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14歳の誕生日

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 ナターシャは、公爵邸でピアノを弾いていた。
 この日はナターシャの14歳の誕生日だ。
 誕生日を祝い、公爵邸ではパーティーが開かれる事になっており、ナターシャが来賓にピアノで出迎える事になっていた。
 5歳の王宮でのお茶会以来、ナターシャはお茶会に招待されては、ピアノやヴァイオリンを披露するようになり、日に日に上達する演奏を楽しみにする貴族も増えていった。

「ナターシャ、ちょっといいかな?」
「……………お父様?」

 ピアノを弾く手を止め、部屋に入ってきたウィンストン公爵と目を合わすナターシャ。

「どうされましたの?もうパーティーの準備をしなければまならないですか?」
「まだ、大丈夫だよナターシャ。」
「………では、何ですか?」
「………言い難いのだがね、君には許嫁が居ると、以前から話ていただろう?」
「……………お相手とまだ一度もお会いした事ありませんけど?」

 ナターシャにとって、その許嫁は未知な存在だった。
 相手の名前も爵位も、父も母も兄達さえもナターシャには教えてないのだ。
 父のウィンストン公爵がこの話をする度に、ナターシャは不機嫌になっていき、反発心さえ見せる令嬢に成長していった。

「不機嫌にならないでおくれ、ナターシャ。」
「だって、お相手が何方かも教えて下さいませんもの。お会いした事のない方と、いきなり許嫁だ、結婚だ、等わたくしの意に沿うわけありませんわ、お父様。お母様だって、女性ならお気持ち分からない筈ないと思うんですけど……。」
「それは、訳があってだな………。」
「では、その訳を教えてくれる気にでもなりまして?お父様。」

 じどろもどろと、要領の得ない父に嫌味を言う程、強気な性格は、5歳の頃の物怖じしない頃の名残りなのか、引き下がる気配等は毛頭無いようだ。

「あぁ、それについては明日には分かる。」
「今でも構いませんけど?」
「今日は誕生日パーティーを楽しみなさい。明日からは、君は忙しくなるのだから。」
「…………何ですの?その意味深なお言葉……。」
「練習の邪魔をして悪かったね、ナターシャ。」

 ウィンストン公爵は娘の頭を撫で、部屋を出て行ってしまった。

「な、何か嫌な予感するわ………。」

 ナターシャは練習するのを止め、邸の侍従達を見つけては不確かな何かを探ろうと聞いて回ったが、口止めされているのか、知らないのか、ナターシャは更に頭を抱えるのだった。

「どうしたんだ?ナターシャ、うろちょろと………誕生日パーティーの準備、ではなさ気だね。」
「セシルお兄様!」

 セシルはウィンストン公爵の長兄で5歳上。
 セシルは皇太子付きの侍従軍師の任にあり、普段は王宮で生活をしているが、この日は妹の誕生日パーティーの為に帰ってきたようだ。

「どうしたんだ?ナターシャ。」
「お兄様はわたくしの許嫁という方はご存知?」
「…………さぁ……知らないなぁ……。父上がまだ話してくれてないんだろ?」
「………何か隠してますね、お兄様。」

 ナターシャはセシルの顔色を伺っていて、嘘ではない何かを隠しているのを見破った。

「父上が言わない事を俺が言えると思うか?知っていても言えないよ、ナターシャだって差し出がましい行為になる、て分かるよな?」
「………そ、それは……。」
「家長は父上だ。父上が決めた事に、意見は言えても、父上が認めなければ覆せないよ。」
「で、でも!何かご存知ですよね?お兄様は!」
「あぁ、知ってるようで知らない、が正解かな………。まぁ、明日の朝には一つ分かるから、ナターシャ自身で紐を解いて行くしかないんじゃないかな?」
「………余計に分からなくなりましたわ、お兄様。」
「母上やカイルに聞いても同じだろうから、今日は楽しみなさい。」
「カイルお兄様もご存知なのね!」
「呼んだ?ナターシャ、兄上。」

 話し声が聞こえたからか、たまたま通ったからかは分からないが、次兄のカイルがやって来た。

「話が少し聞こえたけど、俺に聞いても兄上と一緒の答えだよ、ナターシャ。」
「そんなぁ…………。」

 
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