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帰路

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「そろそろ帰るぞ。」
「え!まだ見たい!」

 そろそろ夕方に差し掛かり、遅くなってはとカイルはアリシアに言ったのだが、アリシアは拒否をする。

「帰るんだ!」
「…………え~!!」
「移動距離考えろよ。」
「そっか、そうだよね。」

 そう思い、カイルは貴族街方面に誘導しながら、アリシアと歩いてきていたのだ。
 帰りは荷物も少しある。
 大きな額の小さな土産もある中、カイルの手にはアリシアが欲しいと言った雑貨やパンがある。

「荷物持ってくれてありがとう、カイル。」
「重くないから気にするな。」

 馬車に乗り込み、貴族街を進む。
 街中とは違い、豪華な邸が建ち並ぶ貴族街。
 歩く人は少なく、馬車が幾つかすれ違うと王宮に入って行く。
 アリシアは、馬車の車窓から外を眺めていた。
 
「カイル、着替えなくていいの?」
「何着か、登城用に服は置いてあるんだよ。」
「そうなんだ。」
「皇女宮の前に停まるからな。」
「楽しかった~、今日。また行きたいなぁ。」
「…………もう無理だろ。お前はアードラに帰るんだから。」
「…………帰らなきゃ、駄目?」
「………じっとしてろ。」
「!!」

 カイルは横に座るアリシアに、先程買ったネックレスを首に掛けた。
 
「…………阿呆らしいが、見て、思い出せ。」
 
 金髪で緑の瞳のカイルを思い出せるような金のネックレスに翡翠の石。

「カイル…………。」
「ほら、お前も寄越せ、さっきの指輪。持っててやる。」
「………………カイル~!!」

 アリシアはカイルに抱き着くと、カイルの胸で泣きじゃくる。

「泣き虫だな………。」
「うるさい!!」

 ぶっきらぼうの台詞のカイルだが、カイルはアリシアの銀髪の髪を撫でては、指にその髪を弄る。
 そして、その髪の束にキスを落とすのだった。

 ガタン。

「着いたな………ほら、指輪。」
「…………あ………。」

 アリシアは巾着に入れてあった指輪を掌に乗せた途端、カイルは奪うように取って自身の指に嵌めると、急いで馬車を降りてしまった。

「……………ほら、降りろ。」

 カイルの手には、行きでなかった指輪が嵌められ、アリシアをエスコートをすると、アリシアは馬車から降りた。

「じゃあな、明日からはしっかりしろよ。」
「え…………?」

 馬車は動き、カイルは王城に入って行った。
 残されたアリシアはまたカイルを見送って、皇女宮に入った。

(…………何度見たらいいのかな?カイルの後ろ姿。)

✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧

 アリシアはカイルとのデートの余韻に浸り夢筒の日々が暫く続いた。
 首から下げた、カイルの髪色と瞳に合わせたネックレスを弄りながら、アリシアは心をカイルに向かわせていた頃、図書館でアニースと共に勉強をしていた。
 その図書館換気をしながら勉強をしていた為、突如風が差込み、机の上の書類や本が風で舞う。

 バタバタバタバタ………。

 それと同時に図書館へ走り込んで来る足音。

「皇太子殿下!大変です!」
「どうした?何かあったのか?」

 息切れをしながら図書館に入って来た、文官らしき若い男。
 
「す、直ぐ陛下の執務室へお願いします!アニース姫とご一緒に!」
「執務室に?」
「…………はい!只今、王城門にアニース姫の義姉、ボルゾイ国第一王女、ジャミーラ姫、第二王女、ヘルン姫が!」
「は?ヘルン姫は帰ってからまたジャミーラ姫を連れて来たというのか!」
「…………お、おそらく……只今、宰相のご子息、セシル様とカイル様が対応に行かれました。」

 リュカリオンは顎に手を添えて考えている。
 風で飛ばされたままの図書館では片付けが出来ない為、窓を締めながら聞いていたアニースは顔を青ざめていく。

「アニース………。」
「はい。」
「俺と一緒に来てくれ。アリシアは悪いが今日は切り上げ皇女宮に戻っておいてくれ。」
「は、はい。」

 アニースはリュカリオンに連れられ、図書館を出て行った。

「アニースお姉様!お気を確かに!」
「あぁ、ありがとう、アリシア。」
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