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しおりを挟む翌朝、普段と変わらなかったアン。
エマやシーラが居る前でのアンは、レティシャに献身的な世話をしてくれている。
「レティシャ殿下、暑くないですか?窓開けて風を通しましょうか?」
「………」
大丈夫、とレティシャは首を横に振ると、特に問題無い様子で次の仕事をするので、昨夜の事は勘違いだったのではないか、と思ってしまう。
長くリーヒルを好きでいたレティシャに、リーヒルへの恋心を向ける令嬢達の目は散々見てきた。それを勘違いだとは思えない。
その夜迄、何もアンにされる事も無かったレティシャは安堵していた。
「それでは、今日も失礼致します」
「………」
おやすみさない、とレティシャは頬の横に手のひらを侍女達に向け、軽く横に振る。
侍女達との挨拶で決めた仕草だ。紙に書く程でも無い事はジェスチャーをしましょう、と提案され、幾つかのジェスチャーを決めたのだ。
しかし、暫くしてアンが戻って来る。
「?」
「レティシャ殿下、避妊薬をお渡しする事を忘れてしまいまして」
「………」
確かに、ベッド脇にいつもある、避妊薬が置いていない。それをレティシャは受け取ろうと、本を読んでいたので、しおりを挟み立ち上がった。
「ん!」
「………レティシャ殿下……昨夜も……リーヒル殿下とお楽しみされた様で………」
「んんっんっ!」
アンに、レティシャは羽交い締めされてしまう。
まだなかなかな体力が戻っているとは言えなかったレティシャは、アンに簡単に腕を取られ、押し倒されたのだ。
「レティシャ殿下、私にその立場変わって下さいよ」
「………だ………め……」
「そう、言われるでしょうね……でもね、既成事実作っちゃえば、お優しいリーヒル殿下も私を妃にしてくれるわ」
「!………んんっ!」
アンがポケットから出した小瓶は、いつも避妊が入っている物だ。しかし、中の味が違う。
「私ね、今日子供が出来やすい日なんです。だから子供が出来てしまえば、お世継ぎにリーヒル殿下は恵まれる訳で、結婚前で体裁悪いけど、愛人が居る人も多いですから、私はソレでいいです。今はね……」
徐々にレティシャは身体が痺れてくる。
レティシャの上にのしかかるアンを退かそうと力が入る手に、痺れて力が入らない。
「効いてきました?……じゃ、レティシャ殿下は私達の房事を聞いていて下さい。私の手管でリーヒル殿下を夢中にさせますから」
アンはそう言うと、レティシャを引き釣り、ベッドの下に押し込んだ。
「………ア………ン……だ……め……」
「煩いわね、声出さない様にしますか」
「んんっ!」
ハンカチを口に押し込まれたレティシャは、痺れているので自分では取れない。
「フッ………いい気味」
アンは侍女服を脱ぎ、ベッドの下にレティシャと共に隠し、灯りを落とすと、ベッドの中へと入った。
―――アン!止めて……貴女が成就する事は無いのよ……貴女が傷付くだけ………
何を思って、アンはこんな事をしたのかはレティシャには分かってしまう。
好き過ぎて、気持ちを暴走させて、相手の気持ちを考えない行為は、迷惑でしかない。
リーヒルは、決してアンを許さないだろう。
レティシャを床に押し倒し、痺れ薬を飲ませ、ベッドの下に押し込む行為を。
―――義兄様……今夜は来ては駄目っ!
だが、リーヒルはいくら遅くなっても来るだろう。毎日、身体は交わらなくても、抱き締めながら眠りたい、とレティシャはリーヒルに言われていたからだ。
何方の部屋であろうと、レティシャがリーヒルの部屋に居なければ絶対に来る。
日を跨ぐ頃、風呂場の扉が開けられた。
「暗いな……レティシャ、もう寝たのか……」
―――来ては駄目!
ベッドの下からリーヒルの足が見えたレティシャ。
「っん、んんっ!」
「………何だ?…………なっ!」
必死に手を伸ばしたレティシャが、リーヒルの足を掴み、存在を明かす。
「…………レティシャ?」
手だけで分かってくれたのか、リーヒルは直ぐに冷静になると、ベッドの凹凸が何なのか、確認の為にシーツを剥いだ。
「なっ………お前は………アン?」
「リーヒル殿下……お慕いしております!私にも殿下の寵を………っ!」
アンはリーヒルに抱き着こうと身体を起こすが、リーヒルはアンを平手打ちする。
その拍子でアンは倒れるが、リーヒルはレティシャをベッド下から助け様と屈んだ。
「レティシャ!」
「………んっ……」
「大丈夫か!」
「………」
レティシャの様子を見て、リーヒルは激高する。
「どういうつもりだ!答えろ!」
「っ!………わ、私は殿下をお慕いし………」
「そんな事は聞いていない!その見苦しい身体を見せるな!何故レティシャを守らねばならん者が、レティシャを傷付ける!」
「……リ……ヒ……」
アンへの殺意さえも見える様なリーヒルに、レティシャはリーヒルの羽織るガウンを引っ張った。
「っ!………レティシャ、待ってろ!」
「だ………め……ア……ン……お………こら……な……」
「レティシャ?………何故お前がそれを言う!」
「………レティシャ殿下……」
レティシャがアンを擁護しようとしているのを見たアンは、自分がしてしまった事に留まるきっかけを作った。
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