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高熱のアリシア

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「え?熱?」
「あぁ、雨降ったろ?昨夜ラメイラが、皇女宮に帰って来ないアリシアを捜しまわって、ずぶ濡れのアリシアを見つけてな、まだ熱下がらないらしい。」

 トーマスの執務室で仕事中、トーマスが発した言葉。

「はぁ…………何てこった。」
「どうした?」
「俺のせいだ………。」
「何で?」
「…………アリシアに本気になったから。」
「……………は?」

 トーマスが驚いて持っていた書類を床にばら撒く。

「………おかしいだろ……10歳相手に……。」
「だからって、お前に王族を娶る度胸なんて………。」

 トーマスはカイルと幼馴染だ。
 カイルの女性遍歴も知っている。
 『仕事』以外に付き合って来た女は、『跡継ぎが居る家の女』で、『王族血族以外』だった。
 アリシアは『王族』

「………あっちも、俺を好きらしい………だから『忘れろ』と言った。コリン殿下の相手なら尚更だ。俺はコリン殿下と女如きで、ウィンストン家を穢したくない。」
「…………カイル……。」
「………なぁ、トーマス……早くウェールズ領を継いでくれよ………そしたら、俺はウィンストン領に引っ込むからさ………。」

 カイルは仕事も手に付かず、机に伏せた。

「重症だな、カイル。」
「仕方ない…………あんなに話が合う女……初めてなんだ……初めは幼女趣味じゃねぇ、外見だって凹凸無い女なんてごめんだ………だから、16歳になったら考えてやる、て言ったけど、言った本人の俺がショック受けてんだよ………6年待てるのか!てさ……。」
「じゃあ、待てよ………6年。コリンもまだ子供だ。アリシア以外に合う相手居るさ。」

 トーマスは床に落ちた書類を集め終わると、机に伏せたカイルの肩を叩く。

「見舞い、行ってこい、仕事にならん。言い訳ぐらい、お前なら何とでも言えるだろ?小姑ロバートが居ないなら、後は何とでもなる。」
「行かね。………行った所で、何言うんだ?『俺も好きだ』て?恋も知らなかったお子ちゃまに本気になりました、て…………阿呆だろ……。」
「じゃあ、忘れるか、待つかしかないな。」
「………………あぁ、そうだな。」

 親友の慰みも無になるような落ち込みのまま、仕事が終わったカイルは、皇女宮のアリシアが使う部屋を眺める為に足が動く。

「元気になれ………あ……薬茶差し出すか…。」

 カイルは踵を返し、自身の個別にある執務室に篭もる。
 トーマスの執務室とは違い、狭い執務室は、薬草に関する書物が所狭しとあり、ウィンストン公爵、セシルも使ってきた部屋だ。
 カイルがウィンストン領を引き継ぐ事になった事が決まってからはウィンストン公爵もセシルも来ない。
 解熱と頭痛の効果のある薬茶を調合したカイルは、皇女宮に戻り、衛兵にアリシアに持って行かせた。

「ご自身でお持ちにならないのですか?」
「もう時間が時間だ。休まれているかもしれないのに、俺が行っては迷惑掛かる、アリシア王女の侍女に渡し、解熱と頭痛に効く薬茶だから、煎じて飲ませてくれ、と伝えてくれればいい。」
「分かりました。アリシア様の侍女を見かけたら渡します。」
「頼む。」

 その後、アリシアの元に届けられた茶葉。
 
「薬茶?」
「解熱と頭痛に良いらしいです。カイル様がアリシア様に、と。」
「…………………ひっく………ひっく……。」
「アリシア様!!」
(…………カイルの馬鹿ぁ………。)

 忘れろ、と言われて、優しくされる事は、脈アリかと思えて仕方なく、アリシアは目を孕めながら、カイルの持って来た薬茶を啜る。

「不味っ………。」
(………薬だもんね、美味しくないよね…………。)

 アリシアは窓の外の夜空を見上げる。
 この星空の下にカイルが居て、同じ様に見ている事を願い、アリシアはまた眠りに着いたのだった。
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