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陽太郎の巣作り

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 そして数日が過ぎ、パーティ当日。 
 俺は斗貴哉と共にホテルに向かった。 

 俺は仕立ててもらったタキシードとウエストコートで、斗貴哉は以前仕立てたというタキシードにカマーバンド。お揃いのタイとチーフでウキウキと会場入りして、することといえば、花咲の義両親と一緒に会場を回って、会う人会う人全員に挨拶しまくるだけ。 

 とはいえ、花咲の家の人と一緒だし、挨拶する相手は政治家だのどっかの銀行の頭取だのってすげー人ばっかりで、さすがの俺もめちゃくちゃ緊張しちゃって、終始強張った笑顔を顔面に貼り付けて、テンプレばりの挨拶を繰り返すので精一杯。 

 途中、志久の両親や兄貴に会ったけどすごくよそよそしくて、ああ俺ってもう志久の人間じゃないんだなって実感しつつ、一通り挨拶を終えた。 

 そして義両親からも解放され、やっと今、会場を抜け出て、ヘトヘト状態で中庭に来たところだ。 

 庭はライトアップされて、幻想的な世界が広がっている。でもそれを眺め、斗貴哉と甘いムードに酔いしれる、なんて余裕は今の所ない。 


「陽太郎さん、大丈夫です?」 

「んーだいじょぶ……。でもちょっとだけそこに座っていい?」 

「もちろん。私も普段パーティには出ないので、疲れました」 


 普段パーティには出ない花咲のオメガに注がれる視線はやはり凄まじく、ほとんどの人が俺を通り越して斗貴哉を見ていた。 

 若いアルファの男を婿にした、年齢不詳の美しいオメガ、というのはやはり好奇心に火をつけるのだろう。俺という夫が側にいるのに、斗貴哉に向けられる好奇の目は、決して気持ちのいいものじゃなかった。 


「足は大丈夫ですか? 途中から歩きにくそうにしていましたが……」 


 実はちょっと踵とつま先が痛い。 

 挨拶回りは意外と歩く。案外狭く思えたこの会場も、収容人数100名超だそうで、その中をちょっとヒールのある新品の革靴でぐるぐると何度も周回して、座りたいのに椅子にも座れない状況というのは、結構辛かった。 


「もしかして靴擦れですか? ちょっと見せてください」 


 ベンチに座った俺の足元に、斗貴哉が跪く。 


「ちょ、ちょっといいって。みんなに見られるし、斗貴哉の服が汚れる」 

「ここは暗いから見えませんよ。あー……踵が。血が出ていますね」 


 俺の足を手に取って、斗貴哉が靴を脱がせる。そして靴下に滲んだ血を見つけると、そのきれいに整った眉を寄せた。絆創膏でもあれば解決するようなことだけど、ソックスガーターをしてるし、恥ずかしくてここじゃちょっと靴下は脱げない。 


「うーん、結構血が滲んでいるかも。これではさすがにもう歩けないでしょう。父か母に、先に帰ってもいいか確認します。ここで待っていてください」 


 返事を待たず斗貴哉は俺をその場に残し、早足で会場に戻っていった。 


「ふー」 


 ベンチに座ったまま、空を見上げて息をついた。 
 足は痛いが、靴を脱いでいると幾分か楽になった。 

 遠くで客たちのざわめきと音楽が聞こえる。でもここは静かで、見上げる夜空には星が点々と小さく煌めいている。 


「あー……星、久々に見たかも」 


 今日は疲れた。あんなにたくさん並んだ料理も俺の口に全然入らなかったし。斗貴哉が戻ってきたら家に帰れるといいな、そんでウチのコックにちょっと軽くつまめるようなものでも作ってもらおう。そんで軽めのシャンパンで今日のシメをして……。 

 そんなことをぼんやりと考えていたら、俺のすぐ横に人が立つ気配があった。 

 庭のライトアップを見に来た来賓かと思った俺は、失礼のないようすぐに靴を履き、挨拶をしようと立ち上がった。そして会釈だけでもと相手の顔のほうへ振り向いたとき、驚きのあまり一瞬体が硬直した。 
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