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お行儀見習い【タイタス】①
しおりを挟む「おっはよ~、ナターシャ。」
「おはようございます、タイタス殿下。」
翌日はタイタスと地理と歴史の勉強だった。
勉強なので、トーマスと同様、机に向かうナターシャの横にタイタスが座る椅子を用意していたナターシャだが、タイタスはその椅子には座らなかった。
(椅子に座らないのかしら……。)
「さぁ、ナターシャ勉強しようか。」
「あ、はい。」
タイタスは地図を広げ、質問をする。
「我がレングストン国は何処か分かる?」
「え………。」
(地図なんて見た事もないし、この国から出た事が無いから分からないわ。)
男児であれば、戦争に国内外を移動する事がある為に、地図を見る必要はあるが、女児は嗜みや美しさを要求される時代で、地図を視る必要はなかったのだ。
「ナターシャ?分からないのかな?」
「申し訳ありません、地図を見たのも初めてで。」
「そっかぁ、面白いから覚えて損はないよ、いずれ君は俺の妻になるんだから、王家同士の付き合いなんかで、他国の来賓と話をしなければならないから、国の事を知っておかないとね。」
「妻、てわたくしタイタス殿下の妻だと決められていたのですか?」
タイタスはナターシャが天然ぽいのに気が付いた。
「そうそう、妻になるんだよ?ナターシャ。」
「………わたくしが選べると……。」
「そうそう、タイタスには決まってないよ。」
突然、背後から聞き慣れた声がし、振り向いたナターシャとタイタス。
「トーマス兄!!何で来たんだよ!!」
「ノックはしたんだがね。昨日、ナターシャに渡し損ねてた物を持ってきた………これを。」
「まぁ、これは昨日の詩集ですね?」
「暇な時間にでも読むといいかな、とね。ナターシャにはお似合いな内容だし、ピアノやヴァイオリンの演奏に役立てるんじゃないかと。」
「嬉しいですわ、お借り致します。」
「いや、それは君にあげるよ。」
「まぁ、ありがとうございます、トーマス殿下。」
「邪魔して悪かったね。タイタス、ナターシャの性格を利用するのはどうかと思うがな………フッ。」
トーマスは見計らったかのように、タイタスを邪魔し部屋を出て行った。
「…………トーマス兄上めっ!」
「タイタス殿下、さぁ教えて下さいませ。地図の見方を。」
機嫌が悪くなったタイタスを、笑顔を向けて和ませたナターシャ。
「あぁ、なんて可愛いんだ、ナターシャ………トーマス兄上の邪魔されたが、俺は俺のやり方で頑張るぞ!!」
「?……………はい。」
(何を頑張るの?)
タイタスの教え方は、ナターシャには難しかった。
女性貴族に求める物は淑女としての嗜みばかり、来賓を迎えた時にダンスをする事以外、夫以外の男性との話も殆どないからだった。
呪文のように聞こえる、国外の知識は興味はあったナターシャだが………。
「タイタス殿下、わたくし頭が悪いのでしょうか…………殿下のお言葉が呪文のように聞こえてしまって……。国の歴史は多少の心得はあって、わたくしの知らない事を教えて頂き、大変楽しいのですけど………。」
「え!!わ、分かりづらかった?……ご、ごめん!!どの辺りだった?」
「…………え、えっと……地名も今地図を始めて見たばかりで、その地名も分からないまま、名産品や産業を仰られても、地名が飛び飛びで……。」
タイタスの地理の教え方は、あっちの場所、こっちの場所、と捲し立てながら話ていた為ナターシャには少々早い説明だったのだ。
要は、タイタスの教え方が下手だった、という事。
「ご、ごめん……。」
「わたくし、国外の歴史を教わりながら、地名を覚え、名産や産業のお話が聞きたいですわ、歴史は好きなので、紐付けしたら頭に入るかもしれません。」
ニッコリと、落ち込むタイタスをフォローするナターシャ。
タイタスは思わず嬉しくて抱き締める。
「ナターシャ!!なんて優しいんだ!!」
「で、殿下っ…………く、苦しいですわ……。」
タイタスはくっついていたかったが、ナターシャは胸を押し引き離した。
顔を赤らめて照れていて、怒る様子ではなさそうなナターシャだった。
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