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「レティシャ!しっかりしろ!」
「………」

 もう、酔っ払っているレティシャにリーヒルの声は届かない。
 抱き着く拍子に、床に尻もちを着いたリーヒルは、ガウン一枚羽織った姿で、下着一枚身に付けてはいなかった。

「………」

 それが、悪かったかもしれない。
 レティシャはリーヒルのガウンが開けた胸板と、散々目にして来た、雄の杭を目にしたからだ。それが、好きになった男であれば、レティシャも女である以上、欲しくなる。

「っ!」

 レティシャの目線が、自分の下半身に釘付けになっている事に気が付いたリーヒルは、咄嗟にガウンの前身頃をかけ直す。

「………」
「ま、待て………レティシャ……」

 しかし、見られた以上、歯止めは効かない。
 折角、前を隠したものの、レティシャがまた開いてしまった。

『駄目ですか?』
「っ!………だ、だ、駄目だ!……お前は酔っ払ってる!」
「………」

 だが、言葉と身体は裏腹だという事を、リーヒルは思い知る。レティシャの夜着と、酒に酔った目線。色気がリーヒルを刺激したのだ。

『お慰め出来ます』
「え?…………ま、待て!レティシャ!………ゔっ!」

 リーヒルの腹に書いた、レティシャの文字。リーヒルはレティシャを支えていたからか、手のひらには書けないレティシャはリーヒルの腹に文字を書いた事で、ムクムクと反応してしまったのである。

「………んぐっ……んっ………」
「っ!………レ……ティ……シャッ……止め……」

 リーヒルの反応は正直に、欲がレティシャに伝わっている。リーヒルからすれば、知らぬ間に男を喜ばせる手管を身に付けている事に腹立だしく、レティシャの口から引き抜いた。

「んっん!」
「…………はぁ……はぁ………レティシャ……酔ったお前と交わりたくない!」

 リーヒルのなけなしの理性だった。これ以上、箍を外す訳には行かない、と拒絶を見せたリーヒル。

「うっ……」
「っ!」

 すると、レティシャは泣いてしまう。

 ---神は、私にどんな所業をお与えになる気だ!レティシャを泣かせないと何度も誓ったのに!

 こうなっては、リーヒルの細くなった理性の糸が切れるのは時間の問題だ。

「レティシャ、隣の部屋に戻るんだ!私と閨を共にするには、結婚してか…………っ!あっ……頼むっ!レティシャ!お前は淑女だろ!」
「………っ!」

 レティシャが前を隠し、動揺するリーヒルに対し、レティシャはまだ理性を取り戻せずに居るリーヒルの隠す手の上から、自分の手を添えた。

「ゔっ…………あ、悪魔か!お前は!……そ、そんな可愛い顔で私を誘惑するのか!」

 そう、レティシャは美しい王女だからこそ、出自で攻撃され女達に冷遇された娘。それをレティシャ自身、出自を気にしているから、気の弱いまま成長した女だったのだ。
 純粋に、ただ一途にリーヒルを愛してしまったからこそ起きた悲劇だとも言える。
 貴族で娘を持つ親は、レティシャには敵わないと思っていても、リーヒルの妃にさせようとし、娘達は地位と権力に縋り、父親にも逆らえない事で、リーヒルに執着するから、レティシャに悲劇を齎した。

『わたくしは魅力無いですか?』
「そうは言ってない!今でも抱きたいと思っている!だが、今お前は酔っ払って………っ!」

 リーヒルの顔の近くに漂う、飲み慣れた酒の香りと、愛しい女が纏う香油の香り、唇の柔らかさで細く弱くなってしまった理性の糸が、簡単にプッ、と切れた。
 ベッドではない、ただ絨毯が敷かれた床に、レティシャを反転させたリーヒルは、レティシャの唇を味わう。
 異性として見てしまってから、何年経ったのか等もうリーヒルには関係ない。父から亡くなった妹の代わりに、と幼いレティシャが目の前に現れてから、いつしか妹とは見れなくなって、行方不明となり姿が見られなくなった瞬間、レティシャへの執着や愛情が日に日に増したのだ。
 娼館に居ると、分かった時は信じられなかった。誰か嘘だと言って欲しい、と何度も願い、全裸の状態で目にした瞬間、益々信じたくなかった。目の前に居る女はレティシャじゃない、と思いたかったが、目を合わせた瞬間、嘘では無かった、と嘆き後悔しか無かった。
 誰か知らない男に汚され続けられる事が分かっていたら、自分がレティシャを汚し、自分の物にしたのに、と。唇を交わす等、おこがましいとさえ思っていた自分に後悔し、今この瞬間、レティシャからの愛を受け取るだけでなく、返す為に慣れない舌使いでレティシャの口の中を味わうリーヒル。

「ん………んっ……」

 時折、レティシャの口の端から漏れ聞こえる甘い声が益々リーヒルを昂ぶらせた。

「レティシャっ……」
「………」
「くっ………そんな顔で煽るな!」

 レティシャは嬉しかったのだ。リーヒルから貰う熱い情熱を唇から受け取ったのが。

『キスは初めてなのです。義兄様に差し上げられて嬉しい。純血では無くなってしまったけれど、お慕いしている義兄様に………』
「………レティシャ………」
「………う………ひっく……」
「泣くな……気にしないと言いたいが、それは私には難しい……だが、お前への愛は変わらない。愛している」
「………」

 言葉を書く手間は要らなかった。口の動きでレティシャもリーヒルに言う。

『愛してます、私も』

 と、リーヒルに伝えると、自ら再び唇を重ねに行ったレティシャだった。
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