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鬼教官によるスパルタ教養訓練開始
しおりを挟む「し、死ぬぅ……」
「死にません!………たく……エンゲルベルトは何を教えてたのかしら」
表情の作り方の授業中。微笑む事が出来なくて、何十回とやらされているメリッサ。
「仏頂面は得意よ」
「仏頂面は、王女に必要ありません!!女王陛下の様な微笑みをメリッサ様に求めたいのです!!」
アルメリア夫人は部屋に掛けてある肖像画のメリベルの微笑みを羨ましそうに見ている。
「あれ、絶対に『今日の夕飯なんだろ』て考えてる!」
「メリッサ様!!」
「だって疲れたもの………ずっと笑顔作りなんて……」
アルメリア夫人は深い溜息を付く。
「よいですか?メリッサ様………微笑みの表情が出来ねば、お母様の様な肖像画が作れないのです。肖像画が出来なければ、国内外へ肖像画が送れません」
「送ってどうするの?」
「勿論、婿取りに必要だからです」
「………聞かなきゃ良かった……」
「メリッサ様の少し遅れましたが、来週に誕生日パーティーを開きます。」
「………まさか、それ……」
「はい、婿取りの為に開かれます」
分かっていただけに、諦めるしかない気がしてしまう。メリッサは翌日からアルメリア夫人から教養という名のスパルタを受けて1週間。アルメリア夫人だけでなく、メリベルや祖父アドルフやメリベルの夫達、アドルフの妻達に、娘ないし孫見たさに、親ばか孫ばかの相手もしなくてはならなくなった。別れて暮らした反動だとは分かってはいるが、可愛がりが子供を駄目にする可愛がり方だった。
『新しいドレス要らない?』
『昨日、お父様の1人に頂きました』
『じゃあ、バック………』
『それはお祖母様の1人から……』
『………じゃあ、お菓子……』
毎日毎日入れ替わり立ち替わり、勉強中だろうが関係がなかった。その都度アルメリア夫人に怒られショボンと帰る主君達に、メリッサは癒やされていた。だからといって、メリッサが今の状況を納得した訳ではない。
「…………仕方ない、て思いたくないなぁ……親の都合?てか国の都合?で何で自由を奪われる訳?幸せだったのに」
「………自由が無くなるから、自由で居させたかった、と考えてみませんか?メリッサ様」
「…………考えないもん」
「…………はぁ……」
自由を求めるメリッサにアルメリア夫人も少々困り顔だ。だが、メリッサのレールはもう決められてしまった。足掻くならどう足掻き、どうするかというだけ。
「メリッサ様………貴女にはご兄弟が居ないのです………居られたら、良かったかもしれませんが、陛下にはメリッサ様しか産まれませんでした。16歳で夫を迎え、メリッサ様が産まれたのは20歳……まだ産めない歳ではないのですが、もう子作りはお止めになるでしょう……」
「何で?」
「メリッサ様の女王教育に入るからです………今、メリッサ様は12歳最短で16歳にはご結婚して頂きます。その間に陛下に子が出来れば、メリッサ様の婚姻を延ばさなければなりません…………いくらその間、メリッサ様に好きな方が出来ても、子を作る事を許されず、ただ待つだけ……水神の力を宿した者が次の王と決められている以上、その神託は結婚の儀になりますから……後4年の間、陛下から数々の事を教わります。その間、陛下も子作りに集中等出来ませんので………」
「お母様に弟妹は?」
「弟君が居られます。弟君もお子が居られませんが………居られたなら、第二継承権は得られたかもしれません」
「……………え!?じゃ、全て私に国の未来が掛かってる、て事!?」
「はい」
メリッサは肩を落とす。自由もなく、今は毎日毎日毎日毎日勉強と稽古事。そして、アルメリア夫人と毎日顔を付き合わせ小言ばかり。そして、ウザいぐらいに両親達、祖父母達が顔を見せに来る。
メリッサも知っている。ゲーデル国が他国に襲われず、大きな災害も無いのは、水神の加護があるから、と、小さい内から聞かされてきた。田舎町だったが、学校もあり友達にも恵まれ、父では無かったが、商売の大変さを教わった。それを、メリッサ1人に未来が掛かっている。そしてそれが子孫を残さなければならない、だなんて誰が思うだろう。
「学校じゃ、そんなん教わらなかった……」
「王族の内部事情、簡単に教えられる訳ないでしょ、メリッサ様1人に国の存亡が掛かっているなら、メリッサ様を亡きものにすれば滅びるのですから………なので、1つの街全体でメリッサ様をお隠しし守ってきたのです」
「じゃ、じゃあ友達は?あの子達も護衛だった、て事?」
「いいえ、護衛兵達の子供達ですよ……今はもうその街等ありません。皆首都に帰ってきております」
「…………だから、帰れないんだ」
「そういう意味も含みます」
思い出深い街が無くなった。メリッサは急にホームシックに掛かる。
「皆に会えない?」
「首都に帰って来た者は会えるかもしれません…………ですが、メリッサ様が街に出れるかどうかは………」
「許可が要る?」
「…………はい」
もうその日は勉強に身が入らなかった。
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