私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

トーマス、タイタス、コリン

「離宮、なんてあるのか……。」
「……………。」

　ドカッ。

　トーマスは乱暴に椅子を引いて座った。

「トーマス兄上？」

　タイタスは心配そうにトーマスを見る。

「何で教えてはもらえないんだ？」
「は？」
「離宮だよ！」
「そんなん分かるかよっ！」

　トーマスはこの日程、皇太子であるリュカとの差を突き付けられた気がした。
　トーマスにとって2歳上の兄は華やかで、誰からも目を惹いた。
　何をさせても上手く熟し、女性からもモテる。
　トーマスと並んでも、漆黒の髪のトーマスと、白銀にも見える薄い金髪はサラサラと靡き、目だっているリュカ。
　父の皇帝も金髪で、母の皇妃はこげ茶で漆黒のトーマスとはどちらも似なかった。
　母方の祖父が漆黒の髪だったらしく、その遺伝だろう、と言われ、弟のタイタスも緑掛かった黒っぽい髪色で、やはりトーマスと同じ見方をされていたのだ。
　末弟のコリンは金髪で、末っ子特有の要領の良さから、目を惹く皇子だった。
　だが、兄のリュカは分け隔てなく、弟皇子を可愛がり、自分の事は後回しにしてまでも、弟達を立ててきたのに、兄は弟達に隠し事をしている事にショックを受けてしまったのだった。
　それが、人の目を惹く皇子となる事が、幼かったリュカに分かる筈もない。
　皇太子妃の座を狙う下心ばかりの女達が居た事も、弟達は知らないのだ。
　リュカが目立てば、その分弟達には目が行かず、リュカ1人だけ我慢をしてきた事で、父である皇帝も経験してきた為の配慮が離宮だっただけの話。
　よって、弟達には関係のない場所な為、教える事もなかっただけなのだが、弟達は面白くなかったようだ。

「兄上…………裏切られた気分だ……。」
「僕、兄上の1人になりたい、て意味、何か分かるんだけど……。」
「コリン？」
「小さい時、リュカ兄上と遊んでたらさ、リュカ兄上目当てに媚び売る女が居て、兄上だけ連れて行かれたんだ。兄上怯えてて、隠れてろ、て言われて隠れてたら、兄上の泣き声聞こえて覗いたら………女に襲われてて……。」

　トーマスとタイタスは青ざめる。

「何だよそれ！！」
「それから、その年上の女に見つけると、兄上逃げ回ってた。何人も居たけど……。」
「……………兄上……そんな事が……。」
「とりあえず、待とう………。教えてはもらえないかもしれないが……。」

　トーマスは暗く低い声で呟くしか出来なかった。

(………ナターシャに会わなかったら壊れてた、て意味………今頃知るとは……。追い掛け回されてたのは知ってるが、襲われもいたとは……。)

　眼鏡を外し、目頭を押さえるトーマスはこの日、一睡も出来なかった。