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ダイチの本心

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「まあたまにはお前からデートにでも誘ってみりゃいいじゃん。映画でもなんでもさ。あいつ20歳過ぎてんだし、酒飲みに行ってもいいんじゃねーのか」 

「酒かー」 


 ダイチから酒の話が出たことがない。彼は飲み会もほとんど断っているみたいだし、飲めるのか疑問だ。 


「酒に酔ったら、お前に手を出してくるかもしれねーぞ」 


 ニヤニヤしながら、グラスに残った酒を佐藤が一気に呷り、すいませーんと店員を呼び、つまみと酒を追加した。 
 
 確かにセックスとまではいかないかもしれないけど、キスくらいはゆっくりできるかもしれないな。 


「ほら、これ。俺の行きつけのラブホ。ここラブホっぽくなくていいぞ。設備もきれいだし、同性同士でも入れる」 


 佐藤が財布からカードを取り出して俺に見せた。一見ビジネスホテル風のデザインだけど、ここもラブホなんだな。 


「ここなら駅のすぐ裏あたりだから、歩いてでもいける。この辺で飲んで、ちょっと酔っちゃった~休んでいこ♡とかできるぞ」 

「ぶっ! バカかお前は。俺がそんなこと言うわけねーだろ」 

「ヒヒ匕、まあ相手は童貞くんなんだろ? お前がリードしてやんないとな!」 

「お、お前、本当にバカだな」 

「まあうまくいくことを祈ってるぜ。……おっと、つまみがきた来た! イカの燻製焼きお前も食べろよ」 

「お、うまそうだなー」 




 そんなふうに佐藤に後押し(?)され、俺は勇気を振り絞り、ダイチをデートに誘うことにした。 

 自分からデートに誘うのも久々で、どうにかそれとない自然な感じを装いつつお誘いをしてみたら、意外にもダイチはあっさりOKをくれて、ついこの間とうとう初デート! ではあったんだけど…… 




「はぁ? んで、結局映画観て終わっただけ?」 

「……うん」 

「ぶっ、マジか」 

「もう~! 笑い事じゃないんだよ」 


 駅で待ち合わせして、駅前の映画館でダイチの観たいと言っていた最近話題のSF映画を観たところまでは良かった。 

 その後カフェでお茶をして映画の感想を言い合って、さあ晩飯でも一緒にってところで、ダイチが『ロッシュが待ってるでしょうから』ってあっさりと帰ってしまったのだ。 

 ホテルに誘うどころか、一緒に酒を飲むことすらできなかったというわけだ。 


「いやー、そのダイチくんって子は、まじめくんだな~」 


 この前とは違う居酒屋で、ビールを飲みながらニヤニヤ笑う佐藤を横目で見ながら、俺はヤケクソ気味に次々と枝豆を口に放り込んだ。 


「外を歩いているときに手をつなぎたいとか、そういうのは別にいいんだよ。でも映画中もさ、こう、ちょっと手が触れるとかそういうのもないんだよ。なんだかさー、デートなのこれ? みたいなさ。ただおっさんと大学生が、一緒に映画観ただけじゃんって」 


 ……初めて2人きりのデートだーなんて浮かれてたの俺だけだったのかなって、なんだかむなしかったんだよな。 


「映画代はユウジの奢りか?」 

「まあね。俺がネットで席取ったし。でも映画館でのコーラとカフェのコーヒーは、ダイチが奢ってくれたよ。俺はいいって言ったんだけどね」 

「へー。そういうとこはちゃんとしてんな。で、まじめくんは、真面目にお話して帰っちゃったのね」 

「……あーダイチと俺、本当は付き合ってないのかなー。告白されたと思ったのは、俺の思い違いなわけ?」 

「でも好きだって言われたんだろ?」 

「うん。だからこれからよろしくって返事をしたわけだし」 


 佐藤は「うーん」と何かを考えるような素振りで、グラスに残ったビールに口を付けた。 
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