5 / 10
仮想三国志~蒼遼伝~第四話
しおりを挟む
蒼遼が本営を後にして幕舎に戻る途中、一人の女性が馬の世話をしていた。韓遂の娘・韓玲であった。彼女は、父・韓遂の頼みで蒼遼の属する馬超軍に従軍していた。
「韓玲殿か。」
蒼遼が声を掛けると、韓玲は振り向き会釈をした。
「蒼遼様でしたか。私に、何か御用でしょうか?」
「ああ、そなたに聞きたいことがあってな。」
そう言うと、蒼遼は自分の馬を引いてきた。
「立ち話より、馬に乗って散歩しながら話そう。そなたも、その方が良かろう。」
「かしこまりました。お気遣いありがとうございます。」
二人は馬に跨ると、陣地内を周るように馬をゆっくり進めた。少し間を置いて蒼遼が口を開いた。
「韓玲殿、最初から疑問に思っていた故単刀直入に聞くが、なぜお父上の韓遂殿はそなたをこの戦に従軍させたのだろうか?」
すると、韓玲は少し考えたあと答えた。
「一つは父が言っていたように、私自身の意思です。戦場に出てみたいと言っていたのは本当ですから。ただ父が私を従軍することを許可した理由は他にもあります。それは、幼いころに亡くなった母と同じようにしたい、と思ったのではないでしょうか?」
「亡きお母様と同じように…?」
「はい。私の母は、騎馬民族・羌の出身です。羌族は幼き頃から男女関係なく馬に乗っていた、と父から聞いたことがあります。また、有事の際に自分の身を守れるよう、ある程度の武術は教えられていたようです。」
「なるほど。韓遂殿は、亡き奥方様の生き方を尊重するために韓玲殿を戦場に送った、というわけですか。」
「そうだと思います。しかし、もう一つ思い当たる理由があります。」
「もう一つの理由…それは?」
すると韓玲は、少し恥ずかしそうな表情をしながら言った。
「実は私、武芸が人一倍強いみたいで…。私の武がどの程度通用するか見てみたいのでしょう。もう一つは、私には男兄弟がおりません。お父様は私に武功を立てさせるため、戦場に送り出したのでしょう。あたかも、息子代わりにするかのように…。」
「そういうことでしたか。…それにしても、韓玲殿の武芸はそれ程のものなのですか?」
「どれくらいかはわかりません。ただ、父は馬岱様ぐらいあるとからかってくるんです…。」
「馬岱殿並み?それが仮に本当でしたら中々ですよ。並みの男子よりも強いかもしれません。」
韓玲は、顔を真っ赤にして語気を強めて言った。
「でも…、武芸が強いと言っても私だって女です!武芸が並みの男性より強いことをからかわなくったって…。」
そこまで言ったところで、韓鈴はハッとして蒼遼に謝罪した。
「も、申し訳ありません!蒼遼様にこのような愚痴を言ってしまうとは…。」
蒼遼は笑顔で首を振った。
「大丈夫ですよ、韓玲殿。あなたがそう思うのももっともですから…。でも韓玲殿、人には人それぞれの生き方があります。韓玲殿も周りに左右されずに自分なりの生き方を探してみは良いんじゃないでしょうか?」
そうこうしている内に、陣地を一周して先ほどの厩舎の前に来た。
「今日は、話に付き合ってくれてありがとう。明日の戦、共に戦い抜こう。」
そう言うと、蒼遼は馬から降りて自分の幕舎に向かった。韓玲は、その後ろ姿をずっと見つめていた。
「韓玲殿か。」
蒼遼が声を掛けると、韓玲は振り向き会釈をした。
「蒼遼様でしたか。私に、何か御用でしょうか?」
「ああ、そなたに聞きたいことがあってな。」
そう言うと、蒼遼は自分の馬を引いてきた。
「立ち話より、馬に乗って散歩しながら話そう。そなたも、その方が良かろう。」
「かしこまりました。お気遣いありがとうございます。」
二人は馬に跨ると、陣地内を周るように馬をゆっくり進めた。少し間を置いて蒼遼が口を開いた。
「韓玲殿、最初から疑問に思っていた故単刀直入に聞くが、なぜお父上の韓遂殿はそなたをこの戦に従軍させたのだろうか?」
すると、韓玲は少し考えたあと答えた。
「一つは父が言っていたように、私自身の意思です。戦場に出てみたいと言っていたのは本当ですから。ただ父が私を従軍することを許可した理由は他にもあります。それは、幼いころに亡くなった母と同じようにしたい、と思ったのではないでしょうか?」
「亡きお母様と同じように…?」
「はい。私の母は、騎馬民族・羌の出身です。羌族は幼き頃から男女関係なく馬に乗っていた、と父から聞いたことがあります。また、有事の際に自分の身を守れるよう、ある程度の武術は教えられていたようです。」
「なるほど。韓遂殿は、亡き奥方様の生き方を尊重するために韓玲殿を戦場に送った、というわけですか。」
「そうだと思います。しかし、もう一つ思い当たる理由があります。」
「もう一つの理由…それは?」
すると韓玲は、少し恥ずかしそうな表情をしながら言った。
「実は私、武芸が人一倍強いみたいで…。私の武がどの程度通用するか見てみたいのでしょう。もう一つは、私には男兄弟がおりません。お父様は私に武功を立てさせるため、戦場に送り出したのでしょう。あたかも、息子代わりにするかのように…。」
「そういうことでしたか。…それにしても、韓玲殿の武芸はそれ程のものなのですか?」
「どれくらいかはわかりません。ただ、父は馬岱様ぐらいあるとからかってくるんです…。」
「馬岱殿並み?それが仮に本当でしたら中々ですよ。並みの男子よりも強いかもしれません。」
韓玲は、顔を真っ赤にして語気を強めて言った。
「でも…、武芸が強いと言っても私だって女です!武芸が並みの男性より強いことをからかわなくったって…。」
そこまで言ったところで、韓鈴はハッとして蒼遼に謝罪した。
「も、申し訳ありません!蒼遼様にこのような愚痴を言ってしまうとは…。」
蒼遼は笑顔で首を振った。
「大丈夫ですよ、韓玲殿。あなたがそう思うのももっともですから…。でも韓玲殿、人には人それぞれの生き方があります。韓玲殿も周りに左右されずに自分なりの生き方を探してみは良いんじゃないでしょうか?」
そうこうしている内に、陣地を一周して先ほどの厩舎の前に来た。
「今日は、話に付き合ってくれてありがとう。明日の戦、共に戦い抜こう。」
そう言うと、蒼遼は馬から降りて自分の幕舎に向かった。韓玲は、その後ろ姿をずっと見つめていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
検非違使異聞 読星師
魔茶来
歴史・時代
京の「陰陽師の末裔」でありながら「検非違使」である主人公が、江戸時代を舞台にモフモフなネコ式神達と活躍する。
時代は江戸時代中期、六代将軍家宣の死後、後の将軍鍋松は朝廷から諱(イミナ)を与えられ七代将軍家継となり、さらに将軍家継の婚約者となったのは皇女である八十宮吉子内親王であった。
徳川幕府と朝廷が大きく接近した時期、今後の覇権を睨み朝廷から特殊任務を授けて裏検非違使佐官の読星師を江戸に差し向けた。
しかし、話は当初から思わぬ方向に進んで行く。
夕映え~武田勝頼の妻~
橘 ゆず
歴史・時代
天正十年(1582年)。
甲斐の国、天目山。
織田・徳川連合軍による甲州征伐によって新府を追われた武田勝頼は、起死回生をはかってわずかな家臣とともに岩殿城を目指していた。
そのかたわらには、五年前に相模の北条家から嫁いできた継室、十九歳の佐奈姫の姿があった。
武田勝頼公と、18歳年下の正室、北条夫人の最期の数日を描いたお話です。
コバルトの短編小説大賞「もう一歩」の作品です。
堤の高さ
戸沢一平
歴史・時代
葉山藩目付役高橋惣兵衛は妻を亡くしてやもめ暮らしをしている。晩酌が生き甲斐の「のんべえ」だが、そこにヨネという若い新しい下女が来た。
ヨネは言葉が不自由で人見知りも激しい、いわゆる変わった女であるが、物の寸法を即座に正確に言い当てる才能を持っていた。
折しも、藩では大規模な堤の建設を行なっていたが、その検査を担当していた藩士が死亡する事故が起こった。
医者による検死の結果、その藩士は殺された可能性が出て来た。
惣兵衛は目付役として真相を解明して行くが、次第に、この堤建設工事に関わる大規模な不正の疑惑が浮上して来る。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
四本目の矢
南雲遊火
歴史・時代
戦国大名、毛利元就。
中国地方を統一し、後に「謀神」とさえ言われた彼は、
彼の時代としては珍しく、大変な愛妻家としての一面を持ち、
また、彼同様歴史に名を遺す、優秀な三人の息子たちがいた。
しかし。
これは、素直になれないお年頃の「四人目の息子たち」の物語。
◆◇◆
※:2020/06/12 一部キャラクターの呼び方、名乗り方を変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる