁ。落ち着いて下さい。………佐々野です。付き合ってんだから、名前呼びたいですよねぇ。」
苦笑いを堪えながら、先に進めようとする佐々野。
「どれだけ知れ渡ってるんです?俺達の関係。」
「………ん~、デザイン部と店舗スタッフはほぼ全員?その内全社員にバレますね。」
「はい、隠すの無理。」
「…………。」
幾つかデザインはまとまった。
「………そうだ、俺ピアス穴あるんだけど、ピアスも作ります?」
「あったの?ピアス穴。」
「あるよ、イヤーカフに見えるけど、これピアス。」
「……………。」
翡翠は何かを思いたったようで、デザイン画を描く。
イヤーカフに似せたリングピアス。
蔦の柄で、1か所だけ緑の色の石が入るデザイン画。
「これどう?石は、ノエルのミドルネーム、Jade翡翠よ。」
「…………良いですね、これ。男性にも付けやすい。」
「………うん、これ欲しいな。」
「決まりね。コレも入れましょう。」
コンコン。
「失礼します。プロットすいません、お持ちしました。」
小林がプロットを持って来た。
「わぁ、社長、今日はまた素敵なスーツですね。」
「…………あ、ありがと。」
「ノエルさん、この度は引受けて頂きありがとうございます。こんな感じで撮りたいそうですよ。」
「うまく出来ればいいんですけどね~。………………へぇ~。」
ノエルは含み笑いをしている。
「どうしたの?」
「撮影、て翡翠も見る?」
「………だから、名前!………まぁ、一応そのつもりだけど?」
呼び名を変えて、と言っているのに変えないから、諦めた翡翠。
「………いいんだな?コレ。」
益々、不敵な笑みをしたノエルだった。
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