53 / 102
4人の関係
しおりを挟むリュカリオンとセシル、トーマスとカイルの関係は違う間柄。
リュカリオンが皇太子であるからこそ、補佐役にセシルをあてがったウィンストン公爵だが、カイルはトーマスの補佐に、とは考えていなかったというのを4人は知っていた。
4人は幼馴染ではあるが、幼い頃から側近として敬うように、とセシルとカイルはリュカリオンに接する事を教えられただけなのだが、トーマスにはそれを強いていなかっただけの事。
それが、ウィンストン公爵が求めた侍従関係なのだと、4人が成長してからやっと理解した。
「要は、親父は化物て事だ。」
「………ブッ………そうだな………怖いよ、お前の親父さんは…………でも、尊敬するな、あの人は……父上と同じレベルで。」
「……………ありがとな、トーマス。親父も喜ぶ。」
アドラードの私室に着くと、アルフレッドとロバートが扉の前で待っていた。
「トーマス殿下、カイル殿、お待ちしておりました。」
「アルフレッド王子、久しぶりだな。元気そうで良かった。」
「トーマス殿下、ご結婚おめでとうございます。本当なら僕が使徒として行くべきだったんでしょうが………。」
「それは気にしなくていい。アードラ内の事の方が大事だ。王子ならな。」
トーマスとアルフレッドは握手をし、挨拶を済ます。
「父が待っています、会って下さい。」
アルフレッドが扉を開ける。
室内では、ベッドではなくソファに座るアドラード王と正妃アマンダが寄り添うように座っていた。
「トーマス殿下、久しぶりですな。」
「アドラード王、ご無沙汰しております。ご回復されて本当に良かったです。」
「アドラード王、その後はお変わりありませんか?」
一礼したトーマスとカイル。
カイルは、まだ全快ではないアドラードの体調を確認する。
「カイル殿、おかげで日々回復をしている。今は毒も体内に残っていないそうだ。ただ硬直した身体を動かしている。」
「わたくしからもお礼を申し上げます。アドラード様を救って頂きありがとうございます。」
「アリシア王女もお喜びになるでしょう。元気に明るく振る舞ってはおられますが、時折心細い表情をされておられましたので。」
「カイル殿は、娘アリシアとよく話をされるのか?」
意外な言葉、掛けられるカイル。
目を見開くカイルは、驚き返事に困ると、トーマスは口を開いた。
「カイルの前では、アリシア王女は素ですからね。弟コリンより合っていると思ってますよ。」
「!!…………殿下!」
「本当の事だ。」
アドラード、アマンダ、アルフレッドの3人はこのトーマスの言葉で察する。
コリンに嫁がせようと考えていたが、アドラードを助けたカイルも候補としても良いと思えた。
「カイル殿………其方は待つ気は?」
「…………え………。」
カイルは一瞬その意味は分からなかった。
「アリシアが素を見せるのは、私達とコリン殿下だけだった。だから、アリシアの気持ちを自由にさせてくれる伴侶を考えていた。もし、其方に伴侶が居ないなら、娘アリシアを任せたい。」
「……………ま、待って下さい!俺は今19です!レングストンでの婚姻可能年齢は16歳………アリシアは10歳ですよ!まだ6年ある!その間にアリシアが心変わりする可能性だってあります!」
思わぬ言葉に猫を被れず素になるカイルの本心を垣間見せる。
「それは…………其方は心変わりしない、と言う事と見受けても?」
「…………!!…………あ……………いや………その……。」
「珍しいじゃないか、カイル。お前が即答しないなんて。」
隙あらば突っ込むトーマス。
「…………トーマス……頼む………もう……これ以上は………。」
カイルはトーマスに初めてと言っていい程、助けを求めた。
トーマスの肩に手を掛け、俯く。
カイルが自分の気持ちが隠せなかった事も、素を直ぐに表したのも、親しい人間以外初めてだったのだ。
「アドラード王、コイツの王族に対する忠義は、父上の宰相であるウィンストン公爵よりの教えで、弟コリンの相手にアリシア王女を、と………王族の決め事に反する事は一切するヤツではありません。その事と自分の気持ちの狭間で揺らいでいます……もし、コイツの気持ちを成就させるなら、アリシア王女の気持ち次第…………私からはそれしか言えません。既に、我が父レングストン皇帝、カイルの父上ウィンストン公爵、次期皇帝リュカリオン皇太子の了承は得ています。全てはアリシア王女の手に………。」
「……………うむ………アマンダ、アルフレッド……それで良いな?」
「わたくしはアドラード様の決められた事に反対はしませんわ。何よりアリシアが幸せになるなら。」
「父上、僕もですよ。」
「そ、そんな!…………俺が待てなかったら如何するんです!!アリシアは不幸になるだけだ!」
「……………カイル……悩んで悩んで悩みきっても、結論は同じだったろ?」
「…………ト、トーマス…………あぁ……変わらなかった。」
「………では、ソレで決まりだな…………アリシアの事は片付いた。後はアマレス、ナバーロの事を話そうか。」
アドラードも、病いに伏せている間、何もしていなかった訳ではない。
命の恩人であるカイルの事は、ロバートもレングストンから派遣された医師からも聞いている。
誰もカイルを悪く言う者は居なかった。
ただ一つだけ言うなら、カイルの女癖。
しかし、それは仕事だと聞いたアドラード。
そこには、懸念を懐きながらこの日、カイルと対峙して女癖の悪さが仕事だと理解したのだった。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後
桃瀬さら
恋愛
休暇で帰国中のシャーロットは、婚約者の浮気をゴシップ誌で知る。
領地が隣同士、母親同士の仲が良く、同じ年に生まれた子供が男の子と女の子。
偶然が重なり気がついた頃には幼馴染み兼婚約者になっていた。
そんな婚約者は今や貴族社会だけではなく、ゴシップ誌を騒がしたプレイボーイ。
婚約者に婚約破棄を告げ、帰宅するとなぜか上司が家にいた。
上司と共に、違法魔法道具の捜査をする事となったシャーロットは、捜査を通じて上司に惹かれいくが、上司にはある秘密があって……
婚約破棄したシャーロットが幸せになる物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる