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腕試し

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 ジュディスは、無心で鞭を振り回していた。
 剣も扱えるのだが、鞭の方が性に合っていた。
 銀糸に編み込まれた鞭を愛用し、藁の束にした目印を引き裂く。
 実際に人を殺めた事はないジュディスが護身用で持っているだけの鞭。
 レジスタンスのアジトに身を寄せるようになってから、朝起きて運動がてら訓練するのが日課になっていた。

「朝から特訓ですか?」

 ソロがジュディスに声を掛けた。
 ソロの声に気が付き振り向いたジュディス。

「…………何故、シヴァ・カムラと名乗ってるんです?」

 ジュディスは持っている鞭をソロに向けた。

「………手合わせして、私に勝てたらお答えしましょう。」
「………いいわ、でも木剣でお願い。私も木剣にするから。」

 ソロは、ジュディスの鞭捌きを見て、手合わせしたくなったのだ。
 鞭は、力の使い方が難しく、思うように動かす事をしていたジュディスに、ソロは興味を持った。
 シヴァの婚約者で、一国の王女。
 守られる立場の王女が、自分を守る術を持っている事に。

「………いいでしょう。でも大丈夫なのですか?鞭じゃなくて。」
「…………私、得意なのは鞭だけど、剣も出来るわ。なんならハンデ付けて、私双剣にしてもいいのよ?」
「………盾でもいいですけど?」
「私、防御嫌いなの。」

 ジュディスは鞭を仕舞い、木剣をソロに投げると、直ぐに構える。
 
(…………ほぉ……。防御が嫌いだと言う割に隙の無い構えだ。柄の組手も力の入り加減、抜け加減が上手い。………シヴァ様と互角か武器次第ではそれ以上……。)
「来ないなら行くわよ?」
「………どうぞ。…………!!!」

 ガッ!

(早い!!)

 受け取った力は一瞬重く来るが、直ぐ様次の一手に入る力の抜け方に、ソロも防戦で確かめる。

「攻め込まないの?」

 ガッ!

「…………貴女の力量を見ているのですよ。」
「!!!」

 ソロに攻められるようになったジュディスも、ソロの剣捌きに圧倒されるが、力を流すように剣を滑らせながら、自分も攻める。

(これは………!!)

 ドカッ!

「…………はぁはぁ……私の勝ちね。」

 剣先はソロの頸動脈付近に……。

「お見事!!」
「……………長期戦だと、やっぱり無理か……。体力の差が出ちゃう。………きっつい!!でも、ありがとうございます。久々に楽しめました。」

 ジュディスはその場に座り込んでしまった。

「………お話しましょう。お察しの通り、私はカムラ国、近衛隊長のソロと申します。」

 ソロはジュディスに跪く。
 この時、ジュディスはまたやってしまった、と思った。
 身分の下の者が上の者に払う敬意をソロはしたのだ。

「…………辞めて下さい、私そんな跪つかれる身分じゃないし!!」
「………身分が卑しい者は、そんな事言いませんぞ、ジュリアナ王女。」
「…………あぁ……バレちゃった………。」
「…………そんなに、シヴァ様とのご結婚がお嫌ですか?」

 バツの悪い顔をしたジュディスは、その、話をしたくなさそうだった。
 
(………この方の武術があれば、どれだけ国が助かるか……。)

 ソロは思う。

「…………確かに結婚は嫌なんですけど………。国を離れて結婚したくないだけです。王位継承第1位の私が、他国に嫁ぐとなれば混乱が起きる。それを分からない国王でも無い筈なのに、意図が分からないので………。伺っても何も答えて下さらない………。だから、3年の猶予を貰い家出を……。王女として産まれた以上、好きな人と結婚なんて出来ないのは覚悟してましたし、3年貰えたらもう少し気持ちの整理が出来るかな、と。」
「ジュリアナ王女も、この話の意図が分からないのですね?」
「…………も?………て。」
「シヴァ様も聞かされておりません。シヴァ様もまたロートシルト国の内情を理解されてますから。」
「………じゃあ、連れ戻しに来た訳じゃないの?」
「…………あ、それは頼まれました。」
「…………私、まだ18歳になる迄は帰りませんからね!!絶対に!!」
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