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しおりを挟む「い、嫌っ!」
夢の中でも意識が途切れたリアナは、またも飛び起きた。
薄っすらと朝日が家の窓から感じ、もう朝なのだと知る。
やはり、夢の中の場所と、リアナの家とは違う場所で、見慣れた我が家が視界に入った時はホッとした。
「…………また……夢………それなのに……現実に起きた様に、身体に感触が残ってる………やだ……もう………」
起きなければならない時間なのだが、起きる気も失せたリアナは、ベッドに上半身だけ起こし、膝を抱き締めて顔を埋めた。
「何もやる気が起きないわ………でも、家に居たら…………」
リアナは家こそ生活の場所ではあるが、普段は薬を作る為だけに、近くに小屋を建て、其処で作業をしていた。
家に居れば、誰かがやって来るからだ。
客なら良いが、客ではない。
日に日に、求婚者が増えたのは、リアナが20歳を過ぎた頃だ。
薬師として、治癒能力が込められて行く薬を作れる様になり、それが評判になった頃、銀髪にアクアブルーの容姿が、人目に付きやすくなったのだ。
元々、ドラヴァールの田舎では銀髪は珍しく、特に目立っていたのが、この2年ぐらいで拍車が掛かったのだ。
それからは、見向きしなかった男達が、魅了された様に、リアナに求婚して来るようになった。
リアナが誘惑していた訳ではない。
治癒能力に繫がる魔力で、男達を惑わせるなら何とかしたかった。
「…………考えても仕方ないわ………仕事も溜まってるのよ………薬を作らなきゃ………」
ベッドから出ると、着替えて食事を取る。
10年、1人で寂しかっただろうが、寂しかったという感情も欠如しているのに、グリードと会って知った。
だが、グリードに会ってから、何処かこの生活に寂しい、と思えてくる。
たった2日の出来事で、こんな感情の変化も感じていた。
「…………入って来ないで!消えてよ!」
10年という歳月は、ただただ平和で、変化を求めたいと思ってはいなかった。
気が付けば、1人で何でも出来て、知識も常識も分かった状態で、家が点在する村に出れば、暖かく迎えた村人達に、良くして貰えて、持ちつ持たれず協力しながら生活出来て、幸せを感じていたのに、それを壊された気分でしかなかった。
グリードの所為だけではないかもしれないが、変化が起き始めたのがその2年前からなら、分からない解けない方程式を、リアナは誰から教えて欲しかった。
「…………はぁ……」
大きな溜息しか出て来ない。
溜息を吐いた所で何も変わらない事に嫌気がさし、それでも独り暮らしの身で代行する者が居ない以上、家事を済ませなければならないリアナは、薬草を採取に出掛けた。
村や街に出ない日はいつも、森や山に行き、薬草を採取し、薬作りに没頭したかった。
記憶を封印される前の事も気にはなるが、この知識は恐らく封印される前の知識なのだ、と思っていたリアナ。
---私って一体………誰なの?
グリードと会う前はなるべく考え無かった事を繰り返す自問自答に、薬草採取も捗らない。
いつもであれば、1日中採取し、寝る迄薬を作る事に苦は無かったのだ。
それが、たった2日でこの有様。
気になり始めると、益々気になってしまうリアナ。
何も手が付けられずに、どうにかなりそうで何も考えずに、逃げ出したくなってしまう。
「…………もう、今日は止めよ………」
思う様に、薬草採取は捗る事が無く、仕方なく家に戻ると、またも積み重ねられた贈り物の数々にウンザリする。
「はぁ…………如何したら良いのよ……」
「リアナ」
「…………ヒューイ……様……」
家の玄関前で、佇むリアナの背後から、また別の男が花束を持って向かって来ると、リアナは敬称付けて、その名を呼んだ。
村の村長の息子だ。
大した権力も無い、裕福でも無い村の偉い人の息子。
3歳程歳下で、親の臑齧りで、偉ぶる性格のヒューイに、とりあえずの敬称呼びをしなければならないのも億劫でしかなかった。
「今日こそ、良い返事が聞きたくてね」
「返事等、決まってます………私は誰の物にもなりませんし、結婚も考えていません………ただ、静かに暮らしたいんです」
ヒューイの後ろには取り巻きも居て、本当にウンザリした顔で、リアナは返すのだ。
村一番の器量良しのリアナを自分の物に出来れば、強く出れると思っている男達も多いのだ。
ヒューイもそんな所なのだ、とリアナは思っている。
「静かに暮らしたいのなら、俺が蝶よ花よと大事にしてやるよ」
「結構です」
「リアナ!村長の息子であるヒューイ様に何と言う公言をする!」
「村長がそんなに偉いんですか?………ドラヴァール国の国王より偉いんですか?村長の上には、領主が居て、更に大臣が居て、爵位さえもあるのに、爵位無い村長の息子が偉いなんて、聞いて呆れる!…………私は誰とも結婚したくないの!そんなに私に拘るのなら、私はこの村を去っても良いのよ!」
八つ当たりに近い担架を切るリアナ。
この2日で、変わりゆく生活に、鬱憤が溜まった状況で、ヒューイに時間を割けたくなかった。
「この!生意気な!邸に連れて行け!」
「は、はい!」
ヒューイの力でもないのに、村長に雇われている部下達が、ヒューイの命令に従うのも、リアナには腹が立つ。
「ヒューイ様!貴方は何か功績を残しているのですか!」
「な、何だと?」
「村長の臑齧りの癖に!」
「ゆ、許さんぞ!リアナ!」
腹立たしい時に、腹立たしい輩を相手にしたくなかった。
八つ当たりでしかないリアナだが、ヒューイに連れられて、村長宅に行きたくはない。
「来い!」
「来るんだ!」
「嫌だって言ってるでしょ!」
その時、リアナを中心に突風が巻き起こり、村長の邸の者達が吹き飛んで、尻餅を着いた。
ドラヴァールの者は、魔法で危害を与えてはならない、という法律があるにも拘わらず、幾ら正当防衛と言えども、ヒューイの前では言いくるめられるかもしれない。
村長の息子という肩書が、リアナを苦しめるのだ、と過ぎった出来事だった。
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