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 そこに現れた斗貴哉様は、豪奢で品のある細かな花の刺繍が入ったシルクのガウン姿で、長い髪は下ろして片側に流していた。 

 もう俺の心臓はバクバクと通り越して、止まってしまうんじゃないかってくらいの早鐘だったんだけど、それを斗貴哉様に知られないよう何でもないような顔をするので精一杯だった。 


「陽太郎さん、遅くなってしまって申し訳ありません」 

「ん、う、あ、いえ、はい、大丈夫です……はは」 


 そんな俺の姿に、斗貴哉様はふふふと花のように笑った。 


「緊張してらっしゃるんですね。私もそうですよ。こんなに若くて素敵な方と添えることができるなんて」 


 斗貴哉様がこちらへ近づいてくる。フワッといい匂いがして、あの麗しい顔が俺の前に……と思ったら、近づくにつれ顔の位置は目の前から斜め上になり、俺は少し見上げるようにしながら、なんだかちょっと違うぞってなっていた。 


(あれ、斗貴哉様こんなに背が高かったけ。もしかして俺のほうが小さい?) 


 俺はあんぐりと斗貴哉様の顔を見上げた。 

 これまでお互いの身長のことなんか意識したことなかったんだけど……。もしかして斗貴哉様は実は俺より身長高い? 考えてみれば斗貴哉様は、いつでもどこでも座っていた気がする。 

 見合いの時もそうだったけど、会うときはいつもちょっと離れたところにいて、こんなに間近で話すことなんかなかった。さすがに式の時は隣にいたけど、緊張しすぎてすぐ隣にいる斗貴哉様のことなんかじっくり見る余裕すらなかったし、それどころじゃなかった。 


 ちなみに俺は身長183cm。 

 それより高いってことは、190cmはありそう……。 


「どうかしましたか?」 


 不思議そうに、それでも美しい仕草で小首を傾げる斗貴哉様。 

 いや、背が高いくらいなんだ。男なんだし。 


「あ、いえ! 全然!? なんでもないです!」 

「ふふ、陽太郎さんは本当に可愛らしいですね。さ、ベッドにいきましょう、ね?」 

「は、はい!」 


 聞き惚れるほど綺麗に澄んだ少し低めの声。すっと伸びた長く細い手で手を握られて、俺の心は舞い上がった。 

 たぶんすっごい手のひら汗かいてると思う。 


 斗貴哉様に手汗を気づかれないだろうかとドキドキしながら、手を引かれて、俺は斗貴哉様とベッドに上った。 

 ベッドの上で向かい合った斗貴哉様は、薄暗い間接照明でもやっぱり綺麗で、ただボーッと目の前のその美貌を見つめていた。 


「陽太郎さんは、こういうこともしかして初めてですか」 

「え? あ、はい……」 


 しまった。 

 言ってから顔が熱くなった。これって俺は童貞ですって言ったようなものだ。 

 あーマジで一回どっかで童貞捨てとくべきだった! と激しく後悔する俺。 


「ふふ、それはまた可愛らしい」 

「え?」 


 ドギマギしていると斗貴哉様の綺麗な顔が近づいて、あ、これはキスされる! と思って俺は目をギュッと瞑った。 

 柔らかくてちょっと冷たい唇が俺の口に触れた。それからそっと手が伸びて、俺の体を斗貴哉様が抱き寄せた。 


 斗貴哉様はすごくいい匂いで、その上、思ったよりも体は筋肉質で力強くて……。 


(は? ちょっと待て。筋肉質で力強い?) 


 俺の頭にさらなる疑問符が浮かんだ。 


 斗貴哉様はオメガのはず。 

 確かに最近のオメガはベータと変わりないくらい、体型も安定してきたとは聞いていたけど、さすがにちょっと逞しすぎないか? 

 弱っちいヒカルはさておいても、オメガはどんなに鍛えても、あんまし筋肉つかないって聞いたし、何より斗貴哉様は病弱だったんじゃ……。 


 俺がそんなことを考えている間にも、斗貴哉様からのキスは執拗なものになっていく。上唇を吸われたと思ったら、角度を変えてまた口づけられ、いつの間にか斗貴哉様のリードで事が運ばれていく。 


「——あ、斗貴哉さ……え? ちょ」 


 なんとか俺が主導権を握らないとと、斗貴哉様を押し倒そうとするがビクともしない。 

 それどころか逆に押し倒されて、気がついたら俺はベッドの上に仰向けになり、斗貴哉様を見上げていた。 
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