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聖女降臨
しおりを挟む「ゴルーグ家、コーウェン、その妻よ……昨今の噂は耳にしておろう?我は聖女を探している。その噂を確かめる為に、其方達を呼び出した…………嘘偽り等ないかを確認する……女、お前は聖女か?」
コーウェンとカチュアは一礼していたのを終え、顔を上げた。
コーウェンが王を見据え、挨拶をした後、王に問いた。
「恐れながら申し上げます。聖女か否かどの様に判断されるのでしょうか?」
「文献を我も目を通しておる。その中の聖女の力を見せるのであれば認めよう」
コーウェンはカチュアと目を合せ、カチュアが口を開く。
「ご用意して頂きたい物がございます。私が用意してお持ちしても良かったのですが、それでは細工された、と思う方も居りましょう…………なので、今から申す物を用意して頂きたいのです」
「…………其方は聖女だと申すか」
「……それを判断されるのは、王でございます。私が聖女ではない、と申した所で、反対意見もあるかもしれません。逆もまた然り」
「…………何を用意させる?」
「…………水差しに、汚れた水を入れて頂ければ結構です。泥水でも汚水でも」
「………用意させよう」
暫くすると、黒く濁った水が用意された。
「さて、用意させた。これを如何する?」
「…………透明の水に変えます」
「透明の水だと!!」
「……………の、飲めるのか?」
侍従達はカチュアのする事に興味を示す。
王もライナスもコーウェンも如何なるか食い入る様に見つめた。
「飲むのはオススメはしません。何が入っているか分かりませんので………この黒く濁った水が、透明になるなら信じて頂けますか?」
「見ないと分からんな」
「………では、ご覧下さい」
カチュアは紋を結び、ブツブツと念を水に込めるとじわじわと黒から灰色、灰色から透明の水に変える。
歓声が上がる室内。
王もライナスもコーウェンも驚いている。
「如何でしょう?………文献にも載っていた力ですが…………136頁に載っていた筈です」
王は慌てて文献を開かせる。
一応、文献に書かれてしまった力を、予めカチュアも確認してあったのだ。
コーウェンの祖母の屋敷にもあった文献だ。
「か、書かれております」
「ま、魔女とかそういう類いではないのか?」
「………生憎、私に人を傷付ける力は備わってないと思っております………人間が悪事を働かない限り、私を守護する精霊達が怒りを覚えない限り、私は力を誇示するつもりはありません」
「…………分かった……認めよう」
「お認め頂き感謝します」
カチュアは王に一礼すると、王はカチュアに提案を出す。
「聖女、コーウェンと別れ、我の息子の誰かと結婚せい」
「…………何故でしょう」
「息子と結婚したら、国の志気も上がるというもの………其方が息子と結婚し息子を産めば、私の息子が王になれると思ってな」
「……………考えさせて下さい」
冗談ではない。
ライナスの悪行も、デュークの陵辱も、カチュアには地獄でしかないし、ライナスを排除するつもりでいるカチュアにとっては、最悪な提案。
だが、この提案も想定内だった。
「聖女、我は気が短い。気を持たせるなよ?明日までに返事をせい」
「断ったらどうなりますか?」
「お前の身内が如何なっても構わないなら、断るが良い」
「…………考えます」
国を率いる王の命令だが、それに従う気等更々ないカチュア。
コーウェンにも言われる可能性もカチュアから話してあった為、押し黙っている。
そして、王が聖女が降臨した、と府令を出し、その夜祝賀会をする、といきなり言われた。
それは想定外だったが、人が集まるなら好都合の為、そのまま客間に押し込まれたカチュア。
コーウェンは仕事が残っている、という予定通りに動く。
「本当に、僕と別れろ、と言われるなんてね」
「分かっていても聞きたくなかったです」
「カチュア……気を付けるんだよ………頼んだよ、シャルゼ達も……」
「任せとけ、コーウェン」
カチュアの背後には常に精霊達が待機していた。
この後起きる……いや、起こす事に意気揚々としている精霊達。
打ち合わせもそこそこに、話合っていると、侍従からコーウェンが追い出された。
「な、何で僕を追い出すんだ!」
「お前と聖女は別れてもらうからな、お前は邪魔なんだよ!」
「な、何する!」
ライナスが再び押し入り、侍従に羽交い締めされ、連れて行かれたコーウェン。
予定ではコーウェンは客間を出て仕事している間はカチュアは留まる手筈になっていたのだ。
コーウェンが仕事を終え、一緒に屋敷に帰る、という予定だったのだが、結果的にライナスが押し入って来たので、予定通りに進める、という事を精霊達に知らせたカチュア。
だが、コーウェンが心配なので、シヴァを付き合わせる。
「コーウェン様!!………何処に連れて行くのです!!いやぁ!!」
「おっと…………お前は俺に祝賀会迄付き合ってもらおうか」
「…………許されるとお思いですか?ライナス殿下………私はゴルーグ公爵家、コーウェン様の妻ですよ!」
「だから何だ?別れろと、王も言ったのを忘れたか?」
「別れてないのに、こんな行為が許されるとでも!?」
「そんなものは握り潰す」
怯える素振りを見せながら、後退りするカチュアは自分の周りに結界を張った。
「逃げ回るのも時間の問題だぞ?部屋から出られん」
「……………まさか、公爵家の既婚女性への強姦はライナス殿下なのですか?」
「だからどうした?もうそんな事は辞めるがな…………聖女を手に入れられるのだし」
「デューク殿下の奥様を強姦して、デューク殿下もお許しになるとは思えません!弟君ではないですか!」
「俺の子を産めるのだ、光栄に思うべきだろう?優秀な俺の子は多く居るべきだと思わんか?」
ベラベラとカチュアの話に答えるライナス。
誘導された言葉という事にまだ気が付いていない様子。
「思いません!!貴方は毎回そうですよね………私がデューク殿下の妻だった時、デューク殿下が仕事で屋敷を留守にしている間、侍従達を脅し、寝室に押し入った………貴方は私に『デュークの子種を掻き出し、注がれた分、お前に俺の子種を注いでやろう、そしてデュークは俺の子だと知らずに息子を可愛がる姿が滑稽で笑える』と、10年貴方に陵辱されてきました!」
「な………何?」
「私は過去に戻り、デューク殿下に嫁がず、バッシュ様に嫁いだ時も、貴方は私やバッシュ様、ゴードン様をあざ笑ったのです!それを、私が許すとでも!?握り潰すですって?無理ですよ、ライナス殿下…………この会話、王宮内に全て筒抜けですから」
一気にまくし立てたカチュア。
一息着くと、バタバタとこの客間目掛けてデュークや、グレゴリー、バッシュ、数多くの既婚男性が兵士を引き連れやって来たのだ。
ライナスは直ぐに囲まれ、多勢に無勢でいくら腕に自身があっても拘束されるのは早かった。
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