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母、実家へ
しおりを挟む奥多摩の家から出て、ノエルは連れて行きたい場所がある、と、紫と黄龍を改め、耀を乗せた。
翡翠は知っていたが、知らない振りだ。
ノエルは長野に向かう。
道路標識に松本の地名を見る度に、紫の口数は減っていったのを翡翠とノエルは気が付く。
「…………松本城でも見る訳?」
「お、そういえば俺日本の城見た事ないかも。」
耀は浮き出し立っている。
「城かぁ、城も良いけどそれはまた今度後にしようか、時間決めて行く所だから。」
「予約してんの?」
「そう、そんなとこ。」
「……………。」
紫が想像した場所に着く翡翠達。
そう、紫の実家だ。
「…………でっけー、李の邸よりでかい。」
耀は驚くと口が開くようだ。
ポカンとしている。
ピンポ~ン。
翡翠がチャイムを押す。
「……………私は帰る。」
【はい、どちら様でしょうか。】
ピクンと身体が強張る紫。
「高階翡翠です。先程伺うと、連絡入れたのですが。」
【暫くお待ち下さい。…………門をお開けします。】
ガチャ。
「行くよ、お母さん。」
「…………い、行けない。……あんた達だけ行ってきて。」
「大丈夫だって、耀の事も話してないんだから、お母さんが居なきゃ。」
「翡翠?何をしているの。お入りなさい。」
門の周辺で、行く行かないの押し問答をしているのを、玄関先で見掛けたからか、祖母が出て来て声を掛けにきた。
「!!!」
「…………………ゆ、紫?」
「……………お、お母様…………。」
祖母はその場で駆け寄り、紫を抱き締めた。
「…………い、生きていたのね、紫。」
「…………ごめんなさい、ごめんなさい!お母様。」
翡翠は母が泣いているのを見るのは初めてだった。
「いいんですよ、訳があったのは翡翠から聞いてるのだから。さぁ、中に入って。お父様にもびっくりさせましょう。」
邸の中に促す祖母を初めて見る耀。
「…………俺のばあちゃん………。」
「………この子は?」
「………翡翠の弟よ。耀と言うの。」
「え?」
「お祖母様、お祖父様と聞いてほしいから、後に。お祖父様も待ってくれてるのでしょ?」
「そうね、待たせると怒るから、入りましょう………紫も。」
邸に入ると、玄関で祖父は待っていた。
「翡翠、久しぶりだの。」
「お祖父様。ご無沙汰しております。」
「…………何だ、コヤツも来たのか。」
コヤツとはノエルの事。
ノエルが来る事は知っていたのだが、やはり気に食わない様子の祖父。
「俺も伺いますと伝えたじゃないですか、お話ありますし。」
「…………いい話ならな。」
(何なんだろ?)
翡翠が思っていると、祖父は紫の姿を見つける。
「………………。」
「………………お父様………。」
「………………。」
「親不孝者を許してとは言いません。不義理をした娘が敷居を跨ぐのももうしませんから、どうか話だけでも!!」
「紫………。」
祖母も心配そうに見つめる。
玄関の前で土下座をしている紫。
「……………入れ。」
祖父は踵を返し、奥の部屋に入っていく。
その時、翡翠は祖父の泣きそうな顔をしっかりと見えていた。
「お母さん、ほら入ろ。」
通された部屋は以前の部屋と違い、日本庭園がよく見渡せるお座敷。
「お庭が綺麗。」
「…………懐かしい。」
「紫…………。」
「!!!……お父様。」
「儂は年を取りすぎた………。お前にもう二度と会えずに死ぬと、23年前に死んだと思っておったから、諦めとった。…………それが翡翠に言われて、待つ気になった…………。その間お前も苦しかったかもしれん。お前が翡翠と一緒に居なかったんだからな。あんなに大事にしとったのに、引き裂くような事をして、すまなかった。」
祖父は頭を下げた。
「…………お父様………。私があの時、イタリアに行かなければ、お父様が望む娘でいたかもしれない。………でも窮屈だったの。この広い邸に住んでいたのに、心は窮屈だった。……イタリアで琥珀に会って、彼の純粋さに惹かれたら、窮屈なお父様の手から離れたくなった。お父様は鷹だったから……。琥珀も別の鷹から逃げてきた人なのが分かったらもう後には引けなかったの……。翡翠が生まれて、お父様とお母様の有難みも知ったし、幸せで幸せで、親不孝な馬鹿な娘でも、近況だけは知らせようと、手紙と写真を送り続けてたら、琥珀が逃げていた鷹に見つかってしまって……あんな事に……。だから怖かった。翡翠と私だけでも琥珀はこの家に、て言ったけど、そうしたらお父様達も巻き込んでしまうから、戻れなかった。鷹に捕まって耀も生まれて、耀を守らなきゃ、翡翠も守らなきゃ、て。手紙も出せる状況じゃなかったの…………今迄、本当にすいませんでした。」
「……………お母さん、だからデザイナーのお父さんの名前、小鳥遊なんだ。」
「………逃げ回ってたからね。お父様とあっちの鷹から。……誇示する為に。」
「………紫、ではその子が2人目に産んだ子なのか?」
「そう、琥珀と私の子。鷹からやっと逃げ出せてようやく会わせる事が出来たの。」
「………それは………その鷹はもう大丈夫なのか?」
「捕まったわ。翡翠とノエル君のおかげで。」
紫と耀の後に控えて座っていた翡翠に向かって言う紫。
「……………そうか、頑張ったのだな………。」
祖父はそれ以上聞かなかった。
晴々した顔になった娘、紫の顔を見たからだろう。
「紫、今日はゆっくりしていきなさいね、耀も。」
「お母様…………。」
「気兼ねはもう要らん。儂らはそれだけ待ったんだ。この家に住んだっていい、翡翠と一緒に居るならそれでもいい。帰ってくる場所はここにもある、と思ってくれたらそれでいいんだ。」
「良かったね、お母さん。」
「えぇ……。」
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