誰が叔父様の側室になんてなるもんか！【完結】

助け船の次は

　リュカリオンがヘルンと離れられ図書館に入って来た。

「アリシア、助かった。ありがとう。」
「いいえ……ですが、皇太子殿下なら何とか出来たのでは、とは思いましたが、要らぬ事だったのかな………と差し出がましくなかったですか？」
「いや？差し出がましいとは思わなかったよ。」
「あと、申し訳ありません、皇太子殿下のお名前呼んでしまって。」
「…………あぁ、構わないよ、親しい人からであれば。アリシアはナターシャも可愛がってるし、ラメイラも俺は『リュカ』だしね。アニースも構わないよ。公式時や臣下の前でなければね。」

　そう言うと、リュカリオンは本を開きあくびをする。
　昨夜は眠れてなかったのか、目が充血していた。

「リュカ殿下、お疲れですか？」

　アニースが眠そうなリュカリオンに気が付く。

「…………あぁ、まぁ……アードラとの交渉のツメがあと少しでね。トーマスに付け込まれないようにしないと、完璧な物を求めるアイツには負けられなくてね。」
「………それは、リュカ殿下が完璧な物を求めるからでは？」

　アリシアは、リュカリオンこそ完璧なのでは、とさえ思っていた。

「…………完璧主義者はトーマスの方さ。アイツは俺のプライドを圧し折って来るからな……アイツから見る俺は『完璧主義者』でなくてはならないんだ。基本は俺はサボり魔。セシルが俺を逃さないのと、皇太子としての器量を作り上げた宰相の力だよ。」
「それでも、やり遂げて来たのはリュカ殿下ではないのです？」
「…………そりゃあ、宰相から『出来ないとナターシャとの結婚は出来ませんよ』だの、『ナターシャはコレぐらいは出来てますよ』だの言われてみろ………やるしかないじゃないか。」

　『やらなくていいならやりたくない』というリュカリオン。
　図書館で妃候補達に勉強を教える事の方が気が楽らしい。
　皇帝になる為に、皇太子らしきを演じざる得なかったリュカリオンの素顔は、身近な者しか見せないのだろう。
　
「さぁ、勉強始めるぞ。」

　この後は、アリシアに取って暗号のような言葉が飛び交うのだが、アリシアの横に座るアニースは理解出来るようで、リュカリオンの言葉を聞いてはメモを取っている。


「お、お姉様……分かるのですか？」
「アリシアは多分難しい単語が分からないだけで、その単語の意味が分かる様になったら理解出来ると思うぞ。」
「俺もそう思う。書き写している要点はしっかり書いてあるからな。」
「そうでしょうか………。」

　教本とアリシアがメモしたノートを見比べ、顔をしかめるの日はいつ迄続けるのか、とアリシアは今覚えなければならない事に一生懸命取り組むのだった。
　翌日にはラメイラとトーマスも帰ってくる。
　そうすれば、トーマスは準備が出来次第、アードラの事で動いてくれる。
　アリシアはアリシアで出来る事をやるしかなかった。