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リュカの大切な場所

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 リュカはナターシャに押し切られ、傷の手当てを終えてから、厩舎に歩いていく。
 勿論ナターシャも一緒だが、リュカに肩を抱かれるのも、腰を抱き寄せられるのも恥ずかしいから、と嫌がられたリュカ。

「ナターシャ……冷たい。」
「恥ずかしいんです!2人きりでも恥ずかしいんですよ?」
「俺は見せびらかしたいのに……。」
「まだ嫌です!」

 婚約発表もまだだし、まだ2人だけの話な為、イチャイチャとしたくないのがナターシャの意見だった。
 惚れた弱みで、リュカもナターシャに弱いので、結局受け入れる羽目になっている。
 フェデラーを厩舎から出し、リュカはナターシャをフェデラーに乗せた。

「フェデラー、お願いしますわ。」
「ブルルル……。」
「すっかり慣れたな。」
「はい、もう大丈夫みたいです。」
「馬を駆けても30分ぐらい掛かるんだ、ゆっくり走るけど危ないから鞍に捉まってるんだよ?」
「はい。」
「喋ると舌噛むから気を付けて。」
「分かりましたわ。」
「フェデラー!」

 フェデラーはリュカの合図で走り出す。
 馬車でしか馬のスピードを知らないナターシャは、驚く。
 リュカに話たい事が出来ても話せないもどかしさが悔しい。

✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧

 時は少し遡る。
 リュカは手の怪我に気が付かず、執務室に戻る。

「如何されました?殿下………その手……。」

 暗い表情と手に怪我をしているリュカに気が付いたセシルだったが、リュカは要件だけ言う。

「今からナターシャと湖に行ってくるから、帰りは遅くなる。」
「え?湖……て、王宮内の?馬で走っても30分は掛かるのに、行って帰って来たらもう夜ですよ?今何時だと………。」

 セシルにはリュカが喜んでいるようには見えず、寧ろ1人で湖に行く時と同じ顔で言うリュカを心配をする。

「トーマス達には遅くなる、と伝えておいてくれ、夕食には間に合わないかもしれないからな。」
「そんな表情をした殿下をナターシャと一緒に出来ません!ナターシャにその顔を見せるのですか?」
「…………勉強の時間を最後にしたい、と言われたから、いいんだ。もう、王族の1人になるのだから、俺との時間をナターシャは他の教師の時間にしたい、と。」
「王族の……1人………?」
「じゃあ、すまないが頼む。」
「お待ち下さい!殿下!お渡ししたい物が!」

 ドアを開けようとするリュカを引き止め、セシルは机の引出しからある物をリュカに渡す。
 それを見たリュカは驚いて返そうとするが、セシルは受け取りを拒否する。

「後悔の無いようにお守りとしてお持ち下さい。」
「使う事無いと思うぞ?」
「使いたい時が来たら如何するんですか!念の為です。夕食の時間が終わる頃迄にお戻りになれそうになかったら、離宮にお泊り下さい、王宮内と言っても夜は危険ですから。それとも一晩我慢出来ると?どれだけあなたが妹を好きだったかお側に居る私が一番分かってるのですよ?」
「…………セシル………分かった……。」

 リュカが執務室を出た後、セシルは傷の手当てをしてない事に気が付く。

「あ、傷!………ナターシャが気付かない筈ないか………殿下、頑張って下さい。」

 セシルがリュカに渡した物は男性用の避妊具だった。
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