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凍える目

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 ラメイラとトーマスはリュカリオンのはからいで、トーマス邸ではなく、リュカリオンが所有する別邸で1週間過ごす事になった。
 そして、以前から決まっていた、アードラに入るカイルと暫く会えなくなったアリシア。
 トーマスはラメイラと過ごして暫く経ってからアードラに行くらしい。
 アリシアの素を知る人が減るのは、アリシアにとって苦痛である。

「ナターシャお姉様になかなか会えないのに………。」

 ついついボヤいてしまう。
 アニースにも素を知られてはいるものの、アニース自身に降りかかる出来事が大変そうで、それについて気にはなるものの、聞きづらかった。
 見るからにアニースと義兄姉とは仲が悪い。
 アリシアから見ても嫌いな人種。
 数日過ごした後、早くボルゾイに帰って欲しかった。
 だが、そうはいかなかったらしい。
 第一王子アラムと宰相は帰ったが、第二王女ヘルンは留まっていたのだ。

「本当に迷惑な話。」
「アリシア様、そろそろお勉強の時間ですよ。」
「あ、そうだったわ。アニースお姉様お誘いして行ってくるわね。」

 コンコン。
 
 侍女が扉り開けると、アニースが来ていた。

「アリシア、迎えに来た。行くのだろう?」
「はい!今お誘いに行こうとしていたんですよ。」
「それは良かった、すれ違いにならずに。」

 筆記用具を持ち、数人の衛兵を引き連れ王城に入る。
 ヘルンがレングストンから来てから、ウィンストン公爵に移動は衛兵を付けるように、と言われている。
 以前から、ナターシャやリュカリオンには移動に衛兵を付けていたが、ラメイラやアリシア、アニースには特に狙われる訳ではなかった為、警備兵だけで事足りたのだが、揉め事回避の意味で、との事らしい。
 結婚式以降、アリシアはヘルンを見ていないが、王城内がピリピリしているのが分かる。

「アリシア………過ごしにくくなってはいないか?」
「お姉様………?」
「ほら、アリシアは自由にしていたろう?」
「そうかも……レングストンでは割とふらふらしてましたわね。アードラではとっても窮屈だったから、に戻ってしまった感じです。」
「すまないな………ヘルンのせいだ。」
「………わたくし、ナターシャお姉様やラメイラお姉様、アニースお姉様に害を為す者は許しません。大好きですから!それに、皇子殿下方の幸せを奪う行為も!」
「…………アリシアは優しいな。」

 愁いに満ちた悲しい顔ばかりするアニース。
 ここ数日のアニースの表情だった。

「大丈夫ですよ、お姉様!ウィンストン公爵がなんとかしてくれる筈です!」
「………だと嬉しいな。」

 図書館に来ると、まだこの日の講師のリュカリオンはまだ来ていなかった。

「珍しい………いつも時間より早く来られる方なのに。」
「……………アリシア……今日は無くなるかも……。」
「え?」
「………窓の外。」
「…………あっ!」

 窓の外で、リュカリオンとセシルがヘルンに捕まっているのだ。
 リュカリオンの前に立ちはだかるように、セシルは立ってはいるものの、ヘルンの侍女達に囲まれている。

「……………。」

 アリシアは考え込むと、何か閃いたように、窓を開けた。

「殿下!!リュカ殿下!!上から失礼します!!先程トーマス殿下が探されてましたよ。緊急らしいです!」
「…………アリシア……そうか、ありがとう伝えてくれて。行く。」

 アリシアは普段名前呼びはリュカリオンにはしない。
 親しげなのをヘルンに見せる為にわざと言った。
 そして、トーマスは今は王城に居ない。
 探しているのはおかしい。
 ヘルンがトーマスに興味が無いのは分かっていたので、トーマスが何処に居るのか知らない筈。
 逃げる口実を作っただけの事。
 アリシアから見ても、リュカリオンは上手く逃げれただろうが、来賓扱いを崩すつもりはないだろう、と思ったアリシアの機転だった。

「ヘルン姫、申し訳ないが仕事がある。あなたに時間は割けない、失礼する。」
「いいではありませんか、お話をさせて下さいませ。」
「殿下に触るな!」
「!!」
「不敬罪に処しても良いのだぞ!」
「私はボルゾイの王女!臣下風情が言うな!」
「…………ヘルン姫、私と話がしたいなら、私の右腕の腹心の部下の扱いを覚えた方がいい。私は、私が信頼している者を邪険にする者は如何なる者でも許さん。勿論、弟皇子達や私のや、弟トーマスののアリシアとアニースもだ!」
「き、妃候補………ですって!アニースが!私はボルゾイから正式に妃候補として来たのですよ!」
はそなたに興味がない。我が妃は既に居る。」
「道を開けよ!」

 セシルも強い口調でヘルンの侍女達を凄む。
 威圧的態度で怯む侍女達は道を空けた。
 しかし、ヘルンは怯まない。

「お待ち下さい!リュカリオン様!!」
「……………名前呼びをする許可をしていないが?」

 冷たい低い声でリュカリオンはヘルンを睨む。
 図書館の上からリュカリオンを見ても背筋が凍ったアリシアとアニース。
 ヘルンも青ざめていた。
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