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王都
しおりを挟む1週間程掛けて、ウィンストン領から王都にやって来たアリシアとカイル。
アリシアは王都に寄らずにアードラから来た為、街並みが変わらない王都の美しさに感無量だった。
「何か帰って来たぁ、て感じ。」
「王都に住まないのにか?」
「だって思い出がいっぱいだもん!」
「目まぐるしい2年だったしな、アードラの内争は。」
懐かしむ2人の大事な思い出だ。
「王宮に行くんだよね?」
「王宮は帰り、今からウィンストン公爵邸。」
「お義父様とお義母様がおみえになるの?」
「それと、兄貴の妻な。去年結婚してな。」
「セシル結婚したんだ。」
「長居はしないからな、帰りにもまた寄るし。」
5年の歳月の中でも、アリシアに関わった人達の生活は変わっていた。
「セシルの奥様会うの楽しみ。」
「何で?」
「セシルの好みのタイプの女性が想像出来ない。」
「………納得すると思うぜ。母上に似た性格だから。」
「どんな方?」
「俺のタイプじゃない事だけは確か。」
「分からない……。」
「お前の逆タイプ。」
「……………余計に分からん。」
ウィンストン公爵邸に着いて、馬車から降りたカイルとアリシア。
「カイル。」
「父上、ご無沙汰してます。」
「お久しぶりでございます…………えぇと何とお呼びすれば?」
「アリシア殿、お元気そうで何より。カイルと結婚するのだから、義父で良いですよ。」
「………は、はいお義父様。」
「エマも中で待っている、顔を見せてやりなさい。」
「アリシア、入るぞ。」
「う、うん。」
エマは応接室に、もう1人の女性と座って待っていた。
「カイル、お帰りなさい。」
「ただいま帰りました、母上。」
「お久しぶりでございます、お義母様。」
「まぁ、あんなに可愛らしかったアリシア様が、こんなに美しくなられて……母と呼んでくれるのですね、嬉しいわ。」
「義姉上、ご無沙汰してます。」
「カイル様、わたくしこそご無沙汰しております。」
エマの横に座っていた女性はセシルの妻だろう。
カイルと挨拶を交わし、彼女がアリシアを見た。
「初めてお目にかかります。セシル・ウィンストン公爵の妻、エミリアですわ。」
「初めまして、アリシア・ヴィネ・アードラと申します。」
「カイル様は可愛いらしい方と結婚されるのですね。おめでとうございます。」
「ありがとうございます、義姉上。」
アリシアが知るカイルの父は、宰相の頃の鋭い眼光等なく穏やかな印象に変わったようか気がした。
皇帝の右腕として長年仕えていたのが、皇帝退位に合わせて宰相を引退し、本来の雰囲気に戻ったのだろう。
エマとエミリアと話もするが、2人の雰囲気が似ていて、カイルの言葉が過る。
(仕草とかも似ているけど、似せてる?)
とは思いつつ、そこは突っ込む事でもないので、話を楽しんだ。
少し前のアリシアだったら、恐らく気になって口に出していただろう。
ふと、カイルと目が合い、アリシアの考えが読めたのか、笑っていた。
「何?」
「いや?何でもない。」
「カイル、今からアードラに行くのだろう?」
「あぁ、アリシアが勝手に来ちまったからな。」
「アリシア殿は相変わらず行動力がお有りだ。」
「まぁ、そんなに?」
「カイルを強引に王都の街に付き添わせたりな。」
「…………引っ掻き回されたぜ。」
「カイルだって楽しんでたじゃないの!」
「はぁ?俺がいつ楽しかったって言ったよ!」
「うっ…………引っ掻き回しました。」
「アリシア殿、降下はされたがあなたはアードラの王女としての品位は落とさぬ様になさいませ。今迄培った事は、必ず役に立ちますので。」
「…………はい、肝に銘じます。」
「身内内は、構いませんがね。カイルも年に何回かは王都に来る事になっておりますから、その時は妻同伴になりますので。」
「はい。」
数時間の滞在だったが、カイルの父の話は聞き入っていて予定を大幅に遅れたようだった。
「長居し過ぎたな………次の街で1泊するか……予定ではその先の街にするつもりだったが………。」
「ごめんね、カイル。私が来ちゃったから。」
「今更じゃねぇか。」
「もし、私がアードラに留まってたら如何してた?」
「…………16歳の間に来なかったら忘れるつもりだった………。」
馬車内で、アリシアと近くに座るカイルが、アリシアと目を合わせる事なく、背を向けた。
「…………私、迷惑だった?」
その背中を見るのが悲しくて、聞きたくなかった事に対し、言いたくなかった事を聞く。
「迷惑と思うなら、ベッドに一緒に寝てない。」
「じゃあ、如何すれば良かった?」
「手紙とかあんだろ…………1通も寄越さねぇでよ。連絡さえあったら迎えに行ったよ。」
「手紙………書けなかった……だって、無視されたら怖いもん………。」
「……………だよな……俺も怖い…………書斎の引出しに何通も手紙書いて出してないからな………。だから、アリシアが勇気出して俺の前に来た事が嬉しかった。俺にはそんな勇気無かったからな…………誕生日だって知らなかった訳じゃない。毎年プレゼントは用意してあった…………弱いだろ……。」
アリシアは涙を零す。
カイルも泣いてる気がして、背中から抱き着いた。
「ううん!それでも待っててくれた!私を受け入れてくれたからいいの!」
「アリシア…………。」
カイルは、姿勢を変えアリシアを抱締めると、額にキスを落とした。
額、目、頬、軽くキスを落とし、口に深いキスをする。
「…………はぁ……早くアードラ着かねぇかな。」
「だね。早くお父様とお母様にカイル会わせたい!」
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