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結婚式迄あと1週間①

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 ナターシャは皇女宮のラメイラの妃修業をしていた。

「ラメイラ様、淑女らしい事お嫌いですよね……。」

 貴族の嗜みの1つでもある刺繍を教えていた。
 ラメイラの前で、ナターシャは簡単な刺繍の仕方を教えたのだが、ナターシャが花の刺繍をすると、ラメイラは岩のような形を作ったのだ。
 針に糸を通すにも一苦労したラメイラ。
 これでは覚えるのに時間も掛かるだろう。

「私はこういう細かい作業が嫌いなんだよ。」
「それでは何がお好きなんですの?」
「乗馬や、武術かなぁ。」
「乗馬はともかく、武術は妃になるには必要ないですわね。」
「私は、女の遊びなんてした事がないの。母は幼い時に亡くなって、兄と弟に囲まれてたから、遊びも男の遊びばかり。木登りとか、落とし穴作ったり……。で、外交で初めてレングストンに来たら、皇子4人でしょ?男の遊びばっかりしてたよ。」

 あぐらまでかくラメイラの前に、淑女らしく座るナターシャ。

「伺って宜しいですか?ラメイラ様。」
「何?」
「タイタス殿下をお好きになったのはその頃ですの?」
「!!………な、何でそれを……。」
「タイタス殿下に触れられた時、顔が赤くなってましたから。」

 ラメイラは頭を掻き毟る。

「あぁ……誰にも知られてない、て思ってた。」
「リュカ殿下は知りませんでしたわ。」
「リュカはなぁ………女嫌いだったし、私を女と見てないし。」
「好きな人に、女らしさを見せるつもりはないのですか?」
「ナターシャみたいな喋り方は無理だ。気持ち悪い、て言われる。」
「タイタス殿下が仰ったのですか?」

 ナターシャが聞くと、悲しそうな顔をした。

「それでも好きなんだ……。勇ましくて男らしいタイタスが……レングストンで皇子達の結婚相手を探している、て聞いて父上に脅しや泣きつたりして迄頼み込んでやっと………。」
「ラメイラ様………。」
「トリスタンはそういう男が好まれるんだ。だけど、女はやはりナターシャみたいな、男を立てるタイプの女性が好まれ、私は誰にも相手をされない………レングストンに来て、女扱いをしてくれたのがタイタスで………さ。」

 悲しそうに話すラメイラ。
 だが、彼女のプライドなのか、喋り方は立ち居振る舞いは直す気もないようで、恋にやっと目覚めたナターシャにはどうしていいか分からない。
 外見だけでもどうにかならないのだろうか。

「ラメイラ様、服装ですけどトリスタンの女性はそういう服装が多いのですか?」
「いや、ナターシャの様な服装だ。私は乗馬が好きだから、ドレスでも跨ぎやすいようにしたくて、前開きの足元から胸迄開けるようにして、細いズボンを履いている。一応見られたくないからな。」
「ラメイラ様、殿下とわたくしの結婚式は我慢して、着飾りません?」
「え!?」
「着飾ってタイタス殿下とお会いになればいいのです!」

 そうしてラメイラはナターシャに改造させられたのは言うまでもない。

「ラメイラ様、当日そのお姿楽しみにしておりますね。刺繍は今度のお勉強の時間迄布いっぱいに縫っておいて下さい。何事にも練習あるのみです!」

 と、宿題をラメイラに課したナターシャは皇太子邸に戻ろうとすると、また交流のない令嬢達が傍に来る。

(…………懲りない方々ね……。)
「ナターシャ様、ご機嫌よう。」
「ロレイラ様とレーチェ様、ご機嫌よう。こちらは王族の居住地ですわ、ご用がありましたか?」
「あなたこそ、王族ではないのにこちらで何を?」

 ロレイラは公爵令嬢で、祖父が前皇帝の弟君の為、居住地に来てもおかしくはないのだが、血縁者は王宮には住んでいない記憶がナターシャにあった。

「確かにわたくしは王族ではありません。しかし、わたくしも公爵家。血脈は薄れてもこの事実は覆せません。」
「嘆かわしいと思いません?ナターシャ様。血脈が薄れても公爵家を名乗れる浅ましさを。」
(…………この方、今迄の令嬢とは違う。)
「そこまでわたくしに仰られても、父は公爵ですから。」

 なるべく表情を読み取られないように、ポーカーフェイスで対応するナターシャ。

「わたくし、皇太子殿下の許婚だったのをナターシャ様はご存知かしら?」

 ロレイラはリュカより少し年上で今年22歳になる、レングストンでは婚期が遅れている令嬢の部類に入ってしまった女性。
 レーチェはロレイラの友人として付き添ったのだと見て分かる。

「存じませんが………でしたら、わたくしが皇太子殿下の許婚になのでしょうか?わたくし、5歳で殿下の許婚になりましたから。」
「えぇ、許婚だったわたくしを傷付けといて、ナターシャ様はわたくしに謝罪はないのかしら?」
(………そんな5歳のわたくしが知ると思ってらっしゃるのかしら、この方。)
「ロレイラ様、子供の頃のわたくしが分かる事では無いかと………それに今謝罪をされて、ロレイラ様は気が休まりますの?」
「ナターシャ様はお口が達者なのですね、わたくしの言葉をチクチクとお返しになられて。」

 気に食わないと顔に出て来たロレイラ。
 作り笑いの頬が引きつり、手に持っていた扇で顔を隠した。

(………扇、便利ね。わたくしも用意しておきましょ。)
「どうなのです?ナターシャ様。」
「達者かどうかは分かりませんが、皇太子妃になる者として、心を簡単に見せてはいけない、と思っておりますから、その様に見えるのではないでしょうか。」

 ドカドカドカドカ!!

「ナターシャ!!」

 皇女宮の前で立ち話をしていたのに気が付いたのか、ラメイラが降りてきた。

「ラメイラ様、如何されました?」
「如何もどうもない!!さっきから会話聞いてりゃ、気になって降りてくるよ!ナターシャ、大丈夫か?」
「まぁ、なんてはしたない女性なんでしょう………。しかも何故皇女宮からこんな方が……。」
「ロレイラ様、彼女はトリスタン公国のラメイラ公女ですわ。現在、来賓として皇女宮の一角に身を寄せてらっしゃるんです。」
「こ、公女………ですって?」

 声を押し殺しているが、扇の中では笑っているのが分かる。
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