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突然、【お行儀見習い】?
しおりを挟むウィンストン公爵邸では、末娘のナターシャの誕生日パーティーが開催され、公爵が招待した貴族や、ナターシャの友人達が、ナターシャを祝った。
「おめでとう、ナターシャ。」
「ありがとう、リーサ。そして来てくれてありがとう。」
ナターシャは来賓全員に、お礼の挨拶をして回っていた。
「ウィンストン公爵、ナターシャ嬢も大人の仲間入りですな。」
「えぇ、やっと少し肩の荷が降りましたよ。」
「これからは、伴侶探しが忙しくなりますなぁ、どうです?我が家の息子は。17でまだ身を固める気配がないんですよ、ナターシャ嬢の愛くるしさを見たら、息子もその気になるかな、とね。今すぐではないでしょうが。」
「申し訳ありませんが、ナターシャには許嫁が居るのですよ。今日はこちらには来られないですがね、16歳になる頃には嫁がせようと考えておるのです。当人同士次第ではありますがね。」
「おや、残念ですなぁ。」
親の立場である大人達は、この日の主人公を他所に下心を見せていた。
ナターシャが住む国、レングストンでは14歳を目安にして、親が結婚相手を探す事が多く、特に女児は16歳前後で婚姻を結ばせられている。
男児は爵位継承問題もあるので、婚姻が遅れる事もあるのだが、20歳迄には結婚するケースが多かった。
しかし、ナターシャは既に許嫁が5歳の時に親のウィンストン公爵が決めている。
会った事も無い、名前も年齢も知らない相手。
その相手にウィンストン公爵はいつ会わせてくれるのだろうか、とナターシャは思っていた。
公爵家に産まれた為に、自分が求める相手では決してないとは覚悟もしているナターシャ。
我儘が言えない時代だったのだ。
結婚相手を見つける節目となる14歳の誕生日は、ナターシャが思っていた雰囲気では無かった。
ウィンストン公爵が来賓客と、ナターシャの伴侶の話ばかりしていたのである。
そして繰り返す「許嫁が既に居る」の言葉。
しかし、その相手はこのパーティーには居ないのだ。
「…………お母様、許嫁の方は来られないのですね、会わずに結婚させるおつもりなんですか?お父様は………。それとも許嫁が居るのは嘘なのでは?」
ナターシャは、父の素振りが不審で仕方がないので、母に伺いを立てる。
「こちらには来られない方なのよ。仕方がないわ。」
「……………一体何方なのです?」
「お父様が仰らないのだから、お母様からは言えないわ。」
母も、来賓の奥様方との談笑をしているのを遮って迄ナターシャは聞いたのに、こちらも話をしてくれないのだった。
パーティーも終わり、ナターシャは来賓達を見送った後、部屋に戻ろうとしたのを、父に呼び止められた。
「ナターシャ、少し話をさせてもらえるか?」
「………何でしょう、お父様。」
「こちらへ。エマ、セシル、カイルも来てくれ。」
父の書斎に連れ込まれた、ナターシャ。
「ナターシャ、明日から許嫁が居られる邸に、【お行儀見習い】に行くように。」
「………お、【お行儀見習い】?」
「言い換えたら、花嫁修業だな。あちらには、明日から伺うと伝えてある。」
「急ではありませんか!お父様!」
「ナターシャ以外は、このお話は知っていたの、ごめんなさいね。………あちらに事情があったものだから。」
母が少し困り顔をしながら、自分の頬に手を当てる。
「何ですの?事情、て。」
「明日、行けば分かるよ、ナターシャ。」
セシルが明るく言うが、
「今知りたいですわ!」
「この縁談話があった時の約束ではあったんだが、明日には分かるから話してもいいか………。」
父は顔の前に手を組み、溜息をついた。
「ナターシャ、お前の許嫁は4人居るのだ。」
「……………よ、4人!!お父様!!何なんですか!それでも人の親ですの!?」
「まぁ、聞きなさい。その4人の中の方から、ナターシャと相性の良い方を、という話だ。ナターシャ以外にも同じように、【お行儀見習い】に入る令嬢も他に3人居る。ナターシャ含め、年頃になる令嬢の中で、ナターシャが一番年上だ。年功序列でナターシャが先に【お行儀見習い】に入り、16歳になる迄に、一人の方の伴侶とされるか見極められるのだ。」
「……………方?……身分が上ですの?…………も、もしかして、王家の?」
「察しがいいね、ナターシャ。そう、ナターシャのお相手は、皇太子殿下のリュカリオン様、第二皇子トーマス様、第三皇子タイタス様、第四皇子コリン様の誰かだよ。」
カイルが明るく名前を明かす。
「王宮でお茶会があるだろう?幼いナターシャがお茶会でピアノを弾いた時に、陛下と皇妃様の目に止まったんだ。まだ幼かったリュカ殿下、トーマス殿下、タイタス殿下も、ナターシャのピアノを聞いていて、ナターシャを気に入られた、と仰ってね。陛下からのお言葉だ、他の貴族へ嫁がせるような事は出来ないからね、ナターシャには許嫁が居る、と言い聞かせていたんだよ。」
ナターシャは目先が真っ暗になって、呆然としたのだった。
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