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対面

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 カチュアはカルディアとして、カルマにもう1つ噂を流させた。
 ラピファ大陸に1000年に1度現れるという聖女が今年降臨した、という噂だ。
 その聖女はとある公爵家の青年貴族と婚姻を結んだ、というオマケ付き。
 コルロフ王朝では、は伝記にあるものの、1000年に1度に現れる、という不確かな言葉に疑心暗鬼ではあるけれど、古い書物等に必ず聖女の話が書かれており、噂は瞬く間に流れていった。
 コーウェンの結婚と、聖女の出現を重ねる者は居なかったが、弱腰の内向的なコーウェンの妻になる女が誰かという予想が、冗談めいてコーウェンの妻は聖女なのではないか、とまで噂が流れては消えを繰り返していた。
 カルマに噂を流させたその日、コーウェンに怒られたカチュア。

「何で聖女が現れた、とまで噂を流させたんだ!」
「聖女とウェンの結婚を結び付けてしまおうと思って……これ以上、既婚女性の被害を出したくなかったし………流石に恥ずかしくて、ウェンの妻は聖女で私、とは言いにくくて……噂が噂を呼び、少しは聖女探しに没頭してくれないかな、と………無謀だったかしら?」
「…………確かにその方が、手っ取り早いけど………噂が尾ひれが付いて、聖女を探せ、と王令が出たら名乗りでるのかい?」
「しないわ、そんな事しなくても王宮が何らかの動きがあると思う、呼び出しとか」
「呼び出し?」
「最近結婚した公爵家の青年貴族で被害が出ていない夫婦はそんなに数はいないでしょう?と噂を流してるのだから、名乗り出ろ、とは言われない筈。伝記では聖女の力は隠されていないから、それを披露せよ、と言ってもらえればそれだけでいい」
「…………なるほどねぇ」

 言いくるめられた気もしないでもないコーウェンだが、それでも危険なのには変わりない為、複雑な表情をする。
 だが、カチュアの予想通りに王宮が動いた。
 聖女を探せ、と王だけでなく、ライナスも躍起になった。

「何としても聖女を探し出せ!もう他の女の事はどうでもいい!何としても聖女をその夫から奪ってこい!」

 ライナスが、私兵に命令したのは言うまでもなかった。
 そうして、王令により『最近結婚した公爵家の夫婦を登城させよ』と府令が回る。
 しかし、女の中には、と嘘を言う者も居たという。
 そういう女は不敬罪に問われ投獄するという、暴挙もあった。
 コーウェンも呼び出され、カチュアと共に登城したのは、そんな話を耳にしてからだった。
 登城したカチュアはコーウェンと共に、客間で待った。

「カチュア、どう証明するつもり?」
「内緒です」
「え!何で!?」
「ウェンにも驚いて欲しいですし」
「気になるなぁ」
「私が、聖女と証明されたら、予定通りにお願いします」
「………分かってるよ」

 侍従が呼びに来る迄、客間で待つ事しか出来ないので、カチュアはコーウェンと談笑していた。

 カチャ。

 いきなり前触れもなく扉が開き、びっくりして扉の方に目線を送ったカチュアとコーウェン。

「!!…………ライナス……」
「よぉ、コーウェン……結婚したんだってな………か?」
「…………スペリオール侯爵令嬢のカチュアだよ」

 カチュアをと言われ、いい気はしないコーウェンだが、立場の事を考えて、敢えて聞き流すコーウェン。
 まだライナスの前では内向的な性格でいなければならないのだ。

「…………カチュアと申します」
「お前にしては美人を連れてるじゃないか……噂では醜女とされてたが」
「……まぁ、僕だからね、彼女と結婚出来た事が奇跡だよ」
「カチュア、と言ったか………お前はこいつの何処に惹かれたんだ?」
「………お優しい所でしょうか」

 カチュアが惹かれた所はではない。
 本心をひた隠しし、無難な答えを出すカチュア。
 すると、ライナスは失笑する。

「決まり文句だな………コーウェン、せいぜい短い結婚生活を楽しめ………はははっ!」
「どういう意味だい?ライナス」
「お前如きの男じゃ、女は満足出来ないんじゃないかとな!カチュア、身体が寂しくなったら、俺を頼れ!満足させてやる」
「……………その機会があるかどうかは分かりませんが、頭の片隅にでも入れておきますわ」
「ふっ………なかなか言う女だ………もって3ヶ月でコーウェンは捨てられそうだな!」
「…………そうかもね」
「…………」

 コンコン。

「ゴルーグ公爵家コーウェン殿、夫人カチュア様、王がお呼びです」
「呼び出されたから行こうか、カチュア」
「はい…………ライナス殿下、失礼します」

 カチュアはコーウェンの腕を取り、寄り添う様に歩き出す。
 そうしなければ、震えが止まらなかったからだ。
 ライナスから離れると、コーウェンがカチュアに声を掛けた。

「大丈夫?」
「………私もですが、コーウェン様も大丈夫ですか?」
「僕は慣れてるよ………」

 侍従が側にいる為、愛称では呼ぶのを控えたカチュアが絡めた腕を、コーウェンはそっと撫でる。

「聞きたくない言葉ばかりでした………耐えられるのが凄いです」
「まぁ、それも近い内に終わるよ」
「………はい」

 王座に座る王と、後からライナスもやって来ると、王が口を開いた。


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