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本当の思い人

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「お父様!」
「イリーサ…………其方も黙りなさい」
「わたくし、フローレス嬢にピッタリな持ち場知ってますわ」
「…………持ち場?」

 イリーサは絶対に折れない性格で、ルカスの興味を唆る様な言い回しが得意だ。
 その一言で、直ぐに場の雰囲気も変えてしまうので、マシュリーから溜息が漏れていたのを、アリエスも引っ掻き回し兼ねない予感がしている。

「えぇ!フローレス嬢の持ち場は、ザナンザお兄様の付侍女ですわ!」
「な、何!イリーサ!何を言ってるんだよ!フローレス嬢が来たら、俺女遊び出来なくなるじゃないか!」
「出来なくなる?」
「ほほぅ…………いいな、それ」

 ロティシュは不思議そうにザナンザに顔を向け、ルカスは面白そうにしている。

「っ!…………わ、わ、私が………ザナンザ……様に…………」
「フローレス嬢?…………え?………あのまさか………フローレス嬢はザナンザ様の事………」
「い、嫌だわ!アリエス様!な、な、何をいきなり!」
「そ、そうだぞ!アリエス!余計な事言わないでくれない?」

 ザナンザもだが、フローレスも挙動不審で明らかにおかしい。

「じ、侍女になるんだろ?俺が侍女に手を出す訳無いじゃん?」
「「「え?」」」

 アリエス、ロティシュ、イリーサはほぼ同時にザナンザに向けて冷ややかな目線を送った。
 アリエスに片思いしていたのは3年前迄の事で、その間新しい恋も芽生える可能性も無い訳ではない。

「な、何だよ!俺がアリエスを好きだった時の事を言ってんのか?俺が兄上に勝てる訳無いんだから、とっくに諦めてるよ!」
「……………あ、諦めて………た………わ、私………アリエス様に……嫉妬………して………」

 察するに、フローレスはザナンザに片思いをしていて、片思いしているザナンザはアリエスが好きだという事を知ってしまい、アリエスを冷遇していたら、いつの間にかロティシュ目当てだと思われていた、という事らしい。
 だが、ザナンザも満更悪い気をしていない様子。

「…………セルデン公爵」
「は、はっ………」
「如何だ?フローレス嬢の貞操の危機はあるが、ザナンザ付の侍女で教養を学ばせ直してみるか?」
「…………そ、それは………究極の選択ですな………で、出来れば皇妃様かイリーサ様、アリエス嬢かに………」
「まぁ、そうなるだろうな………」
「では、わたくし付で良いかと」
「皇妃?」
「わたくしはツェツェリア族ですわ。いずれザナンザはジェルバ領主になる身。フローレス嬢にはジェルバ領の事や、古代語の勉強もわたくしの元で教えてあげられますし、フローレス嬢を守れますでしょう?」

 マシュリーからすれば、棚からぼた餅かもしれない。
 元々、教養には定評があったフローレス。些か度が過ぎただけの事なので、アリエスにした事にマシュリーは怒ってはいなかった。
 ルカスとマシュリーは政略結婚には結果的なってはいるが、お互いに好き合って結ばれているので、子供達にも好きな人と結ばれて欲しいと願っている。

「そうだな…………皇妃であれば、子供達ともよく顔を合わすし、ザナンザとフローレス嬢の関係もよく見えるだろう………良いか?セルデン公爵」
「はい!ありがとうございます!」
「陛下!でしたら家の娘も皇妃様の侍女に!」
「抜け駆けするな!」
「私の娘も、皇妃様付に!」

 フローレスの事で一瞬忘れさられた、5人の令嬢達。
 彼女達の行き先で今度は揉め始める。

「イリーサ」
「はい、お父様」
「イリーサが、あの令嬢達を鍛え直せ」
「え!5人もですか!」
「そうだ…………だろ?」
「い、嫌だわぁ………お父様………」

 ヒクヒクと青筋立てていくイリーサに、ロティシュやザナンザは失笑している。

「イリーサ、絶対にだよな」
「泣き見るぞ、彼女達」
「ロティ、ザナンザ…………そんな事言っては駄目よ?」
「だって、母上…………一番父上に性格似てるんですよ?イリーサは」
「彼女達が、マークやレナードみたいな感じにならないでもないじゃないですか」
「殿下方、言っていい事と悪い事がありますよ」
「そう?」
「イリーサ………任せるぞ」
「……………ゔっ……はい………」

 令嬢達は、この日を境いに、イリーサに振り回され、泣きを見るのを、アリエスやロティシュは見掛ける様になり、皇族専用居住区ではイリーサの声が飛び交って賑やかになった。

「違うわ!このネックレスじゃないのよ!このドレスには合わないんだから、美意識高めてが厳選して持って来なさい!」
「おぉ、やってるなぁ………今日も」
「大丈夫ですかね………今迄の侍女達は、イリーサ様の好みを把握してお仕えしてましたけど、彼女達が出来るとは………」
「いいんじゃないか?イリーサは度肝を抜かされる事を期待して、彼女達を動かしてるんだから。が無い彼女達にはいいだろ」

 謁見の間での一件で、アリエスは冷遇される事も無くなった。
 そして何よりもアリエスには変わった事がある。
 限界迄、神力を使い果たしてから、髪色が黒と白銀で分かれた色にはならず、全て白銀になり、瞳だけは白銀と緑の色で変わらなかったが、印象も変わってしまい、ロティシュが気に入っていた髪色には未だ戻ってはいない。

「髪…………黒にならないな」
「嫌ですか?これ………私、憧れだったんですよ?全部白銀になるの」
「マークを尊敬してるのにか?」
「それとこれとは別です」
「そういう物か?」
「はい!…………ロティ様とお揃いが嬉しいんです」
「っ!……………全く………天然で煽りやがって……」

 突然の笑顔で微笑まれれば、ロティシュは顔を赤らめてアリエスから目を反らすのに、アリエスは気が付かないので、相変わらずの2人だった。
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