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「なあ。あんたなんか香水つけてる?」
「——は?」
受験も一段落(俺はね)。もうそろそろ卒業かって時、階段ですれ違い様に宮前がいきなり声をかけてきた。
「つけてっけど何?」
普段ジロジロ見るだけで声なんかかけてこねーくせに。俺はイラッとして威圧して睨んだ。だが宮前は、俺の威圧にもどこ吹く風といったように、しれっとしている。こういうところもムカつく。
「——なんていうかその……甘い匂い。たまにつけてるよな。どこの?」
「はあ?」
俺がいつもつけてるのは、スマートな俺にピッタリな爽やかなシトラス系の香り。ブランドは変えても、匂いのイメージは統一してる。
確かにブランドによってはフルーティな甘い匂いのするヤツもあるけど、今日のは違う。ブランドは忘れたけど、どっちかっていうとウッディでクールな感じ。
だから甘い匂いって言われても、何言ってんだこいつって感じだよ。
「お前、鼻がおかしーんじゃないの? 甘い匂いのなんかつけてねーけど」
「……本当か。俺にはするんだが。——そういえばあんた大学どこいくんだ?」
人のことあんた呼ばわりすんじゃねーよ! と思いながら、「都内だよ」って答えた。
宮前は「ふーん」で終わり。
おい、どこの学校か聞かねーのかよ。
つかそもそもあいつは海外の大学行くんだろ? どこの大学だろーが自慢にもなんねーから、どこかって聞かれても言いたくねーし。
「結婚は?」
「はぁ?」
けっこんんん~~~~!?
なんでそんなプライベートなことまでコイツに言わなきゃなんねーんだよ!! ってブチ切れそうになりながらも、はたとそういやコイツは斗貴哉様とどうなったんだって思った。
(そういや噂で斗貴哉様と婚約したとは聞いたけど、その後どうなったのかとかは聞いてねーな)
斗貴哉様はもう30過ぎてるらしくて、子供を産むなら体力的にも早い方がいいからって話で婚約者を探してたんだよな。30才過ぎって言われちゃうとビビるけど、実物見ちゃうと全然ありなのがスゲーよな。
——でももう宮前のものなのか。
「……俺はまだしねーよ。大学出て、就職してからって決めてんだ。それまでは自由に過ごす。つかおめーこそ、斗貴哉様と結婚すんじゃねーのかよ」
”斗貴哉様と結婚”のあたりで、それまでほぼ無表情だった宮前の眉がピクリと動いた。
「——斗貴哉のこと知ってるのか。結婚は、……ちょっと先延ばしにしてもらってる。ちょっと確かめたいことがあってな」
(斗貴哉! 呼び捨てかよ!)
そんな当たり前のことにもイラッときた俺は、「じゃあな」って切り上げて階段を降りようとした。だがその瞬間、宮前はなんと俺の腕を掴んで、いきなり引き寄せた。
いきなりでびっくりし過ぎて固まった俺の首筋を、宮前が一瞬クンと嗅いだような気がした。
「な、何すんだよ!」
「近々あんたの家に行く。明日は土曜で休みだな。あんた明日は家にいるのか」
「は? い、いねえし! 明日は朝からデートで遠出すんだよ。一泊旅行だから明後日もいねーよ!」
「デート? 旅行? 恋人と、か」
「まあな。婚約者みてーなもんだよ。つか、離せよ!」
俺が手を振り解くと、思ったよりあっけなく奴は手を離した。
「てめー! 今度こんなことしたら許さねーからな! 覚えとけ」
しまった。俺としたことが漫画でよく見る負け犬の遠吠えみたいなことを言ってしまった。
だが宮前はそんなこと気にもせず、何かを言うこともなく、そのまま階段を上っていってしまった。
(あいつちょっと笑ってた)
なんだかもうすげー恥ずかしくなって、なんかもうあいつの息がかかった首とかもうなんか熱いし、よくわかんないけどイライラした俺はドタドタと音を立てて階段を降りていった。
その日の夜、俺はなんだか今日の宮前のことが頭から離れなくて、全然寝付けず、俺はベッドをゴロゴロ転がってた。
明日は土曜日で、ろくに相手してやれなかったヒカルの誕生日の穴埋めにと、卒業前旅行に行く予定だったりする。
ヒカルは結局、卒業後は進学せず、俺の家で婚約者としてのマナーを習ったり、一族のことを学んだりなど、この志久家に入るための教育をすることになった。だから卒業まで暇になったヒカルと、大学も余裕で推薦決まった俺とで韓国に旅行しようって話になったんだ。
飛行機もホテルもちゃんと俺が手配して、朝早くに出ようって俺がヒカルに言ったのに。
(くっそー宮前の奴、俺に興味なさそうだったのに、急になんなんだよ)
宮前とのことが、考えれば考えるほどなんだか恥ずかしくなって、ひとり悶々としていたら、翌朝起きたのは、ヒカルとの待ち合わせ時間から40分くらい過ぎた頃だった。
「——は?」
受験も一段落(俺はね)。もうそろそろ卒業かって時、階段ですれ違い様に宮前がいきなり声をかけてきた。
「つけてっけど何?」
普段ジロジロ見るだけで声なんかかけてこねーくせに。俺はイラッとして威圧して睨んだ。だが宮前は、俺の威圧にもどこ吹く風といったように、しれっとしている。こういうところもムカつく。
「——なんていうかその……甘い匂い。たまにつけてるよな。どこの?」
「はあ?」
俺がいつもつけてるのは、スマートな俺にピッタリな爽やかなシトラス系の香り。ブランドは変えても、匂いのイメージは統一してる。
確かにブランドによってはフルーティな甘い匂いのするヤツもあるけど、今日のは違う。ブランドは忘れたけど、どっちかっていうとウッディでクールな感じ。
だから甘い匂いって言われても、何言ってんだこいつって感じだよ。
「お前、鼻がおかしーんじゃないの? 甘い匂いのなんかつけてねーけど」
「……本当か。俺にはするんだが。——そういえばあんた大学どこいくんだ?」
人のことあんた呼ばわりすんじゃねーよ! と思いながら、「都内だよ」って答えた。
宮前は「ふーん」で終わり。
おい、どこの学校か聞かねーのかよ。
つかそもそもあいつは海外の大学行くんだろ? どこの大学だろーが自慢にもなんねーから、どこかって聞かれても言いたくねーし。
「結婚は?」
「はぁ?」
けっこんんん~~~~!?
なんでそんなプライベートなことまでコイツに言わなきゃなんねーんだよ!! ってブチ切れそうになりながらも、はたとそういやコイツは斗貴哉様とどうなったんだって思った。
(そういや噂で斗貴哉様と婚約したとは聞いたけど、その後どうなったのかとかは聞いてねーな)
斗貴哉様はもう30過ぎてるらしくて、子供を産むなら体力的にも早い方がいいからって話で婚約者を探してたんだよな。30才過ぎって言われちゃうとビビるけど、実物見ちゃうと全然ありなのがスゲーよな。
——でももう宮前のものなのか。
「……俺はまだしねーよ。大学出て、就職してからって決めてんだ。それまでは自由に過ごす。つかおめーこそ、斗貴哉様と結婚すんじゃねーのかよ」
”斗貴哉様と結婚”のあたりで、それまでほぼ無表情だった宮前の眉がピクリと動いた。
「——斗貴哉のこと知ってるのか。結婚は、……ちょっと先延ばしにしてもらってる。ちょっと確かめたいことがあってな」
(斗貴哉! 呼び捨てかよ!)
そんな当たり前のことにもイラッときた俺は、「じゃあな」って切り上げて階段を降りようとした。だがその瞬間、宮前はなんと俺の腕を掴んで、いきなり引き寄せた。
いきなりでびっくりし過ぎて固まった俺の首筋を、宮前が一瞬クンと嗅いだような気がした。
「な、何すんだよ!」
「近々あんたの家に行く。明日は土曜で休みだな。あんた明日は家にいるのか」
「は? い、いねえし! 明日は朝からデートで遠出すんだよ。一泊旅行だから明後日もいねーよ!」
「デート? 旅行? 恋人と、か」
「まあな。婚約者みてーなもんだよ。つか、離せよ!」
俺が手を振り解くと、思ったよりあっけなく奴は手を離した。
「てめー! 今度こんなことしたら許さねーからな! 覚えとけ」
しまった。俺としたことが漫画でよく見る負け犬の遠吠えみたいなことを言ってしまった。
だが宮前はそんなこと気にもせず、何かを言うこともなく、そのまま階段を上っていってしまった。
(あいつちょっと笑ってた)
なんだかもうすげー恥ずかしくなって、なんかもうあいつの息がかかった首とかもうなんか熱いし、よくわかんないけどイライラした俺はドタドタと音を立てて階段を降りていった。
その日の夜、俺はなんだか今日の宮前のことが頭から離れなくて、全然寝付けず、俺はベッドをゴロゴロ転がってた。
明日は土曜日で、ろくに相手してやれなかったヒカルの誕生日の穴埋めにと、卒業前旅行に行く予定だったりする。
ヒカルは結局、卒業後は進学せず、俺の家で婚約者としてのマナーを習ったり、一族のことを学んだりなど、この志久家に入るための教育をすることになった。だから卒業まで暇になったヒカルと、大学も余裕で推薦決まった俺とで韓国に旅行しようって話になったんだ。
飛行機もホテルもちゃんと俺が手配して、朝早くに出ようって俺がヒカルに言ったのに。
(くっそー宮前の奴、俺に興味なさそうだったのに、急になんなんだよ)
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