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恋愛開始
野獣の家族
しおりを挟む車で帰る気にもなれず、トボトボと歩く裕司は、自分の家の方向ではなく、今は無き実家のあった場所へと向かった。
―――やっぱり調べてたか……
茶封筒を握り締め、駐車場になっている敷地を見つめる。
―――思い出したくもねぇぐらいなのに、此処来ると思い出しやがる………出来のいい弟に、興味を向けられない俺………如何でもいいさ……今更あいつ等が俺に興味なんて持つ訳ねぇし
長く居たい場所ではない場所だった。
裕司が警察に補導されようとも、引取にも来なかった両親。代わりに航の両親が引取に来る事が多く、裕司は航の家に入り浸る事も多かった。
だが、航の進路を邪魔したくなかった裕司は、寂しさの捌け口を敵対する相手達に向け、とうとう逮捕された時、両親は家を引き払い、土地を売った。
連絡も寄越す事も無く、ただ学費だけ支払い高校だけ卒業させ、厄介払いが出来たのだろう。裕司の進路にも相談に乗る事もなかった両親は、裕司の荷物だけ留置された警察署に送り、一切音沙汰が無いまま10数年。今更、その両親や弟が如何なっていようと関係は無い。
「…………航ん所行こうかな……」
キキッ~、と車が裕司の背後で停まる。
「裕司?何してんだ?こんな場所で」
「…………よぅ、航か」
「何だよ、お前昨日の格好のままじゃねぇか……紗耶香ちゃんは?」
「紗耶香を家送った帰りだよ」
「それで此処か?…………お前のマンションと方向違いじゃねぇか」
航が車のロックを開けると、助手席のドアを開ける。
「乗れよ……送ってってやろうか?」
「…………家は……まだいいや………お前とちょっと話してぇ……それから帰る」
「あ?俺は仕事するぞ!仕込みあるんだよ!」
「お前は話聞いてくれりゃいいんだよ!なんなら手伝ってやるよ!」
「…………律也じゃねぇし、お前じゃ役立たんわ!」
「やけに信用してんじゃねぇか」
裕司が車に乗り込むと、航は車を発車させた。
「律也の料理の腕はな……男としては………まぁ……羽美がアレの餌食にされてると思うと腹立つが………」
「いい加減、妹離れしやがれ」
「…………無理!………所で……あんな場所になんで居たんだよ」
「……………紗耶香の親父から、俺の家族だった奴等の所在地知らされてよ」
「…………あぁ……白河酒造ならやるな……」
「…………だろ?……まさか俺に言って来るとは思わなかったが」
「紗耶香ちゃんと結婚するんだろ?なら調べるだろうよ」
「…………今更……あんな奴等の居る場所知らされてもよ………」
割烹料亭おさないに到着した裕司と航。
「裕司、荷下ろし手伝え」
「仕方ねぇな」
「あ?…………乗せてやった礼ぐらいしろや!」
「分かった分かった……」
ワンボックスの荷を航と共に下ろす裕司だが、礼服を着ていたのに気が付いて上着だけは脱いだ。
「なぁ……裕司」
「何だよ」
「お前の親……親父さんの方だが………時々店に来てるぞ」
「は?何で言わなかった!」
「ただ飯食って帰るだけだったんだよ!………1人でカウンターの隅っこで酒も飲まず、飯食って帰る…………俺とも親父とも喋らず頑なに口を閉ざし、注文と会計時しか声を出さねぇ……親父は知らねぇだろうが、俺はお前の家族の顔は覚えてたからな」
「……………そうか……なら、このまま知らぬ振りしてくれ………頼む」
「………いいのか?」
「もう、あんな奴等は家族でも何でもねぇ……」
裕司に無関心だった親だ。本当に今更存在をちらつかされても、裕司の心を掻き乱すだけだった。
「あら、裕司君」
「おばさん………ちわっ」
「まぁまぁ………航、服貸してあげたら?彬良君の結婚式の礼服なんでしょ?家に帰らなかったの?」
「コイツは彼女とホテルにしけこんだ後だよ!」
「…………おまっ………服貸せよ!汚れるんだよ!手伝わせてんだからクリーニング代出せ!阿呆!」
「お前が話あるっつったから、乗せてやったんじゃねぇか!働けボケ!」
「航!裕司君!じゃれなくていいから早く運びなさい!」
「「…………うぃ~っす……」」
裕司は、裕司の母親より母親らしい航の母親を慕っている。そして、航の父親も自分の父親以上の愛情を感じていたからこそ、航をこの料理人させる夢を手助けし、刑務所に送られたとしても後悔はしてはいない。
店の中に入ると、航の母親が航の服を持って来る。
「裕司君、クリーニング出さなくても汚れ落としてあげるから、おばさんに預けなさい」
「悪いんでいいですよ、手間でしょ」
「大丈夫よ………航より手が掛からないわ」
「あ?何でだよお袋!」
「アンタの前掛けと着物の方の汚れのが大変なのよ!………この子はいつ結婚するのやら………」
「言われてやがる………ざまぁ」
「裕司!てめぇ!」
「航!」
航の母親から航に活が飛ぶ。
裕司には懐かしくて落ち着く場所だった。
―――変わらねぇな………ココは………
だからこそ、裕司の両親の事はもう如何でもいい、と思っているのだろう。
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