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波乱の婚約の幕開け

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「私は………モルディア公爵の髪も目も……そしてアリエス孃の髪も目も『中途半端』だとは思ってはいないが?」
「陛下………」

 ルカスが、玉座から降りて、ロティシュとアリエスの前へとやって来る。

「この中の皇族血脈の公爵家の中で、私の右腕になる者は居るのか?………モルディア公爵は私が皇太子時代からの副官で唯一の従弟、血筋では誰よりも近い。神力が戻った際に、白銀と黒髪に分かれてしまっただけで、神力は皇太子、ザナンザに続き強力な持ち主だ……私はそれだけでも『中途半端』だとは思えぬし、娘のアリエスもそうだとは思えぬ」

 評価としては高いモルディア公爵、マークへの信頼度。それはモルディア皇国の貴族であれば周知ではあった。だからこそ、娘アリエスの評価が低いのは男尊女卑の表れなのかもしれない。

「わたくしも、陛下の意見に最もだと思ってますわ………外見の色が何だと言うのです?わたくしは侍女として働くアリエス孃を近くで見て、これ程皇太子に寄り添える令嬢を知りません………『中途半端』と冷遇する令嬢達も多いですが、その令嬢達はアリエス孃より優れた才をお持ちですの?アリエス孃は謙虚で優しい令嬢だわ……」

 マシュリーも、玉座の椅子から立ち上がり、扇子を広げ威圧感さえ醸し出すにも関わらず、美しさは相変わらずふわふわとした優しい印象で微笑んだ。

「賢いですし……皆さんが皇太子妃として認められないのであれば、アリエス孃に証明してもらえば良いのです……自信を着けた彼女の才が如何なものか………それを見ずして反対されるのは、時期尚早ではないでしょうか?」
「皇妃」
「…………陛下……出過ぎた真似を申し訳ありません」
「……いや……皆の物……婚約中に2人が別れるならばそれ迄の関係………その間に皆で若き2人を見守ろうではないか………皇太子がアリエス孃を諦めない限り、アリエス孃が皇太子を諦めない限り、私はこの2人は上手く国を率いてくれるとは思ってはいるがな」

 反感はあるのは予想出来たからこそ、ルカスは貴族達に見極めさせるつもりだろう。それだけ、貴族達の関心をロティシュとアリエスに向けさせる気だったのかもしれない。

「モルディア公爵、他の者達と共に婚約期間についてはまた会議で決めよう……今宵は皇太子の誕生日だ……中座してしまったが、楽しもうじゃないか………音楽を……」

 ルカスは中座した夜会を再開させ、音楽を奏でさせた。

「皇妃………1曲踊らぬか?」
「はい、喜んで」

 マシュリーはルカスからの誘いに乗り、玉座から降りると、ロティシュに声を掛けた。

「ロティ、気を取り直して今日は皆貴方を祝いに来てくれているの………アリエスとの事はわたくしやお父様は悪い事だとは思ってないわ………はあるべき姿で居るのです………アリエスはシュナク殿下のお相手をしなさい」
「…………分かりました、母上」
「中座させてしまい、申し訳ありません皇妃様」

 ロティシュとアリエスは、中央に向かうルカスとマシュリーに一礼する。中座してしまった詫びも兼ねて、皇帝と皇妃のダンスが始まった。雰囲気を変える為だった。

「ロティ様、私シュナク殿下の所に戻ります」
「あぁ、俺も行く………謝罪は必要だし」

 ロティシュは腕をアリエスに差し出す。

「……え?」
「『え?』じゃねぇよ!エスコート!」
「…………あ、ありがとうございます……」

 腕を組め、と言わんばかりに隙を空け、アリエスを待っていた。そのロティシュの腕にアリエスは初めて腕を組む。その光景に嫉妬の矢が所構わず降り注ぐが、ロティシュはその目線の先の令嬢達に冷たい目配りをする程だ。もう、『俺に構うな』とでも言うのだろう。

「………あぁあ……ロティの奴、また作らせたな……」
「アリエス、大丈夫かしら……」

 踊りながら、ルカスとマシュリーは息子を心配してる会話が飛び交う。

「アイツも年頃だからなぁ……益々令嬢達から言い寄られて、婚約決めたタイミング最悪だろ」
「………本当に……内密に決めれば良かったのに……表立ってアリエスを守らせなきゃなりませんわ」
「俺みたいに、コッソリとな……」
「あら?そうでしたかしら?……誘拐されましたけど?わたくし」
「………懐かしい話だな……あの後は燃えた」
「!」
「痛っ!」

 ルカスの腕を抓り、睨むマシュリー。大方、誘拐されて救出した後の馬車内の事だろうが、もう20年以上も前の事だ。今更言う話でも無い。

「直ぐにに振り返るのは止めて下さいませ………いい歳なんですから」
「…………ゴメンナサイ」

 何を話ているのかは、他の者には分からない。皇帝と皇妃がダンスをしている間は、誰も踊らないからだ。
 ただ、いつまでも仲睦まじい皇帝と皇妃の姿は、見ている者を安心させた。
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