2 / 100
14歳の誕生日
しおりを挟むナターシャは、公爵邸でピアノを弾いていた。
この日はナターシャの14歳の誕生日だ。
誕生日を祝い、公爵邸ではパーティーが開かれる事になっており、ナターシャが来賓にピアノで出迎える事になっていた。
5歳の王宮でのお茶会以来、ナターシャはお茶会に招待されては、ピアノやヴァイオリンを披露するようになり、日に日に上達する演奏を楽しみにする貴族も増えていった。
「ナターシャ、ちょっといいかな?」
「……………お父様?」
ピアノを弾く手を止め、部屋に入ってきたウィンストン公爵と目を合わすナターシャ。
「どうされましたの?もうパーティーの準備をしなければまならないですか?」
「まだ、大丈夫だよナターシャ。」
「………では、何ですか?」
「………言い難いのだがね、君には許嫁が居ると、以前から話ていただろう?」
「……………お相手とまだ一度もお会いした事ありませんけど?」
ナターシャにとって、その許嫁は未知な存在だった。
相手の名前も爵位も、父も母も兄達さえもナターシャには教えてないのだ。
父のウィンストン公爵がこの話をする度に、ナターシャは不機嫌になっていき、反発心さえ見せる令嬢に成長していった。
「不機嫌にならないでおくれ、ナターシャ。」
「だって、お相手が何方かも教えて下さいませんもの。お会いした事のない方と、いきなり許嫁だ、結婚だ、等わたくしの意に沿うわけありませんわ、お父様。お母様だって、女性ならお気持ち分からない筈ないと思うんですけど……。」
「それは、訳があってだな………。」
「では、その訳を教えてくれる気にでもなりまして?お父様。」
じどろもどろと、要領の得ない父に嫌味を言う程、強気な性格は、5歳の頃の物怖じしない頃の名残りなのか、引き下がる気配等は毛頭無いようだ。
「あぁ、それについては明日には分かる。」
「今でも構いませんけど?」
「今日は誕生日パーティーを楽しみなさい。明日からは、君は忙しくなるのだから。」
「…………何ですの?その意味深なお言葉……。」
「練習の邪魔をして悪かったね、ナターシャ。」
ウィンストン公爵は娘の頭を撫で、部屋を出て行ってしまった。
「な、何か嫌な予感するわ………。」
ナターシャは練習するのを止め、邸の侍従達を見つけては不確かな何かを探ろうと聞いて回ったが、口止めされているのか、知らないのか、ナターシャは更に頭を抱えるのだった。
「どうしたんだ?ナターシャ、うろちょろと………誕生日パーティーの準備、ではなさ気だね。」
「セシルお兄様!」
セシルはウィンストン公爵の長兄で5歳上。
セシルは皇太子付きの侍従軍師の任にあり、普段は王宮で生活をしているが、この日は妹の誕生日パーティーの為に帰ってきたようだ。
「どうしたんだ?ナターシャ。」
「お兄様はわたくしの許嫁という方はご存知?」
「…………さぁ……知らないなぁ……。父上がまだ話してくれてないんだろ?」
「………何か隠してますね、お兄様。」
ナターシャはセシルの顔色を伺っていて、嘘ではない何かを隠しているのを見破った。
「父上が言わない事を俺が言えると思うか?知っていても言えないよ、ナターシャだって差し出がましい行為になる、て分かるよな?」
「………そ、それは……。」
「家長は父上だ。父上が決めた事に、意見は言えても、父上が認めなければ覆せないよ。」
「で、でも!何かご存知ですよね?お兄様は!」
「あぁ、知ってるようで知らない、が正解かな………。まぁ、明日の朝には一つ分かるから、ナターシャ自身で紐を解いて行くしかないんじゃないかな?」
「………余計に分からなくなりましたわ、お兄様。」
「母上やカイルに聞いても同じだろうから、今日は楽しみなさい。」
「カイルお兄様もご存知なのね!」
「呼んだ?ナターシャ、兄上。」
話し声が聞こえたからか、たまたま通ったからかは分からないが、次兄のカイルがやって来た。
「話が少し聞こえたけど、俺に聞いても兄上と一緒の答えだよ、ナターシャ。」
「そんなぁ…………。」
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる