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プロローグ

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「ん………やァァァっ、止め………てぇ……」
「…………フッ………君の中は喜んでいる様だが?」

 じゅぶ、じゅぶ、と真っ暗の部屋で卑猥な音が響き、組み敷かれた女は尻から尻尾の生えた獣人の男の杭を突き刺さられていて、繋がる場所からは何度も男から受け取っていたのだろうか、ぽたっぽたっと背に伝わらなかった白濁を溢して、敷布を汚していた。

 ―――もう………終わって……

 この日、男爵令嬢のメイリーンは獣人は招待されていない夜会に来ていた。それなのに、メイリーンは獣人貴族に気に入られたのか、夜会で出会ったその夜に、獣人の男の邸に連れ込まれたのだ。


       ♠♠♠♠♠♠

 少し時は遡る。

「ほら、メイリーン嬢よ」
「また男漁りかしら」

 夜会に招待されれば、険悪な関係の貴族の家だろうと馳せ参じるメイリーン。ただ1つの条件を除けば………。

「あら、わたくしのお話?」
「い、行きましょう」
「そ、そうね………」

 メイリーンは貴族令嬢達に嫌われていた。
 無愛想、言葉のキツさ、見下す態度、そして婚約者や恋人が居ても構わないと言い、男を奪う。
 メイリーンが住むイパ島、オルタナ国では獣人が住むからか、性に対して自由だった。結婚する上で処女か処女ではないかの縛りは全く無い。
 獣人の種によっては、つがいになり、一生その相手と生涯共にする、という種もあれば、パートナーを変える種も居るからだ。
 勿論、共存している国なので混血も多く、生まれる子は人か獣人の何方かで生まれる。
 メイリーンは混血を生みたいとも思わないし、獣人に嫌悪感を持っている、生粋の人間だった。メイリーンが獣人に嫌悪感があるのには訳があるのだが、その理由はメイリーンは誰にも言わなかった。

「あら、ご機嫌よう……スチュアート様」
「っ!………や、やぁ……メイリーン嬢」
「先日は、でしたわね?」
「え!………メ、メイリーン嬢!……い、言わない約束…………っ!」
「スチュアート様!まさかこの女と浮気したの!?」

 見知った貴族の男が、女と仲睦まじく話ていようが、メイリーンは構わず声を掛け、邪魔をする。それが、相手の男がメイリーンとの関係があって暴露しては、女との仲を割く楽しみもあるのだ。

「ふふふ………貴女に魅力が無かったのではなくて?…………残念ねぇ……浮気されて……」
「な!何ですって!」
「……………わたくしは、未練等ありませんからお幸せに………」

 一夜限りの関係も多く、相手の男に満足しなかったら、簡単に切ってしまうメイリーンだった。
 喧嘩越しに貴族の男に詰め寄る女と、メイリーンと関係を持った男に背を向け、口元に扇を当てるメイリーン。毎回、メイリーンが夜会に出ると、1組か2組はこの痴話喧嘩が見られる。

 ―――浮気を許す女等居ないのよ………わたくしはわたくしを愛してくれるがいいの……ではないわ

 獣人を毛嫌いしてはいるが、それは伴侶になる為には嫌なだけだ。メイリーンの住む男爵家にも、獣人の侍従も居て、接する事もある。ただ、だけ。そして夜会での男漁りは、男が浮気する性格か如何かを見ていたのだ。
 しかし、冷酷な印象を周囲に与えていたメイリーンに、貴族令嬢達は近付きもしなかったので、メイリーンに付いたあだ名が『冷酷令嬢』。伴侶探しに来たメイリーンに、令嬢達との交流は必要としていなかった。

「メイリーン嬢」
「…………貴方は、ラビアン伯爵?」
「………えぇ、よくご存知で」
「貴方を知らぬ人は居られませんわ………オルタナ国の将軍ですもの」

 メイリーンはシャンパンを招待された夜会会場の給餌から受け取って飲み掛けた時だった。軍人であるその男が上質な生地の服に身を纏うが、逞しい身体の方に目が向いてしまうメイリーン。

「何故、獣人貴族の貴方がこの夜会に?」

 そう、彼は豹の獣人だった。俊敏かつ獰猛の豹の獣人のラビアン伯爵が、に居るのが不思議だった。

「俺は、のパートナーですよ……貴女は1人で来られた様だが?」
「わたくしの噂聞いてませんの?………伴侶となる方を選ぶ為に、夜会に来て男性達を漁る、と………」
「知ってますよ?………だが、何だと言うのです?婚約者や恋人が居る男等、食って捨ててるのは、の様だ………参加しないメイリーン嬢」

 ラビアン伯爵はメイリーンの噂も行動も知っている様子。
 メイリーンは、何もラビアン伯爵の事は知らないにもかかわらず、何故彼はメイリーンの事を知るのか。

「獣人と一緒にしないで頂けます?………わたくし、獣人の方との結婚は避けたいだけですわ」
「……………ほぅ?………それは何故です?」

 ラビアン伯爵が興味有げに聞いてくる。
 しかし、メイリーンは言いたくなかった。

「言いたくありませんわ……失礼致しますわね」
「それなら、は如何です?」
「……………え?」

 メイリーンが踵を返し、ラビアン伯爵に背を向け掛かった時、突如言われた言葉に振り向くメイリーン。

「……………………ありませんか?俺は……」
「…………っ!」

 メイリーンの躊躇する表情。それは、獣人特有に持つフェロモンにより、メイリーンを魅了する目線。逞しく野性的なラビアン伯爵の目は、豹というだけあり、美しさも兼ね備えていた。

「…………ありませんよね?………俺は、貴女に興味あったのでお誘いしてるのだが?」

 会場中がラビアン伯爵のフェロモンに当てられる。

 ―――クラクラする……

「………さぁ、この手を……取らねば、俺は会場中の女を相手する羽目になる……」
「……………あ……」

 メイリーンは、酩酊に近くて違う酔いに、思わずラビアン伯爵の手を掴んでしまった。

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