上 下
41 / 59
恋愛開始

野獣の家族

しおりを挟む

 車で帰る気にもなれず、トボトボと歩く裕司は、自分の家の方向ではなく、今は無き実家のあった場所へと向かった。

 ―――やっぱり調べてたか……

 茶封筒を握り締め、駐車場になっている敷地を見つめる。

 ―――思い出したくもねぇぐらいなのに、此処来ると思い出しやがる………出来のいい弟に、興味を向けられない俺………如何でもいいさ……今更あいつ等が俺に興味なんて持つ訳ねぇし

 長く居たい場所ではない場所だった。
 裕司が警察に補導されようとも、引取にも来なかった両親。代わりに航の両親が引取に来る事が多く、裕司は航の家に入り浸る事も多かった。
 だが、航の進路を邪魔したくなかった裕司は、寂しさの捌け口を敵対する相手達に向け、とうとう逮捕された時、両親は家を引き払い、土地を売った。
 連絡も寄越す事も無く、ただ学費だけ支払い高校だけ卒業させ、厄介払いが出来たのだろう。裕司の進路にも相談に乗る事もなかった両親は、裕司の荷物だけ留置された警察署に送り、一切音沙汰が無いまま10数年。今更、その両親や弟が如何なっていようと関係は無い。

「…………航ん所行こうかな……」

 キキッ~、と車が裕司の背後で停まる。

「裕司?何してんだ?場所で」
「…………よぅ、航か」
「何だよ、お前昨日の格好のままじゃねぇか……紗耶香ちゃんは?」
「紗耶香を家送った帰りだよ」
「それで此処か?…………お前のマンションと方向違いじゃねぇか」

 航が車のロックを開けると、助手席のドアを開ける。

「乗れよ……送ってってやろうか?」
「…………家は……まだいいや………お前とちょっと話してぇ……それから帰る」
「あ?俺は仕事するぞ!仕込みあるんだよ!」
「お前は話聞いてくれりゃいいんだよ!なんなら手伝ってやるよ!」
「…………律也じゃねぇし、お前じゃ役立たんわ!」
「やけに信用してんじゃねぇか」

 裕司が車に乗り込むと、航は車を発車させた。

「律也のはな……男としては………まぁ……羽美がの餌食にされてると思うと腹立つが………」
「いい加減、妹離れしやがれ」
「…………無理!………所で……になんで居たんだよ」
「……………紗耶香の親父から、俺の家族奴等の所在地知らされてよ」
「…………あぁ……白河酒造ならやるな……」
「…………だろ?……まさか俺に言って来るとは思わなかったが」
「紗耶香ちゃんと結婚するんだろ?なら調べるだろうよ」
「…………今更……あんな奴等の居る場所知らされてもよ………」

 割烹料亭おさないに到着した裕司と航。

「裕司、荷下ろし手伝え」
「仕方ねぇな」
「あ?…………乗せてやった礼ぐらいしろや!」
「分かった分かった……」

 ワンボックスの荷を航と共に下ろす裕司だが、礼服を着ていたのに気が付いて上着だけは脱いだ。

「なぁ……裕司」
「何だよ」
「お前の親……親父さんの方だが………時々店に来てるぞ」
「は?何で言わなかった!」
「ただ飯食って帰るだけだったんだよ!………1人でカウンターの隅っこで酒も飲まず、飯食って帰る…………俺とも親父とも喋らず頑なに口を閉ざし、注文と会計時しか声を出さねぇ……親父は知らねぇだろうが、俺はお前の家族の顔は覚えてたからな」
「……………そうか……なら、このまま知らぬ振りしてくれ………頼む」
「………いいのか?」
「もう、あんな奴等は家族でも何でもねぇ……」

 裕司に無関心だった親だ。本当に今更存在をちらつかされても、裕司の心を掻き乱すだけだった。

「あら、裕司君」
「おばさん………ちわっ」
「まぁまぁ………航、服貸してあげたら?彬良君の結婚式の礼服なんでしょ?家に帰らなかったの?」
「コイツは彼女とホテルにしけこんだ後だよ!」
「…………おまっ………服貸せよ!汚れるんだよ!手伝わせてんだからクリーニング代出せ!阿呆!」
「お前が話あるっつったから、乗せてやったんじゃねぇか!働けボケ!」
「航!裕司君!じゃれなくていいから早く運びなさい!」
「「…………うぃ~っす……」」

 裕司は、裕司の母親より母親らしい航の母親を慕っている。そして、航の父親も自分の父親以上の愛情を感じていたからこそ、航をこの料理人させる夢を手助けし、刑務所に送られたとしても後悔はしてはいない。
 店の中に入ると、航の母親が航の服を持って来る。

「裕司君、クリーニング出さなくても汚れ落としてあげるから、おばさんに預けなさい」
「悪いんでいいですよ、手間でしょ」
「大丈夫よ………航より手が掛からないわ」
「あ?何でだよお袋!」
「アンタの前掛けと着物の方の汚れのが大変なのよ!………この子はいつ結婚するのやら………」
「言われてやがる………ざまぁ」
「裕司!てめぇ!」
「航!」

 航の母親から航に活が飛ぶ。
 裕司には懐かしくて落ち着く場所だった。

 ―――変わらねぇな………は………

 だからこそ、裕司の両親の事はもう如何でもいい、と思っているのだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

処理中です...