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アードラに再び

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 カイルがアードラに再びやって来た。
 一旦、定宿にしていた部屋にカイルは入ると、部下達からの情報を共有する。

「アマレスはどうしてる?暴徒がまだ抑えきれてないようだが。」
「はい、民衆の動きは我々が指示を出し、捕まえられないように誘導してますから、かなり手こずってる様子。王宮内の私室に帰る暇も与えてません。」
「では、かなり欲求不満だろうな………クククッ…………アドラード王は?」
「王は大分回復され、歩ける迄になられてます。」
「そうか、それは良かった………数日後にはトーマス殿下が来られる。それ迄アマレスを引っ掻き回せ。」
「はっ!」

 カイルは宿屋で着ていた服を平民風に着替えた。

「カイル様、どちらへ?」
「俺も平民に混じり暴徒を操作してくる。」
「なりません!それは我々部下にお任せ下さい!紛れ込んでお怪我でもなさったら!」
「親父もだが、お前達も過保護だなぁ……少しは信用しろよ、俺の腕を。」
「信用はしてますよ、ですが交渉時にお怪我されたら、と………トーマス殿下も来られますし。」
「そうですよ!もし顔に怪我されては、アマレスにカイル様の本性がバレてしまいます!」
「……………おい……。」
「あのカイル様の男娼風が妙に似合って………なぁ………。」
「だな………。」
「おい!!」

 部下達はそれを見たいらしい。
 怪我等して、アマレスに色目を使うカイルでは、その効力が半減するのでは、という事らしい。

「もう、あんな事はしねぇ!トーマスが来りゃ素に戻る!」
「え………面白かったのに……。」
「またやって下さいね、カイル様。」
「やなこった。」

 バタバタバタバタ…………。
 ガチャ。

「カイル様は来られたか!…………あ、カイル様!」
「どした?今着いたんだが。」
「外務大臣の居所が分かりました!アードラの西部、侵略した小国マリージョで見つけました!」
「ここから何日掛かる?」
「5日あれば。」
「俺が往復する間にトーマスが来ちまうな…………お前達で捕まえられるか?」
「お任せ下さい。」
「頼む。」

 カイルはまた散り散りになった部下達が消えた部屋に1人残され、今迄の報告書を読み漁る。

「リュカ殿下の国交に関しての書類はトーマスが持ってくるし、アマレスと外務大臣、その娘の第一側妃マルシアのは粗方揃ってる………。コレでアードラも落ち着くな……………アリシアもレングストンに居なくてもよくなるな………。」

 ベッドに倒れるようにうつ伏せになり、頭を抱えたカイル。

「…………俺はどうしたい………。」

 悶々とアードラの宿屋で過ごしたカイルは、トーマスが来る前に王宮に居るロバートに手紙を出していたのだが………。

 コンコン。

「誰だ?」
『カイル様、ロバートです。』
「ロバート?………入ってくれ。」

 王宮から返事を待っていたが、カイルが到着する頃を見計らってか、ロバートは宿屋にやって来た。

「失礼します、お久しぶりですね、カイル様。」
「すまないな、第二皇子の結婚式前に一度来るつもりだったんだが、ちょっとゴタゴタしててな………アドラード王は回復されてるか?」
「はい、私室からはまだ出てはいませんが、強張ってしまったお身体を解す為に運動をされていらっしゃいます。カイル様が解毒薬を作って頂けなければ、王は未だに危篤状態のままだったと思うと、カイル様に感謝しきれませんよ。」
「解析出来たから解毒薬が作れただけだ。単純な毒薬だったしな………数日後、レングストン第二皇子のトーマス殿下が到着する。その前に外務大臣を拘束する予定だ。娘のマルシア妃も弱みを握っている。その様にアドラード王とアルフレッド王子に伝えて欲しい。」

 ロバートは目を見開く。

「な、何故そこ迄分かるのですか!我々アードラの者でも外務大臣の所在も分からず、マルシア妃の弱みも分からなかったのに!」
「潜入したり、親しい者を辿れば割と簡単だ。色仕掛けとかもそう。」
「外務大臣は何処に………。」
「アードラの隣国マリージョ。」
「……………え?あそこは戦火には入っていない………同盟国でもないんですが……。」
「ロバートも覚えとけ………人の裏をかくにはその人の心理を考えるんだ。何を隠したがるのか、何を欲しがるか………外務大臣はマリージョを拠点に隠れ、他の小国を侵略していた。アードラに居てはアドラード王やアルフレッド王子に捕まえられる可能性がある。戦火になっていない隣国で唯一の国はマリージョ……そこに部下を送っておいたら案の定見つけた。のうのうと、マリージョの王宮で悠々自適で遊んでやがる。大金をマリージョ王宮に落してな……アードラの国民の税金で。」
「ど、どうして………そんな事を……。」

 ロバートは青褪めた顔になっていく。

「マリージョは貧しい国だ。多くの民はアードラに出稼ぎに来ている…………それは何故か……産業も名産も無く、その日暮しの自給自足の生活の者ばかりで、税金だけ取られてる。王族だからとて税金ばかり徴収するのではクーデターが起きるんだ……だが、マリージョはそこ迄税金は高くしていないのに、平和な国だ……しかし……アードラの豊かな国から、大金を落とされてみろ………マリージョの生活は大きく変わる………。」
「……………あ……。」

 ロバートもレングストンでリュカリオンから国交の勉強をしていたのも伊達ではない。
 カイルの説明で直ぐに察知する。

「外務大臣が大金を落とし、贅沢な生活をマリージョの王族を手なづけたら、加担する可能性もあるし、その生活に慣れてしまったら、税金を釣り上げられる可能性もある。これで外務大臣を捕まえたら、荒れるかもしれないが、それはマリージョの王族がどう考えるか、だ。」
「マリージョがまさか、アードラに戦争を仕掛ける、とか………。」
「軍事力でアードラには勝てない。」
「で、ではマリージョは滅びる可能性も……。」
「あるだろうな………それは救済するかしないかは、アドラード王の考える事だ。責任を感じるか否か………。レングストンもマリージョとは国交が無いからな……。」
「………分かりました、王にその事を報告し、助力が必要になり得るなら、カイル様………ご相談させて貰えますか?」

 苦し紛れにロバートは呟いた。
 他国レングストンの参謀の立場であるウィンストン公爵家次男のカイルに、信頼をしているロバートは尊敬の念がある。
 主君を救い、他国の者であるにも関わらず助けてくれようとしているから敢えて聞いた。
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