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しおりを挟む暫くし、男は高位貴族らしい男を連れて来る。
「此処にある道具は好きに使ってくれて構わねぇ。だが、絶対に避妊はしてくれよ」
「………分かった」
「じゃ、二時間楽しんでくれ」
また新たな男を相手をしなければならない女。
言葉少なく返事する男の顔等見たいとも思わない。行為自体誰とシても同じだからだ。
娼館の男の気配が部屋から遠退くと、男は部屋の蝋燭を翳し、女の顔を覗き込む。
「…………あ……あ……」
「………見つけた………レティシャ………」
もう、名等呼ばれないと思っていた女。その男の顔が、女の懐かしむ者だという事が、女の目から溢れる涙が物語る。
「レティシャ………分かるか?私が……」
「………ゔっ……」
言葉を出せないレティシャは頷いて返事を男にする。
「何故、声を聞かせてくれない?」
「………っ!」
レティシャも声を聞かせたい相手だが、ただ泣くだけだ。
「あ、下ろしてやらねばな……此処から出してやるから」
男は縄を隠し持っていた短剣で切り、レティシャの拘束された身体を解放した。
「何故………こんな仕打ち……いや……話は後だ………こんな場所から早く離れ………え?」
レティシャは自由になった身体をぎこちなく動かして、男の手を取る。
『義兄様、会いたかった』
と、手のひらに指で文字を書いたのだ。
「レティシャ…………私もお前に会いたかった……探したんだ……父上も心配している」
「…………ぅっっ……」
全裸のレティシャに自身のマントを包み、抱き上げると部屋の扉を蹴破り、娼館の男が驚いて駆け付けて来る。
「な、何だ!如何し………ぐぇっ!」
「殿下、この場の他の女達は如何しますか?」
「解放してやれ、劣悪な環境で拘束された娼婦達だ……人として扱われていない」
娼婦の男はレティシャの前で倒れ、背中に剣の切り傷。
「お………の……れ……」
「死なぬ様に、閉じ込めておけ………この男にはまだ聞かないとならない事が山積みだ」
「はっ」
「レティシャ、残酷な物を見させてすまない」
「…………」
レティシャは首を横に振る。この男がレティシャにして来た事は、レティシャの精神を壊して、身体を汚したのだ。同情等は無いが気持ち良い物ではないので、抱き上げられている男の肩に顔を埋めた。
「ヴァンサン、此処の指揮を頼む」
「勿論です………レティシャ殿下のお身が優先ですので」
馬車にレティシャは乗せられ、部屋より明るい馬車内で男に顔をジッと見つめられた。
「………生きていて良かった……レティシャ」
「………ゔっ……ぅっっ」
「如何して声を聞かせてくれないんだ?レティシャ」
「…………」
「っ!」
レティシャは首元を男に見せる。
傷が有り、手術痕の様に見えた。
その傷が何なのか、この傷でレティシャの声を奪われたのを男は察知する。悔しさに顔が歪む男の手にまたレティシャは文字を書いた。
『ご察知の通り、声が出ません。わたくしが気が付いた時にはもう……』
「レティシャ………私は……」
『わたくしの為に泣かないで下さい』
涙を流す男に、レティシャは手で涙を拭い取った。優しく目の前の男に精一杯に微笑む。
「許す事が何故出来よう!お前の美しい声を奪った者を許せん!そして、お前を殺害しようと馬車の事故を起こし、誘拐した者も!」
『声の事はもう、如何にもなりません。義兄様がわたくしを見つけてくれた事が、どんなに嬉しかったか』
「当然だ!お前は私の婚約者なのだから!」
そう、レティシャは義理の兄であるこの男の婚約者だった。
義理でも、血の繋がらない兄と妹。シュピーゲル国の国王は、身寄りの無くなった娘を引き取り育てた。国王には2人の子が居たのだが、一人の娘を幼い時に亡くし、似ていたレティシャを養女に加えた。
国王は、王位継承をレティシャには与えず、子供達を兄妹としてレティシャを見なかった。何故なら、レティシャを引き取った直後、王太子であるリーヒルの婚約者として教育すると決めたからだ。
王太子でもリーヒルの結婚相手には政治的な結婚が余儀なくされる。その政治的内乱を国王は牽制し、平民で孤児であるレティシャをリーヒルの妃に決めた事で、派閥争いが激化しなかったのだが、反対勢力も増強して行った。それにより、レティシャは生命を狙われやすくなり、15歳の時に馬車の事故に見せかけ、殺害されかけたが、レティシャが行方不明になってしまったのだ。
そして二年経ち、リーヒルがレティシャを探し出したのだった。
兄妹として育った訳ではない2人は、互いに想いを寄せ合っていて、結婚可能の年齢になるのを待っていた。その直前での事故と行方不明に、レティシャを反対する貴族達は、リーヒルの妃選びに躍起になっているのだが、レティシャは二年の間、政治の事は耳に入れれる状況では無かった為分かってはいない。
『まだ、わたくしを婚約者だと仰って頂けるのですか?』
「勿論だ……私が愛しているのはレティシャ、お前だけだ」
「…………」
汚されている身体だと、リーヒルは知ってしまった筈で、レティシャは自分の心とは真逆な態度で首を横に振る。
「レティシャ?」
『わたくしは、汚されました』
「…………だから何だ?」
『義兄様の妃には、相応しいとは思えません』
「お前が、娼館に囚われていた等、知る者はお前に手を掛けた者以外居ない。勿論、そ奴らは極刑にする」
「…………」
「そう、今言った所で、信憑性も無いな……今は身体をゆっくり癒やせ。声の事も医者を呼び、治療が可能か如何かも診て貰おう」
『お城に帰るのですか?』
「此処は隣国との境の街だ……首都迄数日掛かるから、今夜は宿に泊まる。城に帰るのが怖いなら、他の邸に身を寄せても良いぞ?」
『お義父様にもお会いしたいので、お城で大丈夫です』
余程、疲れていたのか馬車の揺れでレティシャはウトウトとし始め、いつの間にか眠ってしまった。
「幸せの夢を見るといい、レティシャ……もう、泣かせたりしない」
リーヒルの膝上に、レティシャの頭を乗せ、髪を撫でるリーヒルは兄の顔ではなかった。
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