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婚約発表②
しおりを挟むいくら婚約したからと言ってもまだ発表をした訳でも、皇帝や皇妃に認められた訳でもない為、リュカの後ろを控えめに歩くナターシャ。
「皇太子殿下。」
歩いていると、何人もの令嬢から声が掛かる。
(………これで、6人目かしら……。)
ナターシャは数えていた。
その都度、リュカは冷たい視線を令嬢に送り、会話をせずに歩いて行く。
しかし、この令嬢はリュカとナターシャの進行方向を遮っていた。
「通してくれないか。」
「お話をしたいのですが?」
令嬢はチラッとナターシャを見て鼻で笑う。
(………失礼な方………この方、子爵家のレティシャ様だったかしら。)
「衛兵!!この女を摘み出せ!!暫くの間、登城を禁ずる!!」
彼女の行為が癪に触ったリュカ。
「何故ですか!皇太子殿下!!」
呼ばれた衛兵に肩を掴まれた子爵令嬢の言葉に対し、リュカは更に冷たい態度を向ける。
「子爵令嬢が、公爵令嬢に対して無礼だとは思わないのか?分からないなら、暫くの登城禁止でなく、何があろうとも、登城禁止にするぞ!」
「こ……公爵令嬢………。」
レティシャは項垂れてしまう。
ナターシャを知らなかったのだろうが、それでは、彼女の未来を絶つようなものだ。
腹が立ったナターシャだが、リュカの腕に手を添え、声を掛けた。
「リュカ殿下、レティシャ様はわたくしをご存知なかったようですし、仕方ありません。反省されておいでなので、ここは穏便になさって頂けますか?」
「ナターシャ!!彼女は君を嘲笑ったんだぞ?」
「確かに、いい気分ではありませんが、貴族の顔と名前をご存知なかった不勉強さを、ご自分が反省されれば良い事。レティシャ様のお父上も、この件を知ればレティシャ様はお部屋に篭せ、その間知識を広めるでしょう。そうなれば、登城する機会もある筈、道を断てば、レティシャ様の婚姻に傷が付きますわ。」
登城が許されない貴族は華やかな場に出る時に、その理由を探られる為、不名誉な噂が立つ相手を毛嫌いし、婚姻相手を探す機会を逃しかねないのだ。
不名誉の噂を立てた貴族を求める貴族は居ない。
「ナターシャは彼女と知り合いなの?」
「知りません。交流も無ければお会いしたのも初めてです。」
リュカはナターシャの知識に驚き、笑ってしまう。
「はははははは!!………流石、俺のナターシャ!!良かったな、レティシャ嬢、この件はナターシャに免じ許してやろう………但し、私の前に現れるな、彼女が許しても私は彼女に対する無礼を許した訳ではないのだからな。離していいぞ。」
「はっ!」
「あ、ありがとうございます……皇太子殿下、ナターシャ様。」
「ナターシャ、遅れてしまう。もう行こうか。」
リュカはナターシャに手を差し伸べ招く。
思わず、ナターシャは手を添えてしまった為、その隙にとばかりリュカは肩を抱いて歩き出してしまった。
「で、殿下………恥ずかしいです………。」
「もう駄目、離さない。」
先程の令嬢との一件で、ナターシャの行いは噂になった事は言うまでもない。
「あの姿見たら、もう皇太子妃の器量があると誰もが思う筈だよ。貴族令嬢もしかも自分より爵位が低い女の顔と名前を知っていて、彼女の将来も心配した、となれば、ナターシャの知識、配慮、立ち居振る舞いを期待しない貴族は居ない。まぁ、気が付いた所で、もう遅いけどね、君は俺のだから。」
あの冷徹な表情を振り撒きながら、王城を歩いていたリュカがご機嫌になり、令嬢の肩を抱き寄せて歩いている、とこちらもまたたく間に噂に上がった。
謁見の間の前に来ると、苛々しながら立っているセシルを見つける。
「やっぱり遅くなりましたね。何してたんですか?」
「あぁ、来る途中、令嬢に捕まったんだ。」
「鼻の下でも伸ばしてたんですか?」
「俺がそんな事する訳ないだろう?」
「今がそうですけど?妹に捕まったじゃないですか、鼻の下も伸ばしてるし。」
「……………。」
正に、鼻の下を伸ばして上機嫌で歩いていた。
ナターシャの肩を抱き寄せて歩いてから……。
セシルの言った事は間違っていない。
「……………俺の侍従、カイルに変えてもらおうかな……。」
「カイルは無理ですよ。せっかちのカイルが侍従ならリュカ殿下は泣きますよ?忙し過ぎて。」
カチャ。
「何をしている。話声がするから開けて見たら、殿下がお見えではないか!早く教えなさい、セシル!」
「……すいません、父上。」
「遅くなって、すまない。」
「リュカ殿下、お入り下さい。陛下がお待ちですよ。」
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