上 下
25 / 30

粛清

しおりを挟む

 メイリーンとヒューマが結婚して、5日目の朝。
 食べては寝て、貪り合い睦み合い、2人共に気怠さが残る朝を迎えた。

「…………メイリーン……」
「……おはようございます、ヒューマ様……」
「…………名残り惜しいな………休みが終わってしまった………」
「ふふふ………お仕事も大事ですよ?」
「…………夢の様な日から地獄に一転か……ラノックの事の処理も山積みだろうからな……」

 処理するだけ、と言うものの、大事件の処理は並大抵の物では無い筈で、休みだった5日間の内にも何度もヒューマの部下がヒューマに聞きに来ては、ヒューマを怒らせていた。
 ヒューマが呼び出される為、苦肉の策でクロードがメイリーンとヒューマの居るベッドの天蓋で2人を覆い、部下達がヒューマの指示を仰ぎに来る事が日に何度もあった。邪魔された気分になるので、部下が部屋を去ると、ヒューマは苛々を増して、メイリーンを抱き潰す図式も出来てしまい、メイリーン自身は『やっと終わった』感が顔に出ている。
 房事中、いくら天蓋で隠されていても、報告に来る部下や邸の侍従達は、その場に居づらい筈で、メイリーンもそんな趣味は無い。
 ヒューマも無いと思うのだが、見られるのは気にも止めない男なので、中断させられるのが嫌なだけの様だった。

「頑張って下さい、ヒューマ様」
「…………登城も面倒くさいな……」
「将軍なのですから………ね?」

 抱き締め合うベッドの上で、怠い身体を寄せるメイリーンが愛しくて仕方ないのか、起きた早々ヒューマはメイリーンの尻を撫で始めた。

「っ!」
「…………もう少し、時間は融通出来る……1回だけ…………な?」
「も、もう流石に………」

 コンコン。

「「!!」」
『旦那様、登城のご準備を』

 もう、休みは終わったのだ、とタイミング良く、扉の外からクロードの声がする。

「ほら!ご準備を!」
「……………はぁ……仕方ない……メイ」
「はい」
「君はもう少し寝てるといい………身体が辛いだろ?」
「………わたくしも起きますわ……女主人ですもの、邸の事をしなければ」
「………無理するなよ?無理させた俺が言うのも何だが………」

 ヒューマは身体をお越し、脱ぎ捨ててあったバスローブを2着拾い、1着をメイリーンに渡すと、もう1着を羽織る。

「クロード!侍女達も呼んでくれ、メイリーンも起きる準備する」
『畏まりました、直ぐに』

 朝食を軽く取り、ヒューマは騎乗で登城をする迄、メイリーンは見送った。

「行ってくる」
「はい、お気を付けて」

 メイリーンも笑顔で見送るつもりで、距離を取って立っていたが、ヒューマはメイリーンを軽く抱き寄せ、腹を擦りながら額にキスを落とした。

「孕んだか分からんが、こっちにも挨拶しないとな」
「…………気が早いですわね……」
「あれだけ注いだんだ、出来てるさ」
「だとしても、分かるのは少し先ですわ」
「出来て日課にしても、たった数週間の差だ………邸の事は任せた……クロードや侍従達に分からない事は気軽に聞いてくれ」
「教えてもらってますよ、少しずつ………部下の方達もヒューマ様を待ってますわ、もう行かれた方が宜しいのでは?」
「……………はぁ……面倒くさい……」
「行ってらっしゃいませ」

 邸の管理や部下達の給料等、今迄やり繰りしていたのはクロードだと知ったメイリーン。これからはメイリーンも女主人として、切り盛りしていかなければならず、ヒューマとは別に執務室を作ってもらって、仕事を始めるようになったのは、ラノック公爵が逮捕されてからだ。
 まだ教えて貰いながらではあるものの、少しずつ覚えて熟しているメイリーン。

「ヒューマ様のご両親は亡くなられた、と聞いたけど、それからはクロードがヒューマ様の補佐をされていたのよね?」
「はい、ヒューマ様が伯爵位を継がれたのは5歳の頃でして、それからはお1人で頑張っておられました」
「…………5歳からお1人?」
「はい………前伯爵様と夫人は粛清されたのです………政治争いに巻き込まれ」
「…………知らなかった……わたくしも聞かなかったけれど、そんな事が……」
「ラノック前公爵との派閥争いで亡くなりました」
「…………え?」
「幼い頃は、逮捕されたラノック公爵と仲が良かったのですが、その事もあり仲違いされ……」

 クロードの話を聞けば、かなり前から因縁があった家同士だったのだという。
 現国王、ケイドンはラノック公爵家の血縁だとメイリーンは聞かされた。ケイドンは人間と獣人の混血だが、人間の血が強く、獣人の力は無かったが、弟は獅子の獣人で産まれ、ラノック前公爵は次期王はケイドンの弟を推していたらしい。
 同じ血縁者ではあるものの、人間と獣人の混血種でも、後継者を選ぶ際、揉め事は多々あるという。
 ケイドンが王になる前、ケイドンを推す派閥側に居たのが、ヒューマの両親で、ケイドンの弟を推す派閥側にラノック前公爵が居た為に、ヒューマの両親は馬車の事故に見せかけ亡くなった。

「ラノック前公爵様は如何なったのです?」
「…………処刑されました……ケイドン国王の弟殿下と他の派閥貴族と共に……約20年程前になるでしょうか……」
「わたくしはまだ産まれてないですわね……」
「………ヒューマ様のお父上は黒豹獣人の長でもありましたから、ヒューマ様はお父上の部下達に助けられながら今に至ります」

 ヒューマは悲しみを乗り越えて来た筈で、その事をメイリーンに言わなかったのは、同情されたくなかったのか、それとももう乗り越えて言う事でも無かったのかは分からない。
 それでも、メイリーンはヒューマ本人から聞きたかった。

「…………わたくしは、ヒューマ様に何をして差しあげられるのが良いのかしら……」
「特に何も」
「何も?」
「奥様が奥様らしく、旦那様のお近くに居られたら、それで宜しいと思います」
「…………照れますね、奥様なんて……」
「過去、旦那様は何人もの女性を邸に呼びましたが、その多くは旦那様の地位や美しさ、金に目が眩む方ばかりでした…………ですが、奥様は違われた………旦那様が奥様を『番い』だと、直ぐに仰ったのは正しかったと思います」

 確かに、メイリーンはヒューマの金や地位には眩んでいない。ヒューマ本来の獣の黒豹の姿に魅了されたのだ。
 その後、人となりを知り、一緒に居る事が自然に思えて、番いになった。

「直ぐに?」
「はい…………奥様が此方に来られた翌日辺りに私にはお話されました」
「そ、そんな事迄!」
「私が話たのは内緒ですよ?旦那様、あんな風貌ですが、割と照れ屋ですから」
「そ、そうなの?」
「はい………奥様なら直ぐに分かります」
「探してみます」
「えぇ、探してみて下さい」

 数日、そんな平凡な日々を送っていたある日、ラビアン伯爵邸が騒がしくなった。
 ヒューマが結婚した、という情報は公にはしていなかった事もあり、ヒューマと関係を持った事のある令嬢達が押し寄せて来たのだ。

「お帰り下さい!旦那様は登城しております!」

 邸の侍従達が追い返そうとしている声が、窓を開けて仕事をしていたメイリーンにも聞こえてきていた。

「何事?あの騒ぎ」
「奥様がお気になさる事はございませんよ、たかがですから」
「…………そうは言っても、最近ずっとあんな騒ぎが門で繰り広げられてないかしら?」

 侍従達はメイリーンにはその事は伝えてはおらず、侍従達がひた隠ししていた。
 ヒューマに聞いても、『ラノックの支持者ではないか』と返される始末だったのだ。

「…………貴族のご令嬢ばかりね……ご夫人も居る?」
「お、奥様!少しご休憩しませんか?お仕事詰め込み過ぎてお疲れでしょう?」
「………まだ大丈夫よ?わたくし」
「あ!虫が入ってきてます!窓閉めますね!」

 ヒューマだけでなく、侍従達も隠そうとする態度に腹が立って来るメイリーンは、仕事を中断し執務室から出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

婚約者にお飾りになれと言われた令嬢は

こうやさい
恋愛
 他に好きな人が出来た婚約者に、将来お飾りの妻になれと言われた令嬢はそれを了承した。  その後令嬢は……。  まー、よくある話? 一応いつまでどれだけかはとにかく令嬢は婚約者好きだったよ、だって恋愛カテだから(おい)。  けどちょっとだけ被害者ではなく悪女ではと思わなくもない。最初の方はまだマシだったよな、あの男。この前に自分より目立つなとか言ってないならだけど。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ちょっとバランス悪かったのでいつもより無駄に割ってます。……最初よりはマシだけどやっぱり悪いってのは構成に問題があるんだなつまり。  内容がよくありすぎてお蔵ってたシロモノ。他人様のでもアレだけど自作とも被ってる自覚がある。……いつもか(爆)。消えてたら察してください。。。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/487635326

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...