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「ねぇ、ヨウくん。もうすぐ僕の誕生日なんだけど」
「んー? あー、覚えてるって」
あのパーティから数日経ち、いつものようにヒカルと学校帰りに最寄りの駅で待ちあわせて一緒に帰る途中、ヒカルが俺にそう話を切り出した。
婚約者のヒカルとは、通う学校は違えど小学校からずっと一緒にいて、その流れで婚約までしたくらいなんだから、誕生日くらい俺だって覚えてる。
「んで?」
「え、と、今年はさ、その日僕といっしょに映画行かないかなって。それで、その後はさ……」
俺の顔色をうかがいながら、口をモゴモゴと動かすヒカル。
付き合ってるんだから誕生日に一緒にいるなんて当たり前だろ! ……と言いたいところなんだけど、ちょっとその気になれないでいた。
その原因は、あのパーティで出会った花咲斗貴哉のこと。
俺はいまだに美しい彼のことが心に残っていて、気持ちが落ち着かず、それどころじゃなかった。
——あの日、親父に背中を押されて挨拶をした。斗貴哉様は凛とした美しい花のような人で、俺のぎこちない挨拶にも優雅に微笑んでくれた。
別に彼とどうこうしたい訳じゃない。でもあの日の斗貴哉様のことで頭がいっぱいで、俺の気持ちは揺らいでて、もうすぐヒカルの誕生日だっていうのに、わざとその話題に触れずスルーしていた。
(すげー美人だったし、ちょっとした所作とか仕草もキレーだったし。それだけじゃなくって、オーラというか雰囲気がなんか圧倒されるというか)
俺の隣で精一杯の愛想をするヒカルの顔を見た。
毎回毎回、どんなに俺がそっけない態度を取っても、怒りもせずニコニコ顔のヒカル。
(やっぱヒカルとは全然違げーよなー……)
俺はそんなヒカルに、ため息をついた。
◇
『いつもニコニコのヒカルくん』
それがヒカルのあだ名。本当にいつもニコニコしてるから、近所のおばちゃんたちからそう呼ばれるようになった。
こいつがマジで怒ったり泣いたりしたのを、俺も見たことない。まぁ出会ったばっかりの頃はよく泣いてたけど、いつの間にか泣かなくなって、大きくなってからは見たことない。
怒られようが、いじめられようが、とにかくどんな理不尽なことがあっても、ヒカルはいつもニコニコしてる。
ヒカルがオメガであることを周囲にカミングアウトしたのは、高校に入ってからだ。俺との婚約のこともあって公にすることになったのだ。
だからそれまであったヒカルへのいじめは、" オメガだから" というわけではなかった。
小学校から名家の子息令嬢が通う市立の学校に通っていた俺は、公立の学校に通うヒカルが、まさかいじめられているとは思ってもみなかった。
(だっていつもニコニコしてるだぜ? 何を聞いても「だいじょーぶ!」って言うしさー)
中学の時、ある日たまたま学校終わりに近所をぶらぶらしていたら、偶然いじめの現場に遭遇し、俺はそれで初めてヒカルがいじめられていることを知った。
カバンの中身を道にぶちまけられて、教科書を拾おうとすると肩を足で蹴られ、それでも笑ってるヒカル。
さすがの俺も腹が立って、思わずそいつらに向かっていったが、ヒカルが「大丈夫だから」って俺を止めた。
オメガであることをカミングアウトしてなかったヒカルは、その軟弱で女々しい見た目から、よくいじめを受けていたらしい。
いじめだけじゃない。他にも小さなころから変態に付け狙われたり、いたずらされそうになったりしたこともあったらしいし、オメガだとバレていたら、もっと酷い目にあっていた可能性だってある。だから、当時はそれで正解だったのかもしれない。
それなのにヒカルはニコニコして、その状況を受け入れてた。
ヒートがが来るまでは平気だしってヒカルは言ってたけど、そんなワケねーだろって今の俺なら思う。でも正義感あふれる当時の俺は、そんなヒカルを守ってやんなきゃって思ったらしい。
だからあの後すぐくらいに、俺たちは付き合い出した。
それにあの頃はヒカル以外のオメガも見たことなかったし、まだ純粋だった俺は『オメガはアルファが守ってやらなきゃならない存在』って信じてたしな。
『不憫で弱っちくて可哀想なオメガ』
それが俺の中にあるヒカルのイメージであり、世の中すべてのオメガへのイメージだった。
だから斗貴哉様を見たときの衝撃は凄かった。
周囲のそうそうたるアルファが霞んでしまうほどの、高貴で美しいオメガ。
俺の中でのオメガという性への認識が大きく覆ったほどだ。
……俺とあの人が”運命の番”だったら良かった。そしたら婚約者なんか、いてもいなくてもそんなの関係なく結婚できたのになーなんて、さすがにそんな酷いこと、いくらニコニコのヒカルにでも、絶対に聞かせらんないけどね。
「んー? あー、覚えてるって」
あのパーティから数日経ち、いつものようにヒカルと学校帰りに最寄りの駅で待ちあわせて一緒に帰る途中、ヒカルが俺にそう話を切り出した。
婚約者のヒカルとは、通う学校は違えど小学校からずっと一緒にいて、その流れで婚約までしたくらいなんだから、誕生日くらい俺だって覚えてる。
「んで?」
「え、と、今年はさ、その日僕といっしょに映画行かないかなって。それで、その後はさ……」
俺の顔色をうかがいながら、口をモゴモゴと動かすヒカル。
付き合ってるんだから誕生日に一緒にいるなんて当たり前だろ! ……と言いたいところなんだけど、ちょっとその気になれないでいた。
その原因は、あのパーティで出会った花咲斗貴哉のこと。
俺はいまだに美しい彼のことが心に残っていて、気持ちが落ち着かず、それどころじゃなかった。
——あの日、親父に背中を押されて挨拶をした。斗貴哉様は凛とした美しい花のような人で、俺のぎこちない挨拶にも優雅に微笑んでくれた。
別に彼とどうこうしたい訳じゃない。でもあの日の斗貴哉様のことで頭がいっぱいで、俺の気持ちは揺らいでて、もうすぐヒカルの誕生日だっていうのに、わざとその話題に触れずスルーしていた。
(すげー美人だったし、ちょっとした所作とか仕草もキレーだったし。それだけじゃなくって、オーラというか雰囲気がなんか圧倒されるというか)
俺の隣で精一杯の愛想をするヒカルの顔を見た。
毎回毎回、どんなに俺がそっけない態度を取っても、怒りもせずニコニコ顔のヒカル。
(やっぱヒカルとは全然違げーよなー……)
俺はそんなヒカルに、ため息をついた。
◇
『いつもニコニコのヒカルくん』
それがヒカルのあだ名。本当にいつもニコニコしてるから、近所のおばちゃんたちからそう呼ばれるようになった。
こいつがマジで怒ったり泣いたりしたのを、俺も見たことない。まぁ出会ったばっかりの頃はよく泣いてたけど、いつの間にか泣かなくなって、大きくなってからは見たことない。
怒られようが、いじめられようが、とにかくどんな理不尽なことがあっても、ヒカルはいつもニコニコしてる。
ヒカルがオメガであることを周囲にカミングアウトしたのは、高校に入ってからだ。俺との婚約のこともあって公にすることになったのだ。
だからそれまであったヒカルへのいじめは、" オメガだから" というわけではなかった。
小学校から名家の子息令嬢が通う市立の学校に通っていた俺は、公立の学校に通うヒカルが、まさかいじめられているとは思ってもみなかった。
(だっていつもニコニコしてるだぜ? 何を聞いても「だいじょーぶ!」って言うしさー)
中学の時、ある日たまたま学校終わりに近所をぶらぶらしていたら、偶然いじめの現場に遭遇し、俺はそれで初めてヒカルがいじめられていることを知った。
カバンの中身を道にぶちまけられて、教科書を拾おうとすると肩を足で蹴られ、それでも笑ってるヒカル。
さすがの俺も腹が立って、思わずそいつらに向かっていったが、ヒカルが「大丈夫だから」って俺を止めた。
オメガであることをカミングアウトしてなかったヒカルは、その軟弱で女々しい見た目から、よくいじめを受けていたらしい。
いじめだけじゃない。他にも小さなころから変態に付け狙われたり、いたずらされそうになったりしたこともあったらしいし、オメガだとバレていたら、もっと酷い目にあっていた可能性だってある。だから、当時はそれで正解だったのかもしれない。
それなのにヒカルはニコニコして、その状況を受け入れてた。
ヒートがが来るまでは平気だしってヒカルは言ってたけど、そんなワケねーだろって今の俺なら思う。でも正義感あふれる当時の俺は、そんなヒカルを守ってやんなきゃって思ったらしい。
だからあの後すぐくらいに、俺たちは付き合い出した。
それにあの頃はヒカル以外のオメガも見たことなかったし、まだ純粋だった俺は『オメガはアルファが守ってやらなきゃならない存在』って信じてたしな。
『不憫で弱っちくて可哀想なオメガ』
それが俺の中にあるヒカルのイメージであり、世の中すべてのオメガへのイメージだった。
だから斗貴哉様を見たときの衝撃は凄かった。
周囲のそうそうたるアルファが霞んでしまうほどの、高貴で美しいオメガ。
俺の中でのオメガという性への認識が大きく覆ったほどだ。
……俺とあの人が”運命の番”だったら良かった。そしたら婚約者なんか、いてもいなくてもそんなの関係なく結婚できたのになーなんて、さすがにそんな酷いこと、いくらニコニコのヒカルにでも、絶対に聞かせらんないけどね。
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