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リュカの過去

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 ほぼ同時刻、王城では宰相であるウィンストン公爵が王と皇妃に謁見を求め話をしていた。

「真か!皇太子がナターシャ嬢を射止めたか!」
「はい、息子のセシルからの話ですと……昨夕から、離宮に行かれていた皇太子殿下と娘をセシルが迎えにいっております。」
「まぁ、離宮に?」
「はい。」
「帰って来たら、皇太子に最終確認し、婚約を発表しようではないか、な、皇妃。」
「そうですわね。わたくしもナターシャ嬢とお話したかったですし、嬉しい話ですわ。」
「では、お戻りになられましたら、陛下にお伝え参ります。」
「うむ、待っておる。」

 ウィンストン公爵は早々と、家に居る妻と、既に登城しているカイルに伝え、皇子宮に向かった。

「おはようございます、トーマス殿下。」
「………あれ?宰相が珍しいではないか。」
「はい、皇太子殿下のお帰りをこちらで待とうかと。」

 皇子宮の入り口に何故トーマスが居るのか気にはなったが、ウィンストン公爵は黙っていた。
 トーマスの後ろに控え立っている。

「なぁ、宰相………。」
「はい、殿下。」
「離宮にあなたは行った事があるのか?」
「勿論です。陛下がの皇太子時代にはよく共を。」
「…………未婚……そうか……兄上はやはり女性から逃げていたのはそういう事か……。」
「皇太子にだけ受け継がれ、世間に知られていないのは、皇太子の貞操を守る為の物。それが、優秀な皇太子だったら尚の事。私が知る限りでは、ナターシャがこちらに身を寄せる前ですが、週の半分は行かれてました。執務も兼ねて。」
「そんなに?」

 トーマスは自分の後ろに控えていたウィンストン公爵を振り向いた。

「はい、息子が侍従になる前は私が皇太子殿下の共を……。」
「皇太子と皇子はそんなに違うのか……。」
「そうではありません。もし、リュカ殿下が多才ではなく、トーマス殿下が秀でておられたら、陛下はトーマス殿下を守れ、と仰ったと思います。」
「…………。」
「長兄のリュカ殿下が才もあり、聡明で華があった方だからこそ、あわよくば『皇太子殿下の子が』と権力と地位を狙う私利私欲の為の道具のように群がる女達が居る事が、リュカ殿下を闇に落としたのです………特に10歳前後が荒れてらっしゃいましたね。心が壊れ掛かってらっしゃった。」
「知らなかった。」

 トーマスは青ざめる。

「弟君の前では『強く頼られる兄』をされてらっしゃいましたからね、幼い時はよく私の前で泣いてらっしゃいましたよ。そんな時、ナターシャの一言で助けられた、と仰ってました。ナターシャは覚えておりませんがね。」
「お茶会が初めてじゃ……。」
「お茶会ですよ………ナターシャは好奇心旺盛で、庭を散策していたらしく、その時に隠れて泣いてらっしゃったリュカ殿下と話をしたらしいです。そしてナターシャを許婚に、と陛下におねだりしたのを後ろで聞いておりました。」

 ウィンストン公爵は懐かしそうに語る。

「ピアノを弾いていたナターシャを気に入って、ではないのか………。」
「ふふふ……確かにリュカ殿下は音楽はお好きですが、ナターシャのピアノを聞くまでは、ご自分で演奏された事はなかったですよ?必死で練習されたようで、ナターシャより上手くなって、教えるんだ、と………ふふふ。」
「………もう、勝てないな………兄上には……。」
「トーマス殿下には、相性の良さそうなご令嬢をご用意しておりますよ。」
「は?」

 意外な話に変わった、とトーマスは驚く。

「元々、リュカ殿下にはナターシャを、と願っておりましたし、リュカ殿下が好む娘に育てましたからね、トーマス殿下やタイタス殿下を選ばれたらどうしようか、と心配致しました。近々王宮内に新たなご令嬢をお迎えする手筈になっておりますので。」
「…………俺達の心は……。」
「これでも宰相を任されておりますから、厳選し良縁になるよう動いております。因みに、政治的に娘を皇太子妃に、とは願っておりませんので、誤解の無いようお願い致します。」

 ウィンストン公爵は、トーマスに深々と頭を下げ、毅然とした態度で佇むのだった。
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