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4人の関係

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 リュカリオンとセシル、トーマスとカイルの関係は違う間柄。
 リュカリオンが皇太子であるからこそ、補佐役にセシルをあてがったウィンストン公爵だが、カイルはトーマスの補佐に、とは考えていなかったというのを4人は知っていた。
 4人は幼馴染ではあるが、幼い頃から側近として敬うように、とセシルとカイルはリュカリオンに接する事を教えられただけなのだが、トーマスにはそれを強いていなかっただけの事。
 それが、ウィンストン公爵が求めた侍従関係なのだと、4人が成長してからやっと理解した。
 
「要は、親父はて事だ。」
「………ブッ………そうだな………怖いよ、お前の親父さんは…………でも、尊敬するな、あの人は……父上と同じレベルで。」
「……………ありがとな、トーマス。親父も喜ぶ。」

 アドラードの私室に着くと、アルフレッドとロバートが扉の前で待っていた。

「トーマス殿下、カイル殿、お待ちしておりました。」
「アルフレッド王子、久しぶりだな。元気そうで良かった。」
「トーマス殿下、ご結婚おめでとうございます。本当なら僕が使徒として行くべきだったんでしょうが………。」
「それは気にしなくていい。アードラ内の事の方が大事だ。王子ならな。」

 トーマスとアルフレッドは握手をし、挨拶を済ます。

「父が待っています、会って下さい。」

 アルフレッドが扉を開ける。
 室内では、ベッドではなくソファに座るアドラード王と正妃アマンダが寄り添うように座っていた。

「トーマス殿下、久しぶりですな。」
「アドラード王、ご無沙汰しております。ご回復されて本当に良かったです。」
「アドラード王、その後はお変わりありませんか?」

 一礼したトーマスとカイル。
 カイルは、まだ全快ではないアドラードの体調を確認する。

「カイル殿、おかげで日々回復をしている。今は毒も体内に残っていないそうだ。ただ硬直した身体を動かしている。」
「わたくしからもお礼を申し上げます。アドラード様を救って頂きありがとうございます。」
「アリシア王女もお喜びになるでしょう。元気に明るく振る舞ってはおられますが、時折心細い表情をされておられましたので。」
「カイル殿は、娘アリシアとよく話をされるのか?」

 意外な言葉、掛けられるカイル。
 目を見開くカイルは、驚き返事に困ると、トーマスは口を開いた。

「カイルの前では、アリシア王女はですからね。弟コリンよりと思ってますよ。」
「!!…………殿下!」
「本当の事だ。」

 アドラード、アマンダ、アルフレッドの3人はこのトーマスの言葉で察する。
 コリンに嫁がせようと考えていたが、アドラードを助けたカイルもとしても良いと思えた。

「カイル殿………其方はは?」
「…………え………。」

 カイルは一瞬その意味は分からなかった。

「アリシアが素を見せるのは、私達とコリン殿下だけだった。だから、アリシアの気持ちを自由にさせてくれる伴侶を考えていた。もし、其方に伴侶が居ないなら、娘アリシアを任せたい。」
「……………ま、待って下さい!俺は今19です!レングストンでの婚姻可能年齢は16歳………アリシアは10歳ですよ!まだ6年ある!その間にアリシアが心変わりする可能性だってあります!」

 思わぬ言葉に猫を被れず素になるカイルの本心を垣間見せる。

「それは…………其方は心変わりしない、と言う事と見受けても?」
「…………!!…………あ……………いや………その……。」
「珍しいじゃないか、カイル。お前が即答しないなんて。」

 隙あらば突っ込むトーマス。

「…………トーマス……頼む………もう……これ以上は………。」

 カイルはトーマスに初めてと言っていい程、助けを求めた。
 トーマスの肩に手を掛け、俯く。
 カイルが自分の気持ちが隠せなかった事も、素を直ぐに表したのも、親しい人間以外初めてだったのだ。

「アドラード王、の王族に対する忠義は、父上の宰相であるウィンストン公爵よりの教えで、弟コリンの相手にアリシア王女を、と………王族の決め事に反する事は一切するヤツではありません。その事と自分の気持ちの狭間で揺らいでいます……もし、の気持ちを成就させるなら、アリシア王女の…………私からはそれしか言えません。既に、我が父レングストン皇帝、カイルの父上ウィンストン公爵、次期皇帝リュカリオン皇太子の了承は得ています。全てはアリシア王女のに………。」
「……………うむ………アマンダ、アルフレッド……良いな?」
「わたくしはアドラード様の決められた事に反対はしませんわ。何よりアリシアが幸せになるなら。」
「父上、僕もですよ。」
「そ、そんな!…………俺が待てなかったら如何するんです!!アリシアは不幸になるだけだ!」
「……………カイル……悩んで悩んで悩みきっても、結論は同じだったろ?」
「…………ト、トーマス…………あぁ……変わらなかった。」
「………では、で決まりだな…………アリシアの事は片付いた。後はアマレス、ナバーロの事を話そうか。」

 アドラードも、病いに伏せている間、何もしていなかった訳ではない。
 命の恩人であるカイルの事は、ロバートもレングストンから派遣された医師からも聞いている。
 誰もカイルを悪く言う者は居なかった。
 ただ一つだけ言うなら、カイルの
 しかし、それはだと聞いたアドラード。
 そこには、懸念を懐きながらこの日、カイルと対峙して女癖の悪さがだと理解したのだった。
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