上 下
14 / 100

お行儀見習い【タイタス】①

しおりを挟む

「おっはよ~、ナターシャ。」
「おはようございます、タイタス殿下。」

 翌日はタイタスと地理と歴史の勉強だった。
 勉強なので、トーマスと同様、机に向かうナターシャの横にタイタスが座る椅子を用意していたナターシャだが、タイタスはその椅子には座らなかった。

(椅子に座らないのかしら……。)
「さぁ、ナターシャ勉強しようか。」
「あ、はい。」

 タイタスは地図を広げ、質問をする。

「我がレングストン国は何処か分かる?」
「え………。」
(地図なんて見た事もないし、この国から出た事が無いから分からないわ。)

 男児であれば、戦争に国内外を移動する事がある為に、地図を見る必要はあるが、女児は嗜みや美しさを要求される時代で、地図を視る必要はなかったのだ。

「ナターシャ?分からないのかな?」
「申し訳ありません、地図を見たのも初めてで。」
「そっかぁ、面白いから覚えて損はないよ、いずれ君は俺のになるんだから、王家同士の付き合いなんかで、他国の来賓と話をしなければならないから、国の事を知っておかないとね。」
、てわたくしタイタス殿下の妻だと決められていたのですか?」

 タイタスはナターシャが天然ぽいのに気が付いた。

「そうそう、妻になるんだよ?ナターシャ。」
「………わたくしが選べると……。」
「そうそう、タイタスには決まってないよ。」

 突然、背後から聞き慣れた声がし、振り向いたナターシャとタイタス。

「トーマス兄!!何で来たんだよ!!」
「ノックはしたんだがね。昨日、ナターシャに渡し損ねてた物を持ってきた………これを。」
「まぁ、これは昨日の詩集ですね?」
「暇な時間にでも読むといいかな、とね。ナターシャにはお似合いな内容だし、ピアノやヴァイオリンの演奏に役立てるんじゃないかと。」
「嬉しいですわ、お借り致します。」
「いや、それは君にあげるよ。」
「まぁ、ありがとうございます、トーマス殿下。」
「邪魔して悪かったね。タイタス、ナターシャの性格を利用するのはどうかと思うがな………フッ。」

 トーマスは見計らったかのように、タイタスを邪魔し部屋を出て行った。

「…………トーマス兄上めっ!」
「タイタス殿下、さぁ教えて下さいませ。地図の見方を。」

 機嫌が悪くなったタイタスを、笑顔を向けて和ませたナターシャ。

「あぁ、なんて可愛いんだ、ナターシャ………トーマス兄上の邪魔されたが、俺は俺のやり方で頑張るぞ!!」
「?……………はい。」
(何を頑張るの?)

 タイタスの教え方は、ナターシャには難しかった。
 女性貴族に求める物は淑女としての嗜みばかり、来賓を迎えた時にダンスをする事以外、夫以外の男性との話も殆どないからだった。
 呪文のように聞こえる、国外の知識は興味はあったナターシャだが………。

「タイタス殿下、わたくし頭が悪いのでしょうか…………殿下のお言葉が呪文のように聞こえてしまって……。国の歴史は多少の心得はあって、わたくしの知らない事を教えて頂き、大変楽しいのですけど………。」
「え!!わ、分かりづらかった?……ご、ごめん!!どの辺りだった?」
「…………え、えっと……地名も今地図を始めて見たばかりで、その地名も分からないまま、名産品や産業を仰られても、地名が飛び飛びで……。」

 タイタスの地理の教え方は、あっちの場所、こっちの場所、と捲し立てながら話ていた為ナターシャには少々早い説明だったのだ。
 要は、タイタスの教え方が下手だった、という事。

「ご、ごめん……。」
「わたくし、国外の歴史を教わりながら、地名を覚え、名産や産業のお話が聞きたいですわ、歴史は好きなので、紐付けしたら頭に入るかもしれません。」

 ニッコリと、落ち込むタイタスをフォローするナターシャ。
 タイタスは思わず嬉しくて抱き締める。

「ナターシャ!!なんて優しいんだ!!」
「で、殿下っ…………く、苦しいですわ……。」

 タイタスはくっついていたかったが、ナターシャは胸を押し引き離した。
 顔を赤らめて照れていて、怒る様子ではなさそうなナターシャだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、 王弟殿下と出会いました。 なんでわたしがこんな目に…… R18 性的描写あり。※マークつけてます。 38話完結 2/25日で終わる予定になっております。 たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。 この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。 バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。 読んでいただきありがとうございます! 番外編5話 掲載開始 2/28

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...